第54回「改革を遅らせているのは誰?」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第54回「改革を遅らせているのは誰?」

安田

去年の 10月時点で、倒産件数が過去最高になったそうです。

久野

はい。データが出てましたね。

安田

原因のひとつは人手不足倒産。後継者がいないとか。

久野

それも多いですけど、基本的には人件費が払えない会社。これからさらに増えていきますよ。

安田

久野さん、よく言ってますよね。政府が倒産をある意味増やそうとしてるって。

久野

そう思います。増やそうとしてる。

安田

それはなぜですか?

久野

人口が増えてるタイミングでは、会社って必ず増えてかなきゃいけないんですよ。

安田

それは働き口を増やすため?

久野

はい。受け皿が少ないから。たとえばアメリカでは、雇用が増えるビジネスじゃないと外国人にビザをくれないでしょ?

安田

そうなんですか?

久野

ただ金稼ぎに来るだけの人はNGです。日本人がアメリカで寿司屋をやるのは、雇用が生まれるのでビザが取りやすい。

安田

なるほど。

久野

アメリカは人口が増えてますから。経済が伸びてる段階では「会社を増やすこと」が国家戦略として正しい。

安田

日本は違うと。

久野

日本は人口減少期なので、会社を絞って「儲かる会社だけ」を残すことが国家戦略。競争させて国民の所得を増やしていく。

安田

テレビでは「100年以上続く日本の会社」みたいなのを、すごく自慢気にやってますけど。

久野

これまでは人口が増えてましたから。

安田

じゃあ今後は「長くて、なおかつ収益が出てる会社」じゃないと評価されない?

久野

そうなるでしょうね。

安田

四代目、五代目で、資産を切り崩してやってる会社なんかは、もうダメだと。

久野

そういう会社はもう守ってくれない。

安田

せっかく100年以上続いてきた会社でも、国からすれば「別につぶれてくれてもいい」って感じですか。

久野

そう思います。

安田

100年も続いてる会社って、銀行や国が守ってくれそうなイメージですけど。

久野

それは間違いですね。

安田

日本の宝みたいにテレビでは言ってましたよ。

久野

「うちがつぶれたら大変なことになる」と思ってる経営者も多いです。

安田

じっさい困る人はいないんですか?

久野

ビジネスモデルが終わってる会社は。なくなっても誰も困らないです。

安田

確かに「よくこれで続いてるな」ってビジネスもあります。

久野

こだわってるのは経営者だけです。お金がなくならないうちにやめたほうがいいと思う。

安田

じゃあ倒産件数は今後さらに増えていくと。

久野

間違いなく増えていくと思います。

安田

生き残るのは儲かってる会社だけですか?

久野

ダーウィンが言うように「変化するもの」だけが生き残る。変化しながら100年やってきた会社はこれからも残っていきますよ。

安田

ほとんど変わってない会社もたくさんあります。

久野

変わってない会社の方が多いです。

安田

劣化していってる会社もありますよね。

久野

もう「風前の灯」みたいな会社がたくさんあります。

安田

じゃあ、これから一気に退場が始まると。100年以上続く会社もどんどんなくなっていく?

久野

もう昔のように銀行にも余裕がないので。政府も支援しない方向だと思いますし。

安田

資産がある老舗企業だったら、いいんですけどね。すごいお金を貯め込んでるとか。

久野

資産のあるところが今まで勝ってきたんですよ。先祖代々の土地があるから安くできるよねって。だけど、もうそれだけじゃ勝ち残れない世の中になってきてる。

安田

確かにそうですね。

久野

戦いの種類がちょっと変わってきてますから。地上戦だったのに、いきなり空から商品が降ってくる感じ。

安田

アメリカは時価総額トップの企業がGAFAに入れ替わっちゃいましたもんね。日本はほとんど変わらないですけど。

久野

変わってないから危ないんです。

安田

上が居座ってるから生産性が上がらないと。いずれは大手も国から見捨てられるんでしょうか?

久野

生産性が低いままだと大いにあり得る。

安田

最近、給料が高い会社とか低い会社とか、よく発表されるじゃないですか。

久野

新聞に出てましたね。上場企業で年収が低いランキング。1位が200万円代でびっくりしました。

安田

年収が低い上場企業を発表するって、「もう前ら退場しろ」っていうメッセージでしょうか。

久野

あんなの出したら、絶対に人が来なくなりますから。

安田

中にいる社員も微妙ですよね。「俺たち都内で一番下かよ」みたいな。

久野

昔はブランドだけで入社する人もいましたけど。「上場企業に勤めたら大丈夫」みたいな。

安田

上場企業で200万円代は驚きですね。

久野

もう現実的にビジネスモデルが成り立ってないんですよ。

安田

上位を発表するっていうのは昔からありましたけど。下位を発表するって、何かすごく意図を感じますよね。

久野

もちろん意図があって発表してるんです。

安田

報酬が安い企業への警告みたいな。

久野

私はものすごい圧力を感じます。

安田

逆に「1人当たりの収益が高い会社」は、小さくても国がサポートしてくれる?

久野

そうするべきなんでしょうけど。実際にはサポートできてないです。

安田

そういうところが的外れなんですよ。国がやることって。

久野

ですね。回さないといけないところに資金が回ってない。

安田

どうでもいいようなトコにばかり回しますから。

久野

選挙対策が先に来るので。

安田

まさに政治家って「生産性が低い人たち」の代表ですよ。既得権だけで食べてきた人たち。

久野

一度掴んだ権力や既得権は絶対に手放さないですから。

安田

そんな人たちが改革できんのなかって疑問に思います。

久野

無理でしょうね。社労士業界を見ていても感じます。

安田

それはどのような?

久野

たとえばマイナンバーを使って全自動にしたら、社労士事務所なんていらなくなるんですよ。

安田

そんなことになったら久野さんは大変じゃないですか。

久野

大変ですけど、本来はそうならないといけないんです。でもそうはならない。

安田

それは票が絡んでるからですか?

久野

その通りです。若者の投票率だってネット投票を導入したら一気に上がる。でも絶対にやらない。年寄りだけに投票させといたほうが勝てるから。



久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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