第207回 消費と労働の自己矛盾

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第207回「消費と労働の自己矛盾」


安田

今年は元旦からイオンがやってまして。ブラックだって書かれてました。

久野

それだけで?

安田

最近は消費者からも「正月は休もうよ」って言われる時代ですから。

久野

休むようになった一番の理由は人不足だと思います。とくに主婦に配慮しなきゃいけないから。最近はみなさん家族行事を優先してクリスマスにも有給を取るし。

安田

いいんじゃないんですか。それで。

久野

でも事業としては、やらなきゃいけないわけじゃないですか。

安田

休んだらいいじゃないですか。

久野

休むと困る人もいるんですよ。たとえば31日にそば屋がみんな閉まってたら困るじゃないですか。

安田

いやいや。そば屋はいちばんの稼ぎ時ですから(笑)稼ぎ時の人が休んでどうするんですか。

久野

だからそういうことですよ。会社としてもそこが稼ぎ時で。だけど今は労働者の方が強くなっちゃってる。

安田

稼ぎ時なのにパートもバイトも休んじゃうと。

久野

へたしたら社員まで休む。

安田

それは採用戦略を失敗してるだけだと思います。「時給が高いんだったら年末年始に働きたい」って人は必ずいますから。みんなが帰省したいわけじゃない。

久野

私もそう思いますよ。だけどメディアは叩くじゃないですか。ブラックだとか言って。

安田

そうですね。

久野

現実はかなり多様化していて、年始に働きたい人もいるはずなんです。

安田

絶対いますよ。

久野

だけどこの手の記事って必ず「働く人が可哀そう」という書き方で。

安田

メディアは煽ることで成り立ってますからね。

久野

そうなんですよ。客としては「何で開いてないんだよ」って言うくせに、働く人が可哀そうっていう。

安田

メディアの言うことは矛盾してますね。

久野

好き勝手書くのでマネジメントがすごくやりにくい。転勤させたら可哀そうとか、子どもが熱出したのに会社に行かなきゃいけないのは可哀そうとか。

安田

それなのにサービスは求めるってことですか。

久野

そうなんですよ。そこのバランスがめちゃくちゃ悪くて。ヤマト運輸の社長が言ってましたけど、「私たちは、労働者と同時に消費者なんだ」って。

安田

正論ですね。

久野

ヤマトって値上げしたじゃないですか。

安田

はい。

久野

値上げすることによって給与が増えて、新しい物が買えるんだって。そういう感覚が日本人は薄すぎると思います。値上げも、絶対許容しないじゃないですか。

安田

しませんね。みごとに顧客が離れていきます。

久野

値上げしないと自分の給与も増えないはずなのに。

安田

ですよね。

久野

年末年始の休みに関しても同じだと思います。サービスは求めるくせに店を開けると叩く。

安田

お正月ぐらいはお正月らしく、みんなで休んでもいいと思うんですけど。

久野

でもそれって会社の方針もあるわけですよ。たとえばコンビニなんて出てもらわないと困るわけです。

安田

それは年末年始に?

久野

年末年始に限らず土日とかも、シフトに入ってる時は出てもらないと困る。にも関わらず休む人がいるんですよ。

安田

コンビニはもう無人化するしかないですね。

久野

でも自分でシフトを入れてるわけですから。その皺寄せで泣いてる人もいるわけです。

安田

FCオーナーの店長は泣いてそうですね。土日や夜中に働きたい人を積極的に採るのはどうですか?

久野

夜中に働きたい人が来てくれる店はいいんです。でもそんなこと言ってられない。夜中に働きたくない人も採らないと回らないです。

安田

無理やりやらせても続かないと思いますけどね。

久野

だけど勤怠ぐらいは約束してほしいですよ。労働契約なんですから。

安田

確かに。私もお店の経営者だったらそう思うでしょうね。

久野

日本の労働契約って時間を買ってますから。アメリカみたいに成果を買ってるわけじゃない。

安田

そこを納得して雇用契約を結んでるわけですもんね。

久野

そうなんですよ。夜中や休日も仕事がある。元々そういう契約ですから。まあパートのシフトに関しては企業にも問題があるんですけど。

安田

どんな問題ですか?

久野

シフトを少なめにしておいて、「もっと来れる?」みたいにしっちゃってる。

安田

それはなぜ。

久野

出来るだけ無駄な時給を払わないためですね。シフトに入れると報酬が発生するので。

安田

なるほど。

久野

正社員に関しては話が別だと思いますけど。

安田

正社員はこれだけ守られてんだから。企業の稼ぎ時ぐらいは、一緒に頑張ってくれよって感じですよね。

久野

そうですよ。数字にコミットしないんだったら、それぐらいはやってほしい。その分高い給料を払ってるんですから。

安田

高い人件費分の値上げも受け入れないとダメですよね。消費者として。

久野

そうです。休みの日に人を動かしたら高いんです。自分だって休日にはたくさん払って欲しいはずですから。

安田

高い料金は払いたくないけど、休みに働くなら高い報酬を払って欲しい。これでは回らないと。

久野

回るわけないですよ。宅急便だって急ぎで頼んだら高くなるのは当然なんです。だって人が動いてるんですから。早いのは高いんです。

安田

そりゃそうですよね。消費者の自分と労働者の自分が矛盾しちゃってる。

久野

それが日本のおかしなところです。

安田

メディアはどっちも叩きますもんね。高くしたら叩くし、給料が安いと叩くし。

久野

メディアが叩いて煽った結果が、今の円安や不景気なんだと思います。

安田

確かに。

久野

みんな消費者であると同時に、労働者でもあるわけで。ちょっと考えたら分かることなんですけど。

安田

考えない人がメディアの情報に乗って、流されちゃうんでしょうね。

久野

流されるだけならいいんですけど。値上げも給料が安いのも、両方とも経営者の責任にされちゃいますから。

安田

よく考えたらひどい話ですよね。

久野

無茶苦茶ですよ。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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