第116回 行くリスク。行かないリスク

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第116回「行くリスク。行かないリスク」


安田

厚労省の職員が銀座で送別会をやって。事件になりましたね。

久野

23人で深夜まで飲食してたみたいです。

安田

本来はコロナを止めなくちゃいけない部門の人たちで。しかも遅くまで開いてる店を探して行ったらしいですから。確信犯ですね。

久野

「残業が終わってからチラホラ集まり始めた」って書いてありました。

安田

なかなか一般人には理解しがたいです。見つかったらどうなるか容易に想像がつくことですし、もし感染してたら大変なことになる。

久野

そうですよね。

安田

どういう感覚でこんなことをやったんでしょう。

久野

厚労省の内情までは分からないです(笑)

安田

仕事がら厚労省とは関係が深いのかと(笑)

久野

確かに。厚労省からお仕事をいただいてるような立場ですね。

安田

これって、いわゆる「組織文化」でしょうか。本人たちにも悪気がないっていう。

久野

そういう部分はあると思います。

安田

国民には「自粛しろ」と言いながら、自分たちには甘い。

久野

厚生労働省って、省庁の中でもひときわでかい組織なんですよ。

安田

そうなんですか。

久野

はい。予算の規模が圧倒的に大きい。人数も多いので、隅々まで組織のカルチャーとかは伝わっていないのかもしれません。

安田

でも各部門にリーダーがいるわけですよね。

久野

はい。

安田

だったら「感染したらどうするんだ」って、中止させそうなもんですけど。

久野

普通はそうですよね。

安田

そういうことを言い出せない空気があるとか。

久野

「どうせわからないだろ」ってのが、あったんですかね?

安田

甘いですね。今どきどこで誰が見てるか分からないのに。

久野

ですね。

安田

23人もいて誰も「やめましょう」とは言わなかった。

久野

たとえば上司がマスク外した瞬間に、部下って考えるわけですよ。食べるときだけマスク外せばいいのか、それともずっと外したほうがいいのか。

安田

どういう意味ですか。

久野

忖度みたいなのが働くわけです。「これはマスクを外す流れだな」とか。

安田

そんなことにまで忖度するんですか?

久野

そう思います。どこの会社でもあると思いますが。

安田

だったら飲み会なんて断れないですね。

久野

無理でしょう。

安田

ついていった人の中には「ほらみろ」と思ってる人もいるでしょうね。

久野

「ほらみろ」じゃ済まないですよ。いろんなものを失ってるわけで。

安田

だけど断れない。

久野

「行くリスクよりも、行かないリスクのほうが高い」って考えたのかもしれません。

安田

行かないリスクですか。

久野

はい。上の方にはそれぐらい力があるから。

安田

つまり官僚は国民ではなく「上司の顔色を見て」仕事してると。

久野

スタンスではなく力関係の話です。たとえば中小企業の社長が「飲み会やるぞ」って言っても、23人は集まらないです。この時代。

安田

官僚の世界って会社以上の上下関係があるんですね。

久野

そう思います。

安田

会社だったら、すぐに誰かが内部告発しますよ。

久野

「うちの社長がこんなこと言ってます」とかSNSに書かれて。

安田

官僚さんには「これやったらまずい」という自覚はないんですか。

久野

いえ指針が出てますから。「これはまずい」とは思ってるはず。

安田

ですよね。

久野

しかも厚労省ですし。世の中に発信している側なので。

安田

わざとやったってことはないですか?「コロナは大したことない」というメッセージ。経済にかじを切るために。

久野

裏読みしすぎだと思います(笑)

安田

じゃあ単に迂闊だっただけ?

久野

国会議員もちょっと前にやらかしましたよね。夜の銀座で。

安田

あれは特権意識の表れですよ。

久野

そういうのもあるでしょうね。

安田

テレビでパフォーマンスしてるでしょ。自分はマスクしながらでも食事できるって。

久野

はい。

安田

絶対に食事中マスクなんてつけてませんよ。「俺たちは特別だ」って思ってますから。

久野

確かに。

安田

自粛はもう限界じゃないですか。厚労省の職員までこうなっちゃうってことは。

久野

彼らの場合は “風圧”が効かなくなるのが怖いんですよ。

安田

風圧?

久野

マネジメント現場での風圧ですね。リモートでは上下関係をつくるのが難しいから。

安田

じゃあ風圧を取り戻すための食事?

久野

食事に行って関係性をつくるという文化があるんです。「同じ釜の飯を食う」みたいな。

安田

ちょっと古くないですか。

久野

政治や官僚の世界では、いまだにそういう意識が強いんだと思いますよ。

安田

へえ。

久野

だからリアルな飲み食いの場が必要なんだと思う。

安田

上が威厳を保つために?

久野

上意下達が重要な組織なんですよ。そこが崩れちゃうと命令系統が機能しなくなる。

安田

上司も言ってしまえばサラリーマンですからね。

久野

そうなんですよ。だから絶妙な上下関係をつくらなきゃいけない。

安田

じゃあ今回の会食は上司が首謀者ですか。

久野

江戸時代の血判って丸く署名したじゃないですか。

安田

血判?

久野

誰が首謀者か分からないように、丸く署名していくんですよ。横書きだといちばん右の人が偉くなるじゃないですか。

安田

なるほど。発起人が分からないように。

久野

今回も「誰が首謀者か」わからないようになってるはず。

安田

本人たちにも分からないんですか?

久野

分からないようにやってると思います。

安田

なぜそこまで忖度するんですか。

久野

官僚組織ってみんな優秀なので差がつきづらいんですよ。最後は忖度してる人が出世するんです。

 

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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