第70回「ポストコロナで見えた境目」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第70回「ポストコロナで見えた境目


安田

国は雇用を守りたいのでしょうか。ちょっと疑問なんですけど。

久野

守りたいと思います。

安田

本音では生産性を上げたいわけでしょ?

久野

生産性も上げたいし、雇用も守りたい。両方ですね。

安田

でもコロナで失職する人はかなり増えますよ。

久野

増えるでしょうね。

安田

それを止めようとしているようには見えません。

久野

止めたいとは思います。ただ止められないだけで。

安田

でも本気で止めたいなら、もっと助成金をバンバン出すべきでは。

久野

できれば自力乗り切って欲しい。

安田

そんなことができる会社はほんの一部だけですよ。

久野

まあ2〜3割でしょうね。

安田

本気で雇用を守ろうと思ったら国がお金出すしかないと思う。

久野

結果的には出すことになるでしょう。

安田

もう手遅れって感じもしますけど。

久野

融資で乗り切れってことです。

安田

それって単なる先延ばしじゃないですか。根本的な解決にはなりませんよ。

久野

はい。解雇に走る会社は出てくると思います。

安田

普通に考えたら元には戻らないです。

久野

戻らないでしょうね。

安田

なんだかんだ言って、雇用を減らして外注にするしかないと思う。

久野

そういう会社は増えていくと思います。

安田

休ませても給料は払い続けないといけないし。社会保険料は高いし、残業手当も増えるし。

久野

それでいて社員は自由に辞めて行きますからね。

安田

経営者が雇用というものを考え直すいい機会ですよ。

久野

今回のコロナで気づいたんじゃないですか。

安田

最後は誰も責任とってくれないし。国だって守ってくれないです。

久野

最後は借金を返せなくなって自己破産するしかない。

安田

社員は転職すればいいですけど。経営者はそうもいかないので。

久野

社長も考えると思いますよ。自分の幸せって何だろう、何のために会社始めたんだろうって。

安田

社長にも問題があると思います。社員を雇って仕事を割り振ってるだけなので。

久野

ほとんどの経営者は付加価値を生み出す努力をやってないです。ただ仕入れて売ってるか、下請け的に仕事をこなしているか。

安田

管理しとけば利益が出るという時代はもう終わったわけで。

久野

ずっとそれで利益が出てきましたから。

安田

まあそうですよね。付加価値をポンポン付け加えていく中小企業なんてなかった。

久野

気合い入れて、でかい工場建てて、勇気があればなんとかなってました。

安田

でも付加価値を生み出せない経営者はもう駄目ですよ。

久野

経営の難易度が飛躍的に上がりましたから。

安田

マネジメントの難易度も上がったし。「気合いと根性でやるんだー!」っていう時代はもう終わり。

久野

サボらないよういチェックしてればよかったので。今それじゃ済まない。一生懸命やっても利益が出ないですから。

安田

クリエイティブな経営をやらないと利益は出ないです。

久野

経営者ってクリエイティブが苦手な人が多いんです。

安田

ある意味クリエイティブと真逆なことをやってきましたからね。

久野

とにかく人を増やして、時間管理して、コスト抑えて。それで利益が出たので。

安田

雇用とか管理って、発想力のない人たちがやる経営手法ですよ。

久野

手厳しいですね(笑)

安田

じっさい雇用はクリエイティブじゃないです。

久野

それはどういう部分が。

安田

雇用されたい人って「自分では価値を生み出せない人」だから。

久野

価値を生み出せる人は、雇われなくても生きていけますからね。

安田

言われたことだけやって「決まった給料を受け取りたい」って人が会社員になる。

久野

ポストコロナはそうなっていくでしょうね。

安田

経営者はその事実を受け止めたほうがいいです。価値を生み出したいのなら社員に委ねないこと。

久野

とはいえ経営者が自分で生み出すのも難しい。外部人の力を借りるという発想に変わってくると思う。

安田

そうなるでしょうね。雇用するよりぜんぜん安いし。

久野

プロジェクトにあった人を連れてくるのが経営者の仕事になる。

安田

まずは組織の再編成ですよ。硬直化した正社員雇用じゃなく、もっと柔軟な組織をつくらないと。

久野

正社員だから硬直化するんですか。

安田

社員はどうしても出社することや、言われた作業をこなすことが目的になってしまうので。

久野

タイムカードもあるし、上司が行動管理しますからね。

安田

そういう環境ではクリエイティブ力なんて発揮できません。会社でやること決めて、給料決めて、働く時間と場所まで決めちゃうので。

久野

自由にやらせないことにはクリエイティブな発想にならないと。

安田

はい。雇用や管理とは真逆です。じっさい大企業はもうどんどん雇用を減らしてますし。

久野

減らしてますね。

安田

銀行だってどんどん人を採らなくなってる。大企業が人を採らないのに、中小企業はどんどん社員を雇用してる。

久野

中小企業って労働集約型なので、人がいればやれる仕事はあるんですよ。

安田

この先もずっと続くと思います?

久野

「機械がやるより人がやったほうが安い」という仕事がある限りは。

安田

でも、そういう仕事をなくすことが国の方針なんでしょ?

久野

その通りです。だからだんだんなくなっていく。なくなったときに会社自体が失業する。

安田

会社が失業?

久野

「君の会社に頼む仕事はもう何もないよ」となる。

安田

なるほど。会社も失業すると。じゃあそこにいる社員も当然失業しますね。

久野

はい。ポストコロナは間違いなく人余りになると思います。

安田

そもそも無駄な人材を雇いすぎなんですよ。

久野

なんとなく「人が足りない」という雰囲気に飲まれてましたから。

安田

赤字社員を増やしてもしょうがないんですけど。

久野

赤字社員を採ってるという自覚がなかったと思う。黒字かどうかって営業マン以外は見えにくいので。

安田

その曖昧な部分がコロナによって見えちゃった。

久野

はい。いなくても業績が変わらない人がクッキリ見えてしまいました。



久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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