第108回 社長のお金の残し方

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第108回「社長のお金の残し方


安田

社長のお金の残し方?

久野

はい。そういうセミナーをやってまして。

安田

どういうセミナーなんですか。

久野

中小企業は「社長のキャッシュをちゃんと最大化しなきゃ駄目だ」っていう。

安田

つまり「給料たくさん取れ」ってことですか。

久野

そうですね。ちゃんと社長がお金を持っとかないと。会社が傾くとお金を入れなきゃいけないから。

安田

自分の給料を抑えて利益を残そうとする人が多いですよね。

久野

それもすごく大事なんですけど。

安田

100%株を持ってるなら「それでもいいじゃないか」って気もします。でもそれじゃあ駄目だと。

久野

そうですね。社長の給与の上限って社員の給与の上限になるので。社長がもらってない会社って社員の給与も安いんですよ。

安田

そうなんですか。

久野

はい。社員の給与は基本的に社長より高くならない。

安田

そういう決まりがあるわけじゃないのに。

久野

決まりはないけど心情的にどうですか。

安田

心情的に「俺もこれだけしか取ってないんだ」となるかもしれません。

久野

そのために自分の給料を抑えている社長さんもいます。

安田

社員に文句を言わせないために?

久野

文句を言われたときに言い返せるように。

安田

社長より給料高い社員がいる会社って、どれぐらいあるんでしょうね。

久野

ほとんどないです。200社に1社ぐらい。

安田

そういう会社は社員みんな給料が高いんですか。

久野

総じて高いですね。そういう会社は。

安田

たとえば上場企業で「1円しか給料を取っていません」とか言いながら、配当でガッツリ取ってる社長もいます。

久野

上場企業のオーナー社長は給料で取る必要がないので。

安田

それで給料が安い自慢をするのはズルい気がします。

久野

そうですね。

安田

でも確かに中小企業では「社長より給料が高い社員」っていないですよね。

久野

いないと思います。

安田

つまり社長の給料が安い会社は、社員の給料も安いと。

久野

そう考えていいと思います。

安田

社長の給料が安い会社には就職するなと。

久野

ひとつの目安でしょうね。

安田

一方で「社長だけが高くて社員はめっちゃ安い」って会社もありますよ。

久野

それはあります。だからそこも見極めなきゃいけない。社長の人間性とか、ビジネスモデルとか。

安田

社長の給料が低い場合は、社員も低い。だけど、社長の給料が高くても社員が高いとは限らない。

久野

そういうことです。

安田

どうやって見分けたらいいんですか。

久野

逆に安田さんに聞きたいです。その境目を(笑)

安田

「社長と社員は違う」と公言するような人とか。

久野

確かに。あとは社長の給料が非公開な会社でしょうか。

安田

顧問先で公開してる会社ってありますか。

久野

ほとんどないですね。1%もないんじゃないですか。

安田

久野さんは公開してるんですか。

久野

薄っすら分かるぐらいですかね、上の方に。

安田

薄っすら分かるぐらい?

久野

試算表を渡してるので。見れば分かるようにはなってます。

安田

社労士という立場から見たらどうなんですか。オープンにした方がいいのか。それともしない方がいいのか。

久野

幹部まではオープンにした方がいいと思います。

安田

全員にオープンする必要はないと。

久野

理解に苦しむと思います。なかなか理解されるとこじゃないですから。

安田

幹部なら理解できますか。

久野

人によりますね。

安田

ですよね。社員も幹部も給料がマイナスにはならないから。

久野

だから社長は取れるときに取っておかなきゃいけない。

安田

いざというとき身銭を切る幹部もいますけどね。ほとんどの幹部は限りなく社員に近い。

久野

社長って自分のお金でも使えないお金があるんですよ。いざという時のために取ってあるお金。

安田

それなら「会社に残しておけばいいでしょ」って社員は思うでしょうね。

久野

それは戦略的に違う。

安田

どう違うんですか。

久野

会社がきつくなったときに内部留保を使うか、それとも社長の給与を下げるか。これは大きく違います。

安田

へえ。

久野

社長の報酬をゼロにすれば短期的には黒になる。それができれば次のお金を引っ張ってきやすい。だから生き残る可能性は上がる。

安田

なるほど。金融機関からの見え方が違うと。だから社長は取れるときに取っておかないといけない。

久野

それをやっておいた方が生存確率は上がる。

安田

ちなみにセミナーではどういうアドバイスをするんですか。

久野

泥臭いやつをいっぱい紹介してます(笑)たとえば経営セーフティ共済とか。

安田

聞いたことないです。

久野

会社が年間240万円まで「経営セーフティ共済」にお金を預けるんです。マックスで800万たまる。

安田

それは非課税で?

久野

はい。非課税なんです。取引先が倒産したら10倍の8000万まで融資で引っ張れる。

安田

すごいですね。そんなのがあるんですか。

久野

そうなんですよ。解約も自由だし。

安田

でも当期利益は減りますよね。

久野

そこはコツがあってBSに載っけるんです。バランスシートの左側に載せる。保険積立金みたいに「これはキャッシュですよ」ってかたちで見せる。

安田

なるほど〜。久野さんって次々にこういうのを見つけてきますよね。

久野

そればかりやってるわけじゃないですけど(笑)。ただ社長のキャッシュを増やすのはほんとにだいじな戦略なんです。

 

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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