36(さぶろく)協定の話をしたいんですけど。
36協定ですか。
はい。たまには社労士っぽい対談も(笑)
36協定って何でしたっけ?
安田さん、ご存知ないですか。
前に聞いたような、聞いてないような。
正確には「労働基準法第36条に関する協定書」と言いまして。会社って基本的には残業しちゃ駄目なんですよ。
え!まったくダメなんですか?
基本的にはダメです。それが36協定という書類を出すと、はじめてOKになる。
なるほど。それが36協定だと。つまり残業の許可申請ですね。
そうです。まず労使で合意して残業時間を決めなきゃいけない。
知りませんでした。
今日ここでお伝えしたいのは、2020年4月から中小企業にも残業の上限規制が始まったこと。
それは知ってます。「残業代ちゃんと払えよ」ってやつですよね。
ちょっと違います(笑)重要なのは、枠が決まったということですね。
これ以上はダメだよと。
そう。
それと36協定が関係あるんですか?
じつは36協定の書類って、これまでは法人番号を書く欄がなかったんです。
どういう意味ですか。
すごくないですか?2020年4月からついに番号を書く欄ができたんですよ。
できたらどうなるんですか。
どこが出していないかを監督署が把握できる。
え!今まで把握してなかったってことですか?
してなかったんです。というかアナログすぎて把握できなかった。
だって書類は保管してるわけでしょ?
はい。アナログファイルで保管してました。
ファイルに番号がなかったということは、アイウエオ順に並べてたとか。
いろはにほへと順です。
・・・
本当ですよ。冗談だと思いますよね。
ホントなんですか。
本当にいろはにほへと順でファイルが並んでたんです。労働基準監督署には大きな書庫があって、そこにファイルを保管してたんです。
じゃあAという会社が36協定を出しているかどうか調べるには・・・
ファイルを探すしかなかったわけです。
手作業で?
はい。
それが簡単に分かるようになったと。
そういうことです。で、お伝えしたいのは【労働条件等を整備するための自主点検の実施のお願い】という書類が、労働基準局から送られてるはずなんです。
また長い名前の書類ですね。
簡単に言えば「36協定出してますか?」ってことを答える自主点検表みたいもの。最近これに対する問い合わせが非常に多くて。
いつも思うんですけど。なぜ役所の書類ってあんなに分かりにくいんですか。
分かりにくいですよね。
「36協定出してますか?」「出さないで残業するのは違法ですよ」って書けばいいのに。
そうは書いてないですね。
全部読んだらそういう意味なんでしょうけど。普通の人には読めませんよ。社労士に問い合わせがいくように、わざと分かりにくくしてるとか。
確かにあれで仕事をつくってもらってますね。
そもそも日本の法律って、弁護士さんの解説がないとまったく分からないし。
法律関係の書類って「または」とか「かつ」とか、接続詞がすごく多いので。
どっちなのか分からなくなります。専門の先生に相談するしかない。
士業の人間がそれで食べてることは事実ですね。
その36協定の書類は、返事をしないと「えらいことになる」ってことですか。
そうです。「国が点検表を送る意味は何なのか?」ということが重要でして。
「ちゃんとリマインドしましたよ。次はしっかり取り締まりますよ」って意味じゃないんですか。
それしかないですよね。なので間違いなく2022年のトレンドは「36協定を出してない会社に労基署が来る」ということを予言しておきたい。
出してない事業所ってものすごい数じゃないですか。
ものすごい数でしょうね。これまで半分も出してないですから。
それだけの数を労基署は回れますか?
だからそこを仕組み化しようとしてる。
どのように?
労基署に是正勧告されると厚労省のホームページに公表されるんです。
36協定を出してない会社が分かっちゃうってことですか。
そうです。
それだけ?
そこに載ると、暇な人がブラック企業アラートみたいなアプリに載せちゃう。
そんなアプリ誰が見るんですか。
転職時に見る人が増えてます。
へえ〜。
いずれ厚労省のプラットフォームで「36協定を出しているかどうか」が検索できるようになります。これが一般化すると、就職する前に必ずそこで調べるようになる。
採用にもろに影響するようになってくると。
そういうことです。
大したことなさそうですけどね。
採用だけの話ではないんです。安田さんが考えてるより影響が大きいんですよ。
ピンときませんけど。
36協定を出して残業の許可をもらってる会社と、そうじゃない会社が選別されていくということ。
イメージダウンにつながるってことですか。
間違いなく業績にも影響するようになっていきます。
厚労省はそこを狙ってると。
私はそういう意図だと思っています。企業を選別するための手段として36協定を使う。
久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。