学校の先生って、担任持つと残業はあるし、家で準備する時間がものすごくかかるらしいです。その上、親のハラスメントもあると言われてまして。
はい。親と上司の板挟み状態で、ほんとにしんどい仕事だと思います。
学校で決められたことはやんないといけないし。親からもいろいろ文句言われるし。公立学校の先生って公務員なんですよね?基本的に。
公務員ですね。
公務員だったら、労働法は確実に守られる気がするんですけど。
じつは学校の先生って、未払い残業がめちゃくちゃ多いと言われてます。
公務員なのに?そんなこと許されるんですか。
先生って理想の姿じゃないですか。
理想の姿?
「子供達の理想であるべき」と求められてるので、国に文句を言っちゃいけない。
なるほど。崇高な職業ってことですか。
じゃないですかね。それで成り立ってるという。
お金の話なんかするなと。
だってどうですか。先生がストライキとかしたら。
大ひんしゅくでしょうね。でも今の時代の流れからいったら、未払い残業は許されないでしょう。先生はブラックでOKってわけにはいかない。
家での準備時間も労働ですよね。それがないと授業ができないんですから。
裁判すればそう見なされるでしょうね。
授業が終わった後の部活動の顧問とかも。あれ給料出てないと思うんですけど。残業手当とか払わなくていいんですか?
教師には「給特法」という特別な法律が適用されるので、休日労働や残業代を支払わなくてもいいと定められているんです。「教職調整額」という謎の手当があって、月給の4%が最初から上乗せされています。
なんと!じゃあ、部活の顧問は休日に試合の引率へ行っても、それは残業ではないと!
自主的にやってるという判断でしょうね。
「嫌だったら断ってもいいよ」ってことですか。生徒に対してはやりたいんだったら「地元のスポーツクラブに入ってください」みたいな。
今はそういう流れですよね。
学校が放課後の部活をやめちゃうっていう。そうでもしないと先生がもたないですよ。こんな重労働させてたら。
家でテストの点数まで付けてますからね。
あれは労働法的にはどうなんですか?学校には社労士さんは付いてないんですか。
付いてないと思います。学校の先生って意外と知らないですからね、労働法のこと。しかも特別な法律で労働基準法が適用されない部分もある。
それは私立の学校も?
私立のほうが、ちゃんと労基署が入って是正される傾向にあります。
たとえば業務委託の講師だったらOKですよね。1コマごとに報酬を払って、それをやるための準備にはお金を払わなくても。
そういう非常勤講師は小学校ではあまりないですけど。大学では当たり前の形態ですね。
正社員だったら、家で準備してる時間とか、テストの点数を付けてる時間とかは、当然時間外労働ですよね。
もちろんです。
この先それを支払うようになっていくんですか。部活動だったら「やめよう」って選択肢もありですけど。授業の準備はやらないわけにいかないし。
申告して支払っていく流れになると思います。給特法も変えようという動きはあります。ただ先生自体が、不人気業種になってきてるじゃないですか。
そうなんですか。
昔は人気があって8倍や9倍は当たり前だった。ところが今は2倍を切るところまで落ちてきてます。
じゃあ当然、先生の質も落ちてるってことですよね。なりたいって手を挙げたら大体なれちゃうってことですから。
先生の質は落ちてます。重労働のわりに給料が安いので。仮に1000万もらえるとしたら8倍ぐらいにはなるんじゃないですか。
未払いの残業代を払ったら1000万ぐらい行きそうですけど。
確かに。
めちゃくちゃ労働時間長いですよ。
めちゃくちゃ長いでしょうね。部活での土日出勤もあるでしょうし。
でも公務員であるがゆえに、1000万も国民の税金を払うわけにはいかない。
そうですね。官僚にもそんなに払えないですからね。
とはいえ未払いの残業代を入れて計算すると、人件費は増やすしかないですよ。
そうですね。「労働時間はこれぐらいで、これだけの年収がもらえます」ってことをオープンにしないと、いい先生も集まってこないし。
じゃあ今後、先生の給料は上がるってことですか?
本気で教育改革をやろうと思ったら、上げるしかないでしょう。
でも、そんなに金ないですよ。日本国には。
どこに投資するかじゃないですか。医療で老人に払うよりは、教育で未来に投資する。本来はそっちにお金を割り振らなきゃいけない。
それは私も賛成ですけど。いかんせん、それでは選挙勝てないわけで。選挙に勝てないことには法律を変えられないわけですよ。
民主主義国家の限界ですよね。多数決だとどうしても高齢者に有利になりますから。
高齢者の福祉を削るって言ったら、絶対に選挙は負けるでしょう。
普通に考えたら、消費税を減税する前に年金を減らすべきですから。でも分かっていても誰も言わないですもん。
現場では先生が学校を訴えるケースも出てきてるんですよね?「未払い残業代を払え」って。
私学では結構あります。
私学ってもともと給料も高いし、公立の先生のほうがよっぽど大変な気がすんですけど。
法律が違うんですよ。公務員は労働法とは別に、給特法という別の法律があるので。
なるほど。社会保険も国家公務員しか入れない特殊なやつですよね。
共済ですね。
そのわりに人気がなくて、みんな辞めちゃいますけど。
学校組織って相撲部屋と似てると思う。文句があっても言えるような雰囲気じゃない。個人の権利を主張するとか。
学校教育自体がそうですもん。
集団の中でどう調和を保つかってことを教えてるので。そこに馴染めない人はそもそも先生になってないし、言っちゃいけない圧力がめちゃめちゃ強いんだと思います。
先生に限らず公務員全体に「言っちゃいけない圧力」があるんでしょうね。
あるし、オープンになってないですよね。たとえば、ある省庁が「ストライキしてます」とか。国家公務員法でそれは認められてないんですよ。
公務員はストライキが認められてないんですか。
認められてないです。
でも公務員って人気がありますよ。
人気ありますね。安定は保証する代わりに我慢しろってことじゃないですか。
公務員って基本的に残業がなくて、早く帰れるイメージなんですけど。なぜ先生だけがこんなにも特殊なんですか。
聖職だからだと思います。そこに甘えてると思いますね。その代わり、成果も問われないじゃないですか。授業の質がどうかとか全然言われない。
確かにそうですね。これで先生のレベルを上げろってのは無理な話。
この仕組み自体に無理があるんです。そこを変えない限り教育改革は絵に描いた餅ですよ。
久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。