第208回 タイパ時代のビジネス

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第208回「タイパ時代のビジネス」


安田

タイパって知ってますか?

久野

コスパよりタイパってやつですよね。

安田

はい。お金より時間を優先する傾向が強くなっていて。アーティストのヒャダインさんっていう人が怒ってました。

久野

ヒャダインさんは知らないです(笑)

安田

じつは私も知らないんですけど(笑)

久野

けっこう有名な人ですよね。

安田

テレビにも出ていて。でもヒャダインさんではなくタイパの話です。

久野

若者はタイパだって言いますよね。

安田

はい。タイムイズマネーじゃなくタイムイズタイム。映画や音楽を早送りで聞く時代なんですよ。1日24時間しかないので。

久野

凄いですよね。

安田

昔は偉い人が忙しかったイメージですけど。

久野

偏見ぽいけど、そうかもしれないです。

安田

いまやもう全員が忙しいんです。やることたくさんあり過ぎて。隙間時間がないんです。SNSはあるし、ゲームはあるし、漫画も映画も見放題だし。

久野

それで忙しいんですね。

安田

それで忙しいんですよ。久野さんは仕事が忙しいんでしょうけど。

久野

そうですね(笑)

安田

それはもう古いですよ。今は仕事の優先順位なんて、そんなに高くないんです。

久野

確かに。15位ぐらいかもしれないですね。

安田

生活のために仕方なくって感じで。だから生活レベルを落としてでも時間を優先するわけです。

久野

凄い時代ですね。

安田

アーティストさんからすると、曲を早送りして聞かれたり、映画を早送りで観られるとなったら、もうアートじゃなくなるわけです。ある意味作品への侮辱ですよ。

久野

仕事で見なくちゃいけない動画なら分かりますけど。

安田

私もそう思います。楽しむための映画を早送りしてどうすんだって。だけど今は情報が多過ぎて。サブスクだから「たくさん見なきゃ損」ってなっちゃう。

久野

それで処理速度を上げるわけですか。仕事みたいになってるじゃないですか。

安田

ホントそうですね。たぶん現代人は情報処理が仕事になっていて、友達とのSNSでも送ってきたら即返さなきゃいけないとか。話題の映画も見とかなきゃいけないとか。

久野

話題についていくのも大変ですね。

安田

昔はベストテンだけ見てれば良かったんですけど。今はコミュニケーションするのに莫大な情報量が必要で。もう早送りしないと時間が足りないわけです。

久野

凄い。

安田

一番削られるのが仕事ってことになってくる。

久野

仕事時間を削るのはいいんですけど、時間だけ短くなっていくのは困ります。タイムパフォーマンスを上げてもらわないと。

安田

仕事のタイパも上げて欲しいですよね(笑)

久野

そうですよ。でも仕事の優先順位ってそんなに低かったんですね。

安田

働く人から見たタイパは、「出来るだけ短い時間で、出来るだけたくさん給料がもらえる仕事」なんですよ。それがタイパのいい仕事。

久野

確かに。

安田

江戸時代の一生分の情報が「現代では1日で得られる」と言われてたのが、もう20年ぐらい前。今は一生分の情報が1日で手に入る時代です。

久野

1日もかからないでしょうね。

安田

ホントそうですよ。昔は一生に一回、お伊勢参りとか、富士山とか、行けるか行けないか。

久野

今だったらGoogleマップで見て終わり。行かなくても行ったぐらいの情報が手に入るし。

安田

そうなんですよ。世界遺産も見なくちゃいけないし、世界中のアーティストの音楽も聞かなくちゃいけないし。とにかくやることが多い。

久野

そこまで頑張らなくてもいい気がしますけど。

安田

久野さんは仕事以外にあまり時間かけないんですか?映画を観たり、本を読んだり、音楽を聞いたり、SNSをやったり。

久野

本は読みますね。映画も結構観たりします。

安田

早送りせずに?

久野

映画は早送りしないですけど、Netflixは1.5倍で見てます。

安田

してるじゃないですか!

久野

Netflixは1.5倍でも何とかなる気がして(笑)

安田

それはドラマってことですか?

久野

イカゲームみたいなやつ。「とりあえず内容を把握しとかなくちゃ」って。

安田

若者と同じですね。アーティストさんがやる気をなくすパターン。

久野

それも分かります。映画やドラマって間合がすっごい大事ですからね。

安田

映画やドラマの作り方自体が変わって行くんでしょうね。

久野

音楽もイントロが特徴的じゃないと、イントロでもう離脱しちゃうみたいです。

安田

イントロが長いと駄目だって言いますよね。

久野

イントロが長いと待ってられないんで、すぐ変えられちゃう。もういきなり歌わなきゃいけない。

安田

映画の場合はどうなるんでしょう。サスペンスとか。

久野

いきなり殺さないといけないとか(笑)

安田

音楽も割り切ってサビだけの曲を作るとか。

久野

そういう傾向らしいですよ。サビしか聞かない。本当に蛇口をひねるように音楽が流れちゃうので。

安田

2倍速で聞かれるのを前提に、半分の速度で演奏するとか。

久野

音楽は2倍速ってあんまり聞いたことないですけど。

安田

そうか。音楽は倍速で聞くのではなく、サビ以外を跳ばすんでしょうね。

久野

そうでしょう。10秒先まで早送りするボタンがありますから。

安田

そのうちサビの部分だけのCDとか出てきそう。

久野

可能性ありますよ。映画も重要シーンだけ50本分ぐらい繋げるとか。ビジネス書籍を全部まとめた動画とかも出てきてますし。

安田

確かに。本を読まなくても10分動画見れば内容は分かります。そういう時代ですよね。

久野

価値の本質が変わっちゃいますよ。

安田

近所に5秒ぐらいで診察が終わる皮膚科がありまして。ほとんど流れ作業なんですよ。

久野

診察はちゃんとして欲しいです。

安田

通い続けてる人って、結局は同じ薬をもらうだけなので。そのクリニックすごく評判いいんですよ。短時間で、こっちがほしい薬を全部出してくれるって。

久野

なんか本質から外れてる気がしますけど(笑)

安田

久野さんが言うように、価値の本質が変わって来てるんですよ。割り切って考えないと。ほんとビジネスが難しい。丁寧にやったらお客さんが来るわけじゃないので。

久野

確かにそうですね。

安田

私が行ってる美容室もカットがめちゃくちゃ速いんです。10分ぐらいで全部終わる。だけど男性には大人気です。

久野

分かります。私も美容室に行って、「とにかく30分で切ってくれ」って言うんです。「久野さん、めちゃくちゃ生産性高くてありがたいです」って言われました。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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