過労死の基準が20年ぶりに見直されるって。
現在検討中ということですね。
今は月80時間ですよね?
そうです。
2019年は過労死認定の請求455件に対して、認定されたのが174らしくて。まだまだ隠れ過労死が多いんじゃないかって書かれてました。
私は現場でやってますけど。隠れ過労死は見たことないですね。
そうなんですか。
過労死って広い意味で使われるので。疲れがピークに達して脳や心臓に波及して亡くなっていくとか。
そういうのは過労死って言わないんですか?
原因不明になってくるケースもあるじゃないですか。
確かに。過労が原因だとは決められないですよね。
そういうのを踏まえて考えると原因が分からないケースは多いです。
会社としては断固認めない感じですか?
いえ。労災請求される前に金銭的に解決しちゃうとか。表に出ないだけで、そういうケースは多いんじゃないかなと思います。
でも、基本的に残業80時間を超えてたら、もう労災認定じゃないんですか?
一律で認められるわけじゃないんです。逆にいうと80時間未満でも認定されることがあるし。
どういう基準で決めてるんですか。
細かいチェックシートがありまして。それに照らして、例えば直近で重い責任を負った仕事が突然入ってきたとか。総合的に考慮して決めます。
ケースバイケースだと。
はい。恒常的に労働時間が長かったかとか。いろんな状況を踏まえて判断してくので、一律って感じじゃないです。
過労死という病気があるわけじゃないですもんね。
そうなんですよ。
鬱にしろ、他の病気にしろ、「過労が原因じゃないのか」ってことでしかない。
はい。
たとえば死因がガンだったら過労死にはならないんですか?
ならないですね。
仕事のストレスでガンになることもあると思うんですけど。
業務起因性、業務遂行性というのがありまして。たとえば中皮腫っていう、肺にアスベストとかを吸って、肺が侵されて、それが労災になるってことはあるんですけど。
ガンは起因性が認められないと。
「精神疾患からガンになった」という因果関係を誰も説明できないので。そこは労災になり得ないでしょうね。
病気ってだいたいストレスが原因だと思うんですけど。睡眠不足とか。でも医学的なエビデンスがないってことになるんですか。
睡眠不足と言っても、たとえば仕事が終わった後に家でゲームをやってたかもしれない。
まあ確かに。
仕事が原因だと証明ができないものは、ちょっと厳しいですね。
それでいったら証明できるものなんてあるんですか?鬱だって、自分で暗い漫画を読んでたせいかもしれないし。誰も証明できないですよ。
そうなんです。だから業務の部分だけを切り出して「客観的に見えるものは労働時間しかないよね」ってことで80時間というのが決まった。
だったら80時間を超えてたら全部労災認定でいいと思うんですけど。
「極めて労災の可能性が高い」という認定ですね。ただ、本人が80時間って申告してるだけかもしれないし。いろんなことをチェックしないと平等ではないので。
言いたい放題になってしまうと。
はい。「疑わしい」という線引きが80時間ってことですね。
80時間ということは、20日間働くとして1日4時間ですね。
そうです。
毎日4時間の残業って結構長いですね。
夕方6時に終わって10時まで残業ですからね。これが毎日。
長い!
あとは土日に出勤してる場合も多いですね。
欧米では65時間とかになってるみたいですけど。今後は日本もどんどん短くなっていくんですか?
今65時間で検討してます。前回は弁護士とかいろんな団体から、法的エビデンスがないってことで80に戻ったんですけど。今回は65になりそうです。
へえ〜。
恐ろしいのは「出張の多い業務」とか「心理的負担がある業務」とか、そういう項目が盛り込まれていること。
どこが恐ろしいんですか?
だって、仕事って何かしらストレスあるじゃないですか。
確かに。ストレスのない仕事なんてありませんよね。
65時間を超えて、より情状酌量の余地がなくなった感じになってます。
日本人はとくに過労死が多いって言われますけど。実際はどうなんですか?
たとえばアメリカや中国だと、そこまで頑張らないっていいますね。終身雇用という概念がそもそもないので。
病気になってまで続けないと。
駄目だなと思ったら次に行けばいいだけ。日本はどうしても「この会社にい続けなきゃけない」「我慢して階段を登って給与が増えていく」という制度なので。
辞めにくいですよね。
途中で階段を降りる勇気が持てない。どうしてもその会社で働き続けちゃう。
だけど海外でも、エリートはすごく労働時間が長いって言いますよね。
日本人は「働かされてる」という意識が強いんですよ。海外の場合はいい成果を出すために自分でやってるだけなので。
自分の意思で長期間働いた場合は「病気にならない」ってことですか。
いえ。海外でも過労死はあります。ただ、もともと成果を出すために自分でやってることなので。それで終わっちゃうんですよ。
メリハリもありますよね。仕事が一段落したら長いバケーションを取ったり。
そうなんです。日本の場合はメリハリがない。しかもやらされてる感がすごく強い。
やっぱり自分の意思って大事ですね。
重要ですよ。
とくに日本の場合は我慢して働いちゃう国民性だから。国として規制しないとしょうがないんでしょうね。
まずは国の指標として「長くやらないと稼げない仕事」というのを減らしていく。
ちなみに、これって中小企業が中心なんですか?過労死する人って。
いえ、逆ですね。大企業とか官僚の方が多い。
そういえば電通でもありましたもんね。
中小企業ではそこまでストイックにやれないんですよ。
大企業や官僚ってそんなに仕事あるんですか?
官僚はいろんな忖度があるので。余計な仕事が増えたりするんです。大企業は残業減らしても業績に影響ないと思いますね。
じゃあ何のために残業してるんですか?
結局は雇用のためです。余計な社員を抱えるために仕方なくやってる仕事が多い。
久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。