第211回 延命が命取りになる日

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第211回「延命が命取りになる日」


安田

Googleが1万2000人削減するそうです。

久野

Twitterはついに1300人になりましたね。

安田

こんなに抜けたら「絶対に回らない」って言われてましたけど、普通にTwitter使えてますね(笑)

久野

結果的に見るとダブついていたんでしょう。

安田

必要ないと思ったらズバッと切りますよね。Googleなんて儲かってる会社なのに。

久野

Googleはコロナの「引きこもり需要」に合わせた採用なので。稼ぎ時が終わったという判断でしょう。

安田

Twitterの場合は緩い体質の引き締めでしょうか。

久野

経営改革でしょうね。もともと赤字体質ですから。イーロンマスクの経営者としての決断力はすごいです。

安田

マスクさんは株価が下がって個人資産が半分になったそうです。

久野

それでもやり切るところが凄いですよ。Googleも今はいろいろ多角化してるじゃないですか。

安田

よく分からない事業もいっぱいありますよね。

久野

ほんと、いろいろな会社を買ってくるんですけど、うまくいかない事業もたくさん持ってるそうです。

安田

でしょうね。あんなに色々買収してたら。

久野

撤退ラインもちゃんとあって、「本業が悪くなると人を切る」っていうのは、アメリカの経営の中では普通になってます。

安田

すごい世界ですね。

久野

本来の資本主義においては働く人もバッファなので。調整弁としてこうなってくのかなと思います。

安田

その分、採用する時はいい条件で採用できるし。稼げるときに稼ぐっていう。すごく健全な気もするんですけど。

久野

そうですね。結果的に給料も高いし、勤務してる人にとってAlphabetはすごく働きやすい会社だと思います。

安田

日本もこうならないですかね。必要なときにがんと採って、必要じゃなくなったらバッサリ切って。でないと最先端の分野では勝ち残っていけないですよ。

久野

日本の労働法はそこを許容してないですから。不採算の部門があったら、別の部門で吸収できないか模索しなくちゃいけない。

安田

必要ない人をどんどん抱えていくことになりますよね。

久野

総合職で雇っちゃってるので。業種を限定してないんですよ。逆にいうと会社の都合のいいように労働契約自体ができてます。

安田

会社にとっても都合がいいんですね。

久野

辞令ひとつでどこでも行かせられるので。その代わりに部門がなくなったら「どこかに吸収するよ」という契約ですね。それが日本のスタンダード。

安田

雇われる側もそれに慣れちゃってますよね。雇ったら責任を持って最後まで面倒を見るべきだって。

久野

そういう気持ちが強いでしょうね。

安田

だから給料が増えないんですけど。この先も同じようなスタイルでいくんでしょうか。

久野

基本はこのスタイルで行くんじゃないですか。

安田

それで数十年も停滞しちゃったわけですけど。

久野

簡単には変えられないと思います。

安田

日本に見切りをつけて国外に移住する人も増えてますよ。犯罪も目立つようになってきたし。

久野

やっぱり余裕がないと社会ってこうなるんだなって思いますね。

安田

労働者が甘えすぎなんでしょうか?

久野

経済システム自体が日本は甘くて。経営者にもかなり問題があります。

安田

どこが問題なんですか。

久野

雇用を守るという名目で会社を潰さないようにしちゃう。資金を注入したり、変な助成金を付けたり。生き残れてしまうんですよ。

安田

なるほど。

久野

税制もそうです。小さい会社の方が税金が少なくて済む。そういうのが甘えの構造になってます。

安田

アメリカにはそういう制度がないんですか。

久野

全くないですね。小さかったらもう生き残れない。

安田

のんびりやってられない訳ですね。日本もそうした方がいいんでしょうか。

久野

社会システムの思想がぜんぜん違うので。そこを変えないで制度だけを変えることはできないです。

安田

アメリカには年金や社会保障制度がないですもんね。

久野

すべて自己責任ですね。自分で解決しなさいって。

安田

「そっちの方がいい」って人は、どんどん海外に移っていきますよ。

久野

そうなんです。政府への依存度をもっと減らさないと。

安田

能力が高い人ほど損をする仕組みですよね。

久野

経営トップも悪いと思います。儲からない責任を従業員に押し付ける人が多いので。

安田

儲からないのは経営者の責任だと。

久野

儲かる仕組みを考えるのは経営者の仕事ですね。もちろん社員の頑張りも必要ですけど。仕組みがあるのが大前提です。

安田

仕組みもないのに社員のせいにしている経営者は、「今すぐやめさない」ってことですね。

久野

言いづらいけど、そうなんですよ。

安田

デービット・アトキンソンさんが「中小企業は150万社でいい」って言ってますよね。450万社は多すぎだって。

久野

数もそうですけど、淘汰されるべき会社が生き残ってしまってます。

安田

いい中小企業もいっぱいあるんですけど。

久野

私もそう思います。

安田

やっぱりスケールかスモールか、どちらかに振り切るしかないですよ。合併してどんどん大きくしていくか、あえて大きくしないで付加価値を生み出すか。

久野

本当どっちかしかないと思います。中途半端が一番まずい。

安田

いずれにしても、ひとり当たりの生産性を高めないと。もう生き残っていけないですよね。

久野

社員も幸せにならないし。特別化するか規模拡大するか。どちらかに決めないと。

安田

450万社という中小企業の数は多すぎますか。

久野

多すぎるんじゃないですか。特別化されて生産性の高い中小企業だったらいいですけど。

安田

450万社の特別化はさすがに難しいですね。

久野

ちょっと現実味がないです。おそらく大半はスケール化していくんじゃないですか。

安田

どんどん吸収されていって。

久野

よくてM&Aか、もしくは単にマーケットを奪われての廃業か。

安田

特別化に成功する中小企業はどれくらい出てくると思いますか?

久野

頑張って3分の1ぐらいじゃないですか。

安田

じゃあアトキンソンさんの150万社という主張は間違っていない。

久野

うまく行って150万社じゃないですか。とにかく独自の付加価値を追求するしかないですよ。私もずっと言い続けてるんですけど。

安田

そちらに舵を切ってる中小企業って3%にも満たない気がします。

久野

公的資金で延命できちゃうから決断しないんです。いずれその余裕が日本の命取りになりますよ。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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