この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。
安田
いま大企業で若手の転職組が増えてきているそうです。
久野
安田
転職組の方が年収が多いそうで。社内でも矛盾が起こっているみたいです。
久野
どんどんそうなっていきます。終身雇用がもう現実的に機能してませんから。
安田
クビにはならないけど、右肩上がりで給料が増える時代は終わりってことですね。
久野
終身雇用の本質はそこだったんですけど。「若い時に我慢すれば、後からメリットが得られる」という部分。
安田
「給与は増えないけど定年まで雇います」というのは終身雇用じゃないと。
久野
安田
すでに給料が増えた40〜50代にはメリットがあります。転職しても今より給料は増えないし。なんとか定年まで続けたいでしょう。
久野
その人たちの給料を稼いでいるのが若い社員なので。やってられないという感じじゃないですか。
安田
自分が40〜50代になっても増えないんだったら、意味ないですよね。
久野
それがもうバレちゃってるわけですよ。情報が民主化される時代になっちゃいましたから。
安田
昔は他人の待遇なんて分からなかったですもんね。ブラックボックスな部分が多くて信じるしかなかった。
久野
他社の待遇なんてとくに分からないし。「転職なんて危険だよ」って周りから言われて。
安田
今はスマホでいくらでも情報が見れますから。転職組のほうが給料が高いってみんな知ってるでしょうね。
久野
はい。若い人は横から入ってきた方が高くなります。世間相場で給与が決まるので。その事実がもう知れ渡ってます。
安田
久野
しかも今はそこにエージェントが絡む。大リーグでいえば代理人みたいなもので価格交渉も上手にしてきます。
安田
基本的に大企業は30代半ばぐらいまで横一線じゃないですか。みんながちょっとずつ右肩上がりという感じで。
久野
そうですね。だから能力に自信のある人は転職を考えてしまいます。
安田
自信のない若者は残るんでしょうか。ちょっとずつでも増えるのであれば。
久野
いや、転職サイトには登録して、虎視眈々と狙ってると思います。
安田
「定年までここで働く」という若者はもういないってことですか。
久野
安田
昔は「転職します」「起業します」という人がレアな存在でした。今は「定年まで働きます」という人の方がレアなんですね。
久野
安田
このままだとプロパー社員がみんないなくなっちゃいますね。
久野
安田
久野
安田
久野
なるべく「言われなかったら放っておこう」という意識が強いと思います。
安田
久野
デービッド・アトキンソンの『給料の上げ方』という本が面白くて。日本人はもっと自分で「給与の交渉しなきゃ駄目だ」と書いてありました。
安田
給料の上げ方は4つあるって書いてましたね。1番目が海外移住で、2番目が給料を上げる交渉で、3番目が転職、4番目が起業でしたよね。
久野
そうです。でも日本人に海外移住はちょっとハードルが高い。
安田
起業もハードルが高いし。結局3番目の転職が多くなるんでしょうね。
久野
そうなんですよ。だけど転職する前に「もっと交渉した方がいい」というのがデービッド・アトキンソンの主張です。
安田
海外では当たり前みたいですね。給料を増やすための交渉って。
久野
中国ではそれが当たり前で、合意しないと暴れるかいなくなるかだと(笑)
安田
久野
経営者としては言ってもらった方がいいと思うんですけど。
安田
日本人の気質からして、「給料が安いから辞めます」とは言いにくいですよね。交渉なんてせずに転職しちゃいそう。
久野
私もそんな気がします。言ってもらった方が交渉しやすいんですけど。
安田
もし能力の高くない子が「上げてくれ」って言ってきたらどうしますか?
久野
こっちも言い返しやすいじゃないですか。「君にはそんなに払えないよ」って。
安田
久野
安田
意外とそういう人でも転職したら給料が増えたりするんですよね。面接だけでスキルって分からないので。
久野
そうなんです。期待値で結構上がっちゃう。既存の社員ならスキルが見えるので値付けしやすいんですけど。
安田
久野
能力の高い若手の流出が止められれば、それで十分かなと。
安田
そこに関しては、交渉されたら上げる余地はあるってことですか。
久野
あると思います。どの会社も普通に考えたら優秀な人材の流出は避けたいですから。
安田
とは言え3年目ぐらいではそんなに上げられないですよね。
久野
安田
でも入社3年目ってよく辞めるんですよ。同じ会社にいるより転職した方が収入が増えるので。
久野
そうなっちゃうと、もはや新卒採用のメリットがあまりないですよ。
安田
久野
中小企業は「3年で辞める転職組」を採りに行く戦略が正しいかも。
安田
そうですよね。3年目で虎視眈々と転職を狙ってる若手とか。
久野
美容院業界はまさにそんな感じです。美容師って教育にすごくコストがかかるんですよ。新卒から一人前に育てるのがめちゃくちゃ大変で。
安田
久野
でもスタイリストになったら辞めていくんです。3年から5年で。だから新卒採用しているサロンは「スタイリスト養成サロン」って言われてます。
安田
可哀想ですね。給料を払いながら教えて一人前になったら独立されちゃう。
久野
独立した人だけを集めてやってるサロンはめちゃくちゃ儲かってます。
安田
そりゃそうですよね。教育費がかからないわけですから。自社で教育した時点でもう負け戦。
久野
はい。新卒からの教育は相当余裕がないと厳しいです。
安田
日本では「新卒の価値」みたいのがあったじゃないですか。新卒じゃないと入れない会社とか。
久野
そこも変わっていくと思います。大企業もどんどん中途採用にシフトしてますから。
安田
日本も欧米みたいになっていくんですかね。新卒はインターン扱いで、給料もすごく安くて、徐々にキャリアアップして目当ての会社に入っていく。
久野
そうなっていかないとおかしいです。これまでのような新卒一括採用はどこかで必ず終わると思います。
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安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。