この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。
日本人の生産性って、先進国では一番下のほうなんですよね?
先進国の中では最下位ですね。
アジアの中でも、もう韓国にも抜かれちゃって、中国にも抜かれそうだとか。
時間の問題ですね。
もう日本に工場を持ってきたほうが、安いんじゃないかって言われてます。
日本人は真面目だし、給料安いし、よく働くし。
でもさすがにアジア最下位はないでしょ?いくら安くなったとはいえ。
うーん。
え!そんなに安いんですか。
いま中国で言われてるのは「アメリカ企業は大変だけど給与が高い」「中国企業はまぁまぁ大変だけど給与も安くはない」「日本企業は安くて楽だ」と。これが現地の考え方。
安くて楽?最悪じゃないですか。
給与相場自体はまだ負けてないと思うんですけど。絶対に追い抜かれるなって感じはあります。
やっぱりそうですか。
はい。昔は日本企業って「給料が高くて楽」ってイメージだったんですけど。
じゃあ、人気があったのは当たり前ですね。
昔は人気があったんです。でも海外はどんどん物価が上がってくので、いつの間にか逆転しちゃった。
人件費が上がり続けてますもんね。海外は。
はい。でも国内はぜんぜん上がってないから、経営者が気付いてない。
ホントに気付いてないんですかね。
まあ気づいていても結局上げられないんですけど。
ですよね。国内の人件費だって、経営者にしたら上がらないほうがいいわけでしょ?
上がらないほうがいいです。
初任給が上がっていくと、他の社員も全部上げなきゃいけなくなるので。経営者も大変ですよ。
それがベースアップと言われるものです。
でも、もう20年ぐらいは上がってないですよね?
はい。上がってないです。経営者にとってはそれがすごく都合がよかったんです。
まあそうですよね。グローバル競争するときにも人件費が安いのは大きいし。
結局、日本の大企業の業績がいいのは海外で稼いでるから。
それは安い人件費のおかげだと。
はい。でも力のある中国企業が日本人を1本釣りし始めた。
そうみたいですね。
平気で「2000万払うよ」って。それで仕方なく日本企業も動き始めた。
優秀な人から順番に外資に取られちゃいます。
はい。エリートだけじゃなく、現場の有能な労働者たちもどんどん抜かれていく。
現場ごと海外に持っていかれるってことですか?
そうです。まず優秀な日本人が外国に行く。すると国内がスカスカの状態になる。国内に残るのは「安かろう悪かろう」みたいな依頼だけ。
安かろう悪かろうになりますか?
はい。わたしは「ただ安いだけの国」になってくと思う。
人件費が下がっても、いい仕事は戻ってきませんか?
戻ってこないと思います。現場が高度な仕事をこなせなくなるので。
それは有能な人材がみんな海外に持っていかれるから?
そう。ただし、安さだけで勝負するのも難しい。もっと安い国があるので。
じゃあ有能な日本人は国から離れ、国内の産業はスカスカ状態になる?
そうです。労働法の問題も非常に複雑になってるし。
確かに。優秀な経営者も嫌になっちゃってますよ。
その通り。
お金だけ持って海外に行っちゃう経営者も増えてます。
どんどん増えてますね。
税法が厳しくなってきましたけど。逃げられないように。
はい。持って出ていかれたら、日本の資産がどんどん減ってくので。
労働者も出さないようにするんじゃないですか。法律で。
それはあるかもしれないですね。
渡航禁止とか。
完全にグローバルの流れに反しますね。江戸時代に逆戻り(笑)
江戸時代は経済が横ばいでしたけど、けっこう幸せだったみたいですよ。
それは外の情報を知らなかったからですよ。
確かに。でも、どうして日本だけがずっと横ばいなんですか? 周りはみんな上がってるのに。
労働法の「上げた給与は下げられない」っていう構造がやっぱり大きい。
だから上げないと。
だってリスクじゃないですか。仮に1人1万円でも100人いたら100万のべースアップ。年間1200万。それがずっと続くんですよ。
下手したら、それだけで赤字になっちゃいますね。
一旦あげたらもう元へは戻せない。だから「賞与で」という発想になる。
でも賞与は不定期なので生活水準は上がらないと。
はい。来年もらえるか分からないから「抱え込もう」とする。
まあ、そうなりますよ。
経営者は給与を上げられないし、賞与では消費者も使えないし、っていうのがデフレの構造。
ということはもう「下げるのとセット」にしない限りは上げられないと。
そうです。それがない限りは経営者も賃上げできない。
あのトヨタですら「無理だ」って言ってますもんね。
業績に関係なく「社員の給与を上げ続ける」なんてのは、もう現実的に狂ってます。
そうですよね。今後は世界標準に合わせて、給料も下げられるようになるんでしょうか?
安倍政権は「解雇規制の緩和」も含め、よくキーワードに出すんですよ。支持率が高くて調子がいいときに。でも新聞で叩かれてすぐ引っ込める。ずっとこの繰り返し。
じゃあ、やったら効果が出るのは分かってるけど、選挙に負けるからやらないと。
そういうことです。
みんな保身なわけですね。
むかしドイツのシュレイダー政権が「解雇規制の緩和」をやったんですよ。
ほう。
で、シュローダーは没落したんですけど、ドイツは解雇OKになった。その代わり「市場に出た人間は必ず国が再教育して市場に戻す」と約束して。
結果はどうなりました?
経済は劇的に良くなりました。
へえ。
「犠牲になる政治家」がいないと、国は変わらないんですよ。
久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。