この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。
同一労働・同一賃金は、法律で決まってるんですよね?
はい。法律で決まってます。
パートや契約社員でも、同じ仕事なら同じ賃金を払いなさいと。
そういうことです。
それってつまり、非正規労働の待遇を良くすることが狙いですか?
基本的にはそうですね。
だけど結果的には、正社員の手当がなくなったりしてます。高いほうを低くするという流れ。
それは本末転倒なんですけど。まあ短期的には仕方のない部分もあります。
それはどうして?
今まで待遇に差がありすぎたから。生涯賃金が正社員と比べて何倍も違うんですよ。とてつもない格差が生まれてる。
このままだとどんどん格差が広がると。
いちばん顕著なのは女性ですね。結婚してパートになると、仕事としては変わんないのに正社員とすごい格差ができる。
よくある話ですね。
能力の高い女性はやる気をなくしちゃう。
やってられないですよ。自分より仕事できない人の方が稼いでるなんて。
だから「同じ仕事をして同じ時間働いてんだったら、同じ待遇が与えられるべき」というのが同一労働・同一賃金の基本的な考え。
じゃあ非正規をフルタイムワーカーにすることが狙いではないと?
どっちかというと単価を上げることが一番の狙いです。
時間に関しては、働けない事情の人もいますもんね。
そうです。ただ日本って、パートにした瞬間に「給与安くてもいい」みたいな考えがあるので。
ありますね。同じ仕事してるのに時給がものすごく下がったり。
その常識を変えていこうとしているわけです。
なるほど。結構ちゃんと考えてるんですね。
はい。ただ正社員化は市場原理の中で起こるだろうと予想されています。
それはどういう原理で?
まず4月に派遣法の改正がありまして。
どんな改正なんですか?
めちゃくちゃ簡単に言うと「派遣社員にはこれ以上の報酬を絶対に払ってください」という基準をつくったんですよ。
それは、いわゆる最低賃金とは違うんですか。
違うんですよ。この職種でキャリア何年だったら1300円以上みたいな。
なるほど。
そうすると派遣する側としては、その金額以上に派遣料を上げないと利益が出ない。
そりゃそうですね。
で、派遣先は「こんなくそ高い単価だったら、自分とこで雇ったほうがいい」となる。
おお!結果的に正規雇用が増えると。
そういうことです。今まで安かったけど「これから派遣は高いよ」っていう改革。
そうやって正社員を増やしていくと。
もしくは高い派遣社員を増やしてく。
つまり国としては1人当たりの収入を増やしたいんですね。
そうです。
それは税収を増やすためですか。
基本的には国って「株式会社日本」だと僕は思ってまして。
株式会社日本?
はい。売上に相当するGDPを上げることが最優先。で、基本的にGDPって単価×労働量なんで、労働量が減ってく以上は単価を上げるしかない。
なるほど。
国としてはそういう狙いだと思います。
でも結果的に正規の人たちの手当とかが削られるじゃないですか。彼らの単価は下がってますよ。
だから安倍政権はこれに不快感をあらわにして、「方向性が間違ってる」ってことを示してるわけです。
じゃあ、いずれは正社員の給料も上がる?
上げようというのが政府の狙いですね。
でもそれって、つまり「日本株式会社の人件費を上げる」ってことでしょ?
そうです。
そんなことして儲かるんですかね。会社だったら利益が圧迫されますけど。
国の利益は税収ですから。給料も税金もたくさん払える会社だけ、残ってくれればいいんです。
企業にとっては厳しい時代になりますね。
はい。
じゃあ、社員の手当をなくすなんていうのは、焼け石に水だと。
それは目の前の防衛策ですね。
どんな防衛になるんですか?
同一労働・同一賃金になると、まず手当を細かくチェックされるんですよ。たとえば通勤手当が正社員とパートで違うケースとかは許されないです。
なるほど。じゃあパートの手当が一気に上がると。
そうなっちゃうので、社員の手当を事前に下げてるわけです。
すごい攻防ですね。
はい。国も企業も生き残りがかかってるので。
ちなみに賞与はどうなんですか。正社員とパートって、すごく差がありそうですけど。
どういうふうに賞与を決めたかによります。たとえば勤続年数で決めた場合は統一しないといけない。
なるほど。じゃあもう正社員も非正規もほとんど同じですね。
同じ仕事をしてれば同じ待遇になります。
じゃあ企業とすれば人件費を下げるために、正社員の手当も賞与も削っていくしかないと。
安倍さんが不快感を示してるように、基本的にそれはノーなんですよ。
ノー?
社員の不利益になる変更はダメってことです。
じゃあどうしたらいいんですか?
生産性を上げるしかない。
生産性を上げて、給料も手当もいっぱい払って、税金もたくさん納めて、なおかつ利益も出せと。
そういうことですね。
やっていけるんですかね。企業は。
やっていくしかない。
海外に逃げる企業とか出てきませんかね?
外資に身売りしない限り無理でしょうね。日本企業は絶対に逃がしてくれない。
久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。