第222回 もう家は買えない

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第222回「もう家は買えない」


安田

建設業の倒産が急増していまして。3年ぶりの増加ということです。

久野

この問題はけっこう根深いんですよ。

安田

記事によると工期の長期化、人手不足、資材高が原因だそうです。工期の長期化は人手不足と被ってる気がしますけど。

久野

長期化する原因は人が足りないことと、もうひとつは資材が入ってこないこと。

安田

中国に買い負けてるってやつですか。

久野

そう。家を建てる時に「トイレの蓋だけがない」って笑い話になってます。だから納められない。そうするとキャッシュが入ってこないじゃないですか。

安田

引き渡しをしないと入ってこないですもんね。

久野

引き渡しが遅くなって資金繰りが厳しくなる。さらには賠償や訴訟のリスクもあって。今けっこう大変なんですよ。

安田

納期が遅れると揉めますよね。引っ越しできないから余計な家賃もかかって。

久野

契約時に法律関係の書類もしっかり固めておかないといけないし。建設は難しい時代になってます。

安田

つまり原因は資材不足と人材不足ですね。

久野

現場を見てるともうひとつ大きな問題があって。はじめに見積りを取ってから家を建て始めるじゃないですか。

安田

はい。

久野

それが途中でどんどん高くなっていくわけですよ。

安田

家が当初の予定よりどんどん高くなるんですか?

久野

家は高くできないじゃないですか。

安田

高くなったら困ります。ローンの金額も決まってるし。

久野

だけど資材は上がっちゃうわけですよ。建てている間に。

安田

安いうちに仕入れておくとか。

久野

中小企業にはそんな余裕がないわけです。キャッシュもないから先買いができない。

安田

それは厳しいですね。

久野

発注を受けた3〜4カ月後にめちゃくちゃ資材価格が上がったり。強いところが買い占めたりするので。

安田

強いところというのは、大手ですか。

久野

大手ですね。「あそこには出すな」とか言って。すると収益が全然合わない。

安田

つまり買い負けているわけですよね。

久野

そうです。規模の大きなところに買い負けちゃう。なので高く買うしかない。

安田

納品するために資材を高く買って、人不足解消のために給料もたくさん払って。

久野

そうなりますよね。

安田

解決するには売値を上げるしかない?

久野

それしかないでしょうね。今は売れてるんだけど資金が回ってない状況なので。

安田

値上げに踏み切る企業は増えそうですか。

久野

いや簡単ではないです。何らかの付加価値をつけないと売れないので。

安田

もう大手グループの傘下に入るしかないのかも。

久野

そうなっちゃうかもしれないです。建設業は昔から数が多いので。4〜5人の建設会社ってよく見かけませんか?

安田

地方に行くと多いですよね。

久野

そういうスケールではもうやれない時代になってきてます。

安田

資金が回らないから?

久野

資金も回らないし、人も集まらないです。

安田

4〜5人でも凄腕の大工を抱えてる集団ってあるじゃないですか。

久野

テレビのリフォーム番組に出てくるような職人さんですか。

安田

はい。すごい腕を持っている職人さん。そういう人が集まってる会社はきっとやっていけるんでしょうね。

久野

そう思います。おそらく資材もかなりマニアックでしょうし。

安田

なるほど。

久野

みんなが使わないようなものを上手に使ったり。大量生産の資材を使う会社がいちばん厳しいと思います。

安田

今後さらに厳しくなっていきませんか?人不足が解消するとか、資材が一気に入ってくるとか、そういうイメージが湧かないんですけど。

久野

湧かないですよね。トヨタですら買ってから1年待ちじゃないですか。

安田

あのトヨタでさえ。

久野

半導体がないとか。このままだと本当にまずいですよ。どの業界も。

安田

まだまだ、こんなもんじゃ済まないってことですか。

久野

済まないと思います。

安田

3月の倒産件数が155件で歴史的だって書いてありますけど。まだ増えていく。

久野

増えてきます。それは確実でしょうね。

安田

小さいところはどんどん潰れていくと。

久野

はい。

安田

そこにいる社員さんはどうなるんでしょう?

久野

人材不足ですから。現場に関しては大きいところが持っていっちゃうでしょうね。

安田

じゃあ、その人たちの待遇は逆に良くなるかもしれませんね。

久野

その可能性はあります。

安田

いちばん困るのは中小建設会社の社長さんってことですか。

久野

そうなんですよ。

安田

手に職があれば、自分自身も職人として大手に雇われちゃうのもありですよね。

久野

ただ大手は制約が厳しくて。

安田

そうなんですか。

久野

そういう観点から中小企業を選んでいた人もいるんです。

安田

中小の方が待遇がいいってことですか。

久野

待遇がいいというより、あんまりルールがない感じ。楽しくやれるってことですね。

安田

だけど今後は厳しいと。

久野

厳しいと思います。

安田

やっぱり外国人でしょうか。

久野

外国人にとっても、日本はコスパのいい国じゃなくなってきてます。

安田

稼げる国じゃなくなってますもんね。

久野

小さな会社はどんどんなくなっていくと思います。

安田

小さな会社がなくなるとマーケットはどうなるんですか。

久野

家がもっと高級品になっていくと思います。低価格住宅はもう無理でしょうね。

安田

大手の高い住宅しか選択肢がなくなるってことですか。

久野

はい。このままだとそうなっていきます。もう普通の人には家が買えない時代になります。

この対談の他の記事を見る



久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

感想・著者への質問はこちらから