この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。
労働法改革って、つまりは何なんですか?
「日本を豊かで幸せにする改革」と安倍さんは考えているんでしょうね。
それはつまり「1人あたりの生産性を上げる」ってことですよね?
そうです。1人あたりの生産性は現在21位ですから。
先進国で21位ですか?
そうです。1人あたりの生産性はG7の中ではずっと最下位です。
でもGDP総額なら世界3位ですよね?
そうです。確かに、国家の力っていうのは「1人あたりの生産性」ではなくて「GDPの総額」なんですよ。
そうですよね。なのになぜ、そこまで「1人当たりの生産性」にこだわるんですか?
政府がこだわっているのは、あくまでも総額としてのGDPだと思います。それこそが国力を表す数字であり、政府の力でもありますから。
そうですよね。
ただ、その数字を維持して行くすべがないんですよ。単純に、人数が減って行きますから。だから国力が維持できない。
国力っていうのは、国際社会における日本政府の影響力でもありますよね?
そのとおりです。だから彼らはその数字にこだわるわけです。
ちなみに、国力というのは、具体的にはどう影響するんですか?
たとえば世界には「日本語を使ってる人」って、すごく少ないですよね?
はい。
じゃあ、なぜわざわざ日本に来て、この面倒臭い日本語を使って商売をしてるのか?
やっぱりGDPが大きいからですか?
そうです。実際、GDPが小さい国は、英語に支配されちゃってますよね?
そうなんですか?
「英語使えよ、おまえら」「使わないんだったら商売しないぞ」みたいな感じで、英語を使わされてる。
なるほど。でも日本は違うと。
日本くらいのGDPがあると「日本で商売したいな」と思ってくれるので、無理してでも日本語を使ってくれる。
なるほど。
言い換えれば「大きいから相手にしてくれる」ということ。だから、小さくなったら相手にされない。
ということは「1人ひとりの幸せ」というよりは、国家としての力関係を考えてGDP総額を維持したい、そのために生産性を上げたいと?
上げるしか、ないんです。他に方法がないので。
なるほど。上場企業の社長が時価総額で評価されるように、国家元首はGDP総額で評価されるわけですね?
そうです。
だから、これは「絶対にやらないといけない」ことだと。
政府としたら、絶対に譲れないラインでしょうね。
なるほど。それで政府は「1人あたりの生産性」を上げるために、何をやろうとしてるんですか?
労働法の改正です。
まず「残業をやめろ」。そして「休みを増やせ」と。
はい、そのとおり。
でも、そんなにすんなり行くんですか?
行かないでしょうね。
ですよね?
だから無理やり、行かせるんですよ。
どういうことですか?
まず、新しいルールを決める。
新しいルール?
はい。サッカーに例えるなら、これまでは「何時間でもいいから点が入れば勝ち」というルールだったわけです。
なるほど。そのルールが変わると。
はい。「この時間内に点が取れなければ、負けです」というルールに変わった。
も、いきなり「ルール変更」なんてズルいですよね。
じつは元々、労働法っていうのは、こういうルールなんですよ。
え!そうなんですか?
はい。ただ誰も、守る人がいなかっただけ。
どうして、守らなかったんですか?
罰則がなかったからです。
なるほど。「赤信号を歩いて渡る」くらいの感覚だったんですね?
まあ、そんな感じです。
では、罰則が強化されると?
はい。指導に強制力もありますし、逮捕されるケースもあります。
恐ろしい。
それだけ政府は、本気だということです。
もう、見逃してくれないと?
はい。
でも、厳しくなったからって、守れるんですかね?そのルール。
いや、無理でしょうね。2〜3割の会社は、どう考えても守れないです。
だったら、どうすればいいんですか?
だから、「このルールで経営できないなら、やめてください」ってことですよ。
え!潰してしまう気ですか?
まあ、もう少し柔らかく言えば「潰れてもいいよ」ってことです。
そんなの、柔らかく言ったって同じですよ!
そうですね。でも柔らかく言ってるから、多くの経営者は気がついていない。
絶対に気がついてませんよ。そんな一大事だなんて。
あと半年もしたら、みんな焦り出しますよ。
どうしたら、いいんですか?まずは、残業代をちゃんと払えば大丈夫ですか?
それすら払ってないところが、ありますからね。
「残業代なんか払ったら潰れるよ」みたいな会社、周りにたくさんありますよ。
もはや、そんなレベルは論外ですね。
論外ですか?
はい、残業代を払うのは当然として、まずはその時間の管理です。
どう管理したら、いいんですか?
30分単位で残業をつけるとか、本来だめなんですよ。法律は。
え!そうなんですか?
本当は1分単位でつけないといけないんです。
1分単位!
だって今は、会社によってマチマチじゃないですか。6時に仕事終わって7時から残業つける会社もあれば、1分単位でつけてる会社もある。
確かに、かなりマチマチですね。
会社によって、ぜんぜんルールが違う。だから、まずこれを統一する。
なるほど。すべての会社が1分単位になると。
そうです。
そういうルール改正って、顧問社労士さんはしっかり教えてるんですか?久野さんは教えてるんですか?
もちろん教えてます。ただ、「1分ですよ」「30分ではダメですよ」って言うと「融通が利かない社労士」みたいに思われることもありますね。
確かに。そういう社長多いですよね。「税金をちょろまかしてくれるのが、いい税理士だ」みたいな。
社労士にも「労働法をユルくする」とか「すり抜けるコツ」みたいなのを、期待してる人は多いです。
でも、それはもう無理だと。
これは何度も言ってるんですが、今回は政府は本気ですから。
本気で潰しにくる?
潰れてもいいよ、と。
だから、柔らかく言っても意味ないです。
久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は地元である岐阜県多治見市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。