第172回 自国に投資できない国

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第172回「自国に投資できない国」


安田

日本の生命保険会社が確定拠出年金の予定利率を引き下げるというニュースがあって。妻がガッカリしてました。

久野

確定給付ですよね?

安田

確定拠出型年金とは違う?

久野

違います。確定給付企業年金です。安田さんは確定拠出年金です。

安田

これ別ですか。なんて紛らわしい。

久野

まったく別です。確定拠出年金は積み立ての金額が確定してるんです。安田さんの場合だったら5万5000円が確定してる。だから確定拠出。

安田

日本の生命保険会社のニュースは?

久野

確定給付ですね。これは将来もらえるお金が決まってるんですよ。

安田

同じじゃないですか。

久野

ぜんぜん違います(笑)確定給付は支払いが確定しているので、運用がうまくいかなかったら足さなくちゃいけない。

安田

誰が足すんですか?

久野

年金を積み立ててる企業ですね。

安田

その運用を生命保険会社に依頼しるわけですか。

久野

そういうことです。

安田

なるほど。生命保険会社がその金利を引き下げたと。

久野

そういうことですね。

安田

「1.25%で運用します」と言ってたのが、いきなり0.5%まで下げた。

久野

そうです。

安田

それって大変じゃないですか。

久野

受け取る側はちょっと残念ですよね。

安田

生命保険会社はいいとこ取りですね。駄目だったから下げますみたいな。

久野

それでも0.5%は増やしてますから。

安田

0.5%でも立派ってことですか。

久野

運用を依頼してる企業にとっては問題ないです。

安田

なぜ問題ないんですか。

久野

従業員に払う金額は決まっているので。

安田

じゃあ金利が下がっても、従業員は決まった金額は受け取れると。

久野

0.5%だったら問題ないです。これがマイナスだったりすると、その差額を企業が埋めなきゃいけなくなる。

安田

なるほど。

久野

リスクを負いたくないので国債とかを中心にやってる感じ。だから0.5なんてまだいい方です。

安田

銀行に預けとくよりましだと。

久野

そうですね。

安田

じゃあ元の1.25ってすごく優秀なわけですか。

久野

そうですね。

安田

久野さんお勧めの確定拠出型年金だったら、もっと運用できますか。

久野

確定給付と確定拠出の大きな違いは、確定給付は会社が契約した先に任せるってこと。

安田

確定拠出は違うと。

久野

確定拠出は会社が選んだラインナップではあるんだけど、最終的には自分で選ぶ。

安田

自分で選んだほうが増えるんですか。

久野

確定拠出年金を運営している会社がいろんな商品ラインナップを持ってて、そこから自分で選ぶんです。

安田

どんな商品があるんですか。

久野

有名なやつだったら、ひふみ投信とか、ひふみ年金とか。あとS&P500っていうのが最近ラインナップに加わって。これはすごい有名ですね。

安田

そんなに有名なんですか。

久野

安田さんが入ってるやつですよ(笑)

安田

おお(笑)ちなみに平均利回りはどれぐらいなんですか?

久野

2021年9月時点の格付投資情報センターのデータを集計した日本経済新聞の記事では、確定拠出年金の利回りは0%以上~1%未満の人が30%ぐらい。1%以上~3%未満が15%くらい、6%以上~10%未満の人が25%くらいだと書いてありました。元本割れの人は3%ぐらい。

安田

6%〜10%!すごいですね。にわかには信じ難いです。

久野

日本にいるとそういう感覚になっちゃいます。でも世界的に見たら異常値ではないですよ。

安田

世界経済はそれぐらい成長してるってことですか。

久野

間違いなく成長してますね。人口が6%ぐらい伸びてますので。

安田

日本にいると5〜6%なんて怪しい話に見えちゃう。

久野

そうですよね。

安田

だって銀行からお金を借りたって金利1%とかですよ。

久野

実際はもっと安いですよ。企業だと0.9とか。

安田

じゃあ銀行からお金を借りて、そういうところで運用してる企業もあるんですか。

久野

今、多いですよ。

安田

そうなんですか。

久野

本当は駄目なんですけど。目的が違うので。

安田

なぜ銀行はそんな安い金利で貸し出すんですかね?世界経済が5~6%も伸びてるなら自分で運用すればいいのに。

久野

国債は買ってますけどね。

安田

国債なんて金利低いじゃないですか。プロなんだから10%ぐらい運用できるでしょ。

久野

日本の銀行はずっとそういう商売をやってこなかったので。

安田

自分で運用できないってことですか。

久野

そうですね。

安田

海外はどうなんですか?

久野

海外で金融ビジネスやってる人からしたら投資は当たり前ですね。アメリカ人は普通の人でも収入の一部を投資に回してますから。

安田

その感覚はどこから来るんでしょう。

久野

日本のような皆保険制度がないから投資運用は必須なんです。働きたくない人も多いので、投資してお金が増えてきたら仕事を減らしてく感じ。

安田

日本人にはない感覚ですね。

久野

日本人はずっと同じ仕事量で、資産もずっと同じという感じ。

安田

国民性が金融向きじゃないんでしょうか。

久野

アメリカの選挙では株価の優先順位がすごく高いんですよ。株を上げてくれるんだったら「他のことはいいよ」って人が多い。

安田

日本は貯金が多いと言われますけど。もっと投資した方がいいんでしょうか。

久野

手堅く投資するなら海外ですね。日本株もグローバルに展開してる会社しか伸びてないんでよ。今の円安を見ても外国の資産を持つことが大事。

安田

自国の未来に投資できないって寂しいですね。

久野

ドメスティックな仕事はもう厳しいです。UNIQLOもグローバル企業だし、ソフトバンクなんか完全に海外投資ですし。

安田

AmazonやAppleを買っとけば間違いないと。

久野

残念ながらそういう結論になっちゃいます。GAFAはまだまだ伸びるでしょうね。

この対談の他の記事を見る



久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

感想・著者への質問はこちらから