第24回「時間管理が甘い会社はもうアウト?」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第24回「時間管理が甘い会社はもうアウト?」

安田

未払い残業代の時効が、延長されるかもしれないって聞いたんですけど。

久野

そうですね。今は時効が2年です。

安田

時効が2年ということは、たとえば先月辞めた人が「過去2年分の残業代」を請求してくるってことですよね。

久野

請求するのは何年分でもいいんですけど。

安田

請求しても、今のところ2年より前は時効になるということですね。

久野

そうです。

安田

なるほど。未払い残業代の請求って、実際にはあるんですか。

久野

ありますね。最近すごく増えてる事案です。

安田

どのぐらいあるんですか。

久野

ウチのクライアントでいうと月1件ぐらい請求がきてます。

安田

じゃあ、そもそも未払い残業代があったということですね。

久野

金額ベースでいうと、未払い残業のない会社ってほとんどないような気がします。

安田

「月〇〇時間までの残業代は込みです」という初任給表示が多いんですけど、最近。それはOKなんですか。

久野

それが有効かどうかってのも、今、争点になってるところです。

安田

え?「初任給には月20時間の残業代が含まれてます。それを超えたら払います」みたいなのは、駄目なんですか?

久野

基本的にはオッケーなんですけど。条件として就業規則に明記しなきゃいけなくて。

安田

じゃあ明記しておけば問題なしと。

久野

その上で雇用契約書にも明記して、入社時に20時間まで残業つきませんって説明しなきゃいけない。

安田

なるほど。

久野

さらに毎月の給与明細にも「これが残業代ですよ」って明記にしなきゃいけない。

安田

なかなか面倒ですね。

久野

あと最近要件が加わったのは、ちゃんと時間集計しなきゃいけないってこと。

安田

時間集計?それはタイムカードってことですか。

久野

要は、労働時間も計算せずに「込み込みだから」みたいな感じで、払わない会社って結構あるじゃないですか。

安田

今どきそんな会社あるんですか?

久野

結構あります。でも一番まずいのは、はじめの三つのところ。

安田

明記してないってことですね。

久野

就業規則に書いてない、雇用契約書がない、給与明細にも表示してない。そうなると「固定残業そのものを知りませんでした」って主張してくる人がいるんですよ。

安田

なるほど。込み込みの説明なんか受けてないよと。

久野

はい。だから全額払えと。

安田

たとえば「マイナビの採用情報に書いてある」みたいなのは駄目?

久野

知らなかったって言われたら終わっちゃうので。給与明細に書いてあれば「さすがに知らなかったはないですよね」って言える。

安田

やっぱ、ちゃんと社労士さんに相談しないと、まずいってことですね。

久野

まずいでしょうね。とくにこれからは。

安田

それは社労士さんだったら誰でも知ってることなんですか?

久野

社労士だったら知ってると思いますが、実務的にやれてるかどうかは別問題ですね。

安田

ちなみに未払い残業って、辞めた後に請求してくる人多いじゃないですか。今、働いてる人は請求できないんですか。

久野

できますよ。できますけど気まずくないですか。

安田

気まずいですけど。言ってくる人もいるのかなと。

久野

もちろん言ってくるケースありますよ。弁護士を使ってというのは、さすがにあまりないですけど。

安田

言ってきたら普通は払うんですか。

久野

主張が正しければ「払ったほうがいいですよ」って言いますね、私は。

安田

でも未払い残業の時効が5年になったら大変ですよね。

久野

かなり大変ですよ。たぶん潰れる会社も出てくる。

安田

そうですよね。1人が言い始めたら、どんどん出てきそうですけど。

久野

ずっとその会社にいるという前提で、我慢してる人が多いんですよ。だから会社に嫌気がさした瞬間に一斉に請求してくることはあり得る。

安田

じゃあ離職率の高い会社とかは、かなりまずいですね。

久野

まずいでしょうね。

安田

たとえば「10人中1人だけ残業代を払ってない」なんてことは、ないですよね。

久野

はい。払ってない会社は全員払ってないです。

安田

でも辞めた人全員が請求してくるわけじゃないですよね?

久野

大体1人ですね。

安田

でも1人いるってことは、他にも払ってない人がいっぱいいる可能性ありますよね?

久野

ありますね。でも言ってこない。

安田

言ってこなければ払わなくていいんですか?

久野

言ってこなければ払わないです。

安田

なぜ言ってこないんでしょうね。

久野

面倒ですから。基本的には弁護士をつけないといけないですし。

安田

今「成功報酬で、未払い残業取り立てます」って弁護士さんが、増えてると聞いたんですけど。

久野

増えてますね。

安田

それはひと昔前の「消費者金融の過払い金請求」みたいな感じですか。

久野

そうです。

安田

じゃあ、今まで黙ってた人が裁判を起こすケースも増えますね。

久野

間違いなく増えるでしょうね。

安田

どうして弁護士さんは、そこに力を入れようとしてるんですか?

久野

過払金請求も一段落したし、労働審判の制度が変わって判決が早くなったんですよ。

安田

時効が5年に伸びるのも大きいですか?

久野

はい。時効が5年になったら一気に増えると思います。

安田

弁護士さんの取り分も増えるんですか?

久野

未払い残業代の総額が2.5倍ぐらいになりますから。

安田

実際、5年に延びる可能性ってどれぐらいあるんですか?

久野

延びるのはもう間違いないですね。3年から5年のどこが落としどころになるか。

安田

裁判になったら企業は勝てないですか?

久野

勝てないですね。裁判になったら「残業させてない」ということを証明しないといけないので。

安田

じゃあ裁判にならないようにしないといけない。

久野

はい。管理が甘いとアウトです。

安田

まずはタイムカードを押させると。

久野

タイムカードだけではダメです。

安田

なぜダメなんですか?

久野

仕事してた時間と、在社時間って別の概念になるので。

安田

「とりあえずタイムカード押しとけ!」ってのは通用しないと。

久野

会社に来た時間、仕事が始まった時間、仕事が終わった時間、そして帰った時間。この4つをきちんと管理することが基本です。


久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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