この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。
コロナで助成金がでるって聞いたんですけど。
もともと雇用調整助成金というのがありまして。一番使われたのがリーマンのときなんですけど。
雇用調整助成金?
リーマンみたいなときは、仕事がなくなって雇用が止まるじゃないですか。
はい。
たとえば「工場を止めました」ってなると、会社は従業員に休業補償を払わないといけないんですよ。
それはどれぐらいの金額ですか?
給料の6割を払わなきゃいけない。
休ませて何も仕事をしてなくても?
そうです。平均賃金の6割を払わなきゃいけない。でもそれが1カ月とか続くと、とてつもなくコストが出ていく。
もって2〜3ヶ月でしょうね。普通は。
だからそれに対して「ある一定の要件」を満たすと、国から助成金が出るわけです。
払わなきゃいけない6割を国が補填してくれると。
全部ではないです。2020年4月からは10分の9だけですね。あと教育訓練をすると加算がもらえる。
なるほど。60パーセントの10分の9が補填されて、研修すればさらにプラスでいただけると。
そうです。いろいろ細かい要件もあるんですけど。
それが雇用調整金?
雇用調整助成金。
つまり会社が社員を「解雇しないように」補填してあげるってことですよね?
そうです。基本的に雇用を守るため。だから財源も雇用保険から賄われてる。
へえ。
ただし不可抗力の場合は払わなくてもいい。
不可抗力?
たとえば台風みたいな天変地異に関しては、基本的に休業手当を払う必要はない。
え?そういう場合は払わなくていいんですか?
仕方がないので。
でもコロナだって天変地異みたいなもんじゃないですか。
コロナ自体は天変地異に類するものなんですけど。
けど?
コロナウイルスが直接の原因じゃないケースも起こるじゃないですか。たとえば中国から資材が入ってこないとか。
それもコロナが原因じゃないんですか?
それは事業主の責に帰すべき事由になるんです。だから休業手当は必要です。
なんと!
コロナウイルスに感染しました。その人を出勤させられません。ってのは事業主の責に帰すべき事由ではないんですけど。
その場合は払わなくていい?
はい。ただし単に「高熱が4日間続いてる」とかは責に帰すべき事由となる。
つまり「コロナ感染」が認定されないといけない。
はい。実際に陽性反応が出たとか。
ややこしいルールですね。
予防措置として休業するとか、資材が入ってこないとか、明日の仕事がないとか。そういうのはぜんぶ事業主の責の帰すべき事由。
つまり社長の責任ってことですね。
そういうことです。
だから給与は払えと。
休業手当を払えと。
ということは、何らかの影響で売上が下がって、社員を休ませなくちゃいけなくなっても、給料は払わなくちゃいけない。
6割は払わなくちゃいけない。ただし従業員が「怖いから行きたいくない」という場合は払わなくてもよい。
従業員が自ら休む場合ですね。
はい。それは本人の意志による欠勤なので。
「本人の意志なんだ」って言わせる経営者が出てきそうですね。
それが問題になってるんですよ。厚労省の見解もあいまいなので。
実際にやってる経営者がいると?
そこはせめぎ合いですね。会社としたら自分から「休みます」と言わせたい。でも社員からしたら会社に「休め」と言わせたい。
給料が出るかどうかですもんね。
たとえば実際に熱が出てたら、労務の提供もできないので欠勤なんですよ。
会社が「休め」と言っても?
「熱が出てます」となった時点で、会社が「休んでください」と言っても、支払いの補償はない“はず”なんです。
はず?
厚労省がすごくあいまいに書いちゃってるので。
ちなみに、コロナの影響で資金が回らなくて「解雇するしかない」となったときは、正当な解雇理由になるんですか?
それはなるでしょうね。解雇するときの「やむを得ない事由」に当たるので。ただし労働法的には単に解雇して終わりではダメ。
そうなんですか。
辞めるにあたって「会社にあるお金を差し出せ」とか「就職を斡旋しろ」とか、そこまで求められてる。
つぶれるぎりぎりの状態でも、そこまでやらないとダメだと。
そうです。
ちょっと先行きが不安なので「整理して半分にしとこう」みたいなのは駄目?
それをやると訴えられるケースが出てくる。整理解雇をするなら先に希望退職を募らないといけないとか、いろいろ段階があるんですよ。
希望退職を募るのはOKなんですか。
OKです。だから大手はスリムになるために、まず希望退職を募るじゃないですか。すごいお金も積んで。
でも中小企業はそんなお金積めないし。どうしたらいいんですか。
まずは資金繰りの確保です。助成金を申請してもお金が入ってくるまで4〜6カ月ぐらいかかるので。
資金繰りの確保といっても、銀行に頼むぐらいしかないですけど。
今であればコロナ融資枠ですね。まずそれを申請する。
それは各銀行にあるんですか?
金融公庫がつくってます。ます金融公庫に融資を申し込み、そして助成金の準備もする。
それでも回らない場合は?
最悪の場合は人員削減の検討に入るしかない。ただしその場合も解雇の回避努力は絶対に必要です。
解雇する場合も仕事の斡旋とか、金銭保証も必要だと。
その通り。
人を雇うって、本当に大変ですね。
久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。