第12回「無知という、最後の砦」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第12回「無知という、最後の砦」

安田

「生産性の低い会社は、淘汰されていく」っていうのが、だんだん常識化してきましたね。

久野

都心部はそうですが、地方はまだまだですよ。

安田

これだけ騒がれているのに?

久野

はい。

安田

2〜3割は淘汰されるって、言われてますけど。地方では、まだ余裕があるってことですか?

久野

余裕っていうよりも、経営者が「状況を分かってない」ってだけですね。

安田

状況を分かってない?

久野

たとえば「人が採れないですね」みたいな話になった時、「そうなの?」みたいな。

安田

いまどき、そんな人いないでしょ!

久野

いやいや。「うちはまだ本気を出してないから」みたいな。

安田

本気出してない?プータローの言い訳じゃないんですから。

久野

でも「採用にお金を出したことがない人」って、そういう感覚なんですよ。

安田

そういう会社って黒字なんですか?

久野

意外と黒字なんですよ。今のところは。

安田

黒字だから危機感がないってことですか?

久野

たとえば現場を持たない、営業マンだけの建設業ってあるじゃないですか。

安田

入札だけして、よそに振ってるみたいな?

久野

そういう業態でも「うちは、女性は駄目だ」とか、決めつけてたりしますね。

安田

なぜ駄目なんですか?

久野

男の世界だから。

安田

新聞読まないんですか、そういう人って?20代の方がよっぽど危機感持ってますよ。

久野

危機感持ってないです。ただ、逆に言うと、幸せですよね。

安田

なにが幸せなんですか?

久野

この人「何もやらなかったから、今生きてるんだな」って人がいるんですよ。

安田

何もやらなかったから、生きてる?

久野

チェレンジするのって、リスクもあるじゃないですか。

安田

そりゃあ、当然ですよね。でもやるしかない。

久野

じつは「何もしなかったがために生き残った」みたいな人って、一定数いるんですよ。

安田

余計なことをしなかったから、生き残ってこれたと?

久野

そういう発想なんでしょうね。次の10年は「ないな」と思いますけど。

安田

「余計なことをしない癖」が、付いてるってことですか?

久野

癖が付いてるとも言えるし、「余計なことしてないこと」に気付いてないとも言える。

安田

たとえば、お金をかけて採用したことがないとか?

久野

そうです。

安田

縁故採用だけで、やってこれたと?そんな人いるんですか?今時。

久野

います。

安田

そういう会社って、集客とかマーケティングは、どうしてるんですか?

久野

飲み会に行って、ガーって仲良くなって、物が売れちゃうみたいな。

安田

そんな世界、まだあるんですか?

久野

うちの地元、まだ結構あります。

安田

なるほど。だから危機感がないと?

久野

そうですね。象徴としては、スマホを持ってないこと。

安田

スマホ持ってない。じゃあ、パソコンも持ってないんですか?

久野

パソコン苦手ですね。

安田

だって、パソコン使えるんだったら、スマホ使えますよね、普通。

久野

スマホのほうが簡単ですからね。

安田

そうですよね。ガラケーのほうが「かえって難しくないか?」って気がします。

久野

基本的に、新しいものにチャレンジしないんですよ。

安田

それでガラケーを使い続けていると?

久野

ガラケー出てきた瞬間に、僕らも「営業するのやめとこう」みたいになります。

安田

ひとつのバロメーターに、なってるってことですね。

久野

そういう人は、人に対する考え方とか、全てがバージョンアップしてないんですよ。

安田

人に対する考えって、たとえばどんな?

久野

採用って、今はどっちかっていうと「来てもらう」って感覚じゃないですか。

安田

はい。

久野

でも「雇ってやってる」みたいな。

安田

今時そんな人いるんですか?

久野

います。

安田

じゃ、社員さんにも、結構偉そうなんですか?

久野

はい。「給料を払ってやってる」と思ってるから。

安田

辞めちゃいませんか?社員さん。

久野

辞めても「あいつらは、根性がなかった」とか、そういう感じですね。

安田

でも、辞めたら困るでしょ?

久野

じつは、そんなにやめないんですよ。

安田

どうして辞めないんですか?

久野

ひとつは、恐怖で追い込んでるから。

安田

怖くて、辞めると言えない?

久野

はい。それと、社員の方が勉強不足なケースもあります。

安田

新聞読まないから、今の買い手市場を知らないと?

久野

ローマの平和みたいな状態。外部を知らないから。

安田

新聞読む暇がないほど、忙しいってことですか?

久野

空いた時間に、新聞を読んだり勉強する人は稀じゃないですか?

安田

なるほど。

久野

あとは「お世話になってる」とか「雇ってもらってる」みたいな感覚が、まだ一部には残ってますね。

安田

そんなに偉そうにされても?

久野

はい。

安田

じゃあ「ニッチな社員」と「ニッチな経営者」とで、最後の牙城を守ってる?

久野

本当にそんな感じですよ。

安田

社員さん、嫌にならないんですかね?

久野

不思議なんですけど、社長から「死ね」とか「帰れ」とか言われても、帰らないんですよ。

安田

ある意味、凄い洗脳ですね。

久野

はい。

安田

でも、今回の法律改正って、社員がオッケーと言っても、駄目なわけでしょ?

久野

ダメです。労働時間も、有給休暇も。

安田

そうですよね。だから、いずれそういう会社って、存在できなくなりますよね?

久野

間違いないです。

安田

順番は、どっちが先だと思います?社員が辞めるのが先か、それとも利益が上がらなくなるのが先か。

久野

労働法で利益が出なくなって、企業が廃業した結果、社員が溢れ出てくる。それがこの法改正の狙いですから。

安田

ギリギリまで、辞めないと?

久野

やっぱり、周り見てても、マイホームを買う、子供を塾に行かせてる、もうこれ辞められない。

安田

でも、辞めたって無職になるわけじゃないでしょ?転職したら逆に収入増えるかもしれませんよ。

久野

奥さんからの圧がすごいんですよ。仕事がなくなることが、とにかく不安。

安田

大企業だったら分かりますけど。中小企業でも「辞めないで」って奥さん、多いんですか?

久野

日経新聞を読んでるわけじゃないし。閉ざされた空間の中でやってるので。

安田

これからも奥さんが、新聞を読まないことを願うばかりですね


久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は地元である岐阜県多治見市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

感想・著者への質問はこちらから