第11回 ファミリー型経営は、家族経営にあらず。

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第11回 ファミリー型経営は、家族経営にあらず。

安田
今回は「ファミリー型企業」について、鈴木さんがどう思っているのか聞かせていただこうと思っています。

鈴木
それは本当の「家族経営」のことではなく、「社員は家族同然だ!」みたいな組織づくりってことですかね。
安田
まさにそういうことです。日本ではそういう考え方が良しとされてきた時代が長かったじゃないですか。そういうのって、どう思います?

鈴木
僕は苦手ですね。だってホントの家族じゃないですもん(笑)。
安田
笑。ホントの家族かどうかで、けっこう違うと。

鈴木
そりゃそうですよ。たとえば子育てってすごく大変ですよね?あんな大変なことを、社員にも同様にするつもりはないんです。家族じゃないんだから、ちゃんと自分の責任で頑張ってよ、という気持ちがある。
安田
なるほど(笑)。かく言う私も昔は、家族とまでは言わないまでも、「人生のパートナー」くらいの感覚で社員と付き合っていたんです。でも結果を言えば、「経営者と社員の間の溝は永久に埋まらないな」と思いました(笑)。

鈴木
笑。やっぱり雇用関係がある限り、そうなっちゃいますよね。
安田
もっと言ってしまうと、「ファミリー型企業」って社長が嬉しいだけなんじゃないかなって。そもそも社員側は別に「ファミリー型企業」なんて求めていない気がするんです。

鈴木
あー、確かに。「ファミリー」って言っているのは社長ばかりで、実際は社長の顔色をうかがってビクビクしている社員ばかり、なんて組織もよく見ます。
安田
そうそう。社長のパフォーマンスに見えちゃうんです。社長に強制されるから社員も「家族」を演じるんだけど、でも心の中では白けてる…というような。

鈴木
僕が社員だったら、「社長、僕らは本当の家族ではないんですから、もっと距離を置いて接してください」って言っちゃうかな。申し訳ないけど(笑)。
安田
笑。でも実際どう思います?「ファミリー型企業」って、社長の自己満足なんでしょうかね?鈴木さんは社長のお友達が多いから言いにくいかもしれないですけど。

鈴木
うーん、どうなのかなあ。戦略的にそういうコンセプトを打ち出すのはナシではないと思うんですけどね。でもあくまでも「手法」の話で、本気で「社員を家族」だと考えながら経営するのは難しいんじゃないかなあ。
安田
そうそう。無理がありますよね。だって自分の子どもには当然学費を払いますけど、社員や社員の家族に同じことをするかっていったら、絶対払わないじゃないですか。

鈴木
まあそうですよね。ともあれ、中にはそれに近いくらい社員や社員の家族の面倒を見てる社長もいますけどね。
安田
そんな方がいるんですか?

鈴木
僕の知り合いにいましたよ。社員が事故に遭って大怪我をしちゃったんですが、もし治らなかったら一生俺がこいつの面倒をみるって。結局、その人の怪我は治ったようなんですが、本気でそれくらいの覚悟をしてたそうです。
安田
へえ、すごいですね。でも確かに、そういう特殊な事情がある方を1人、2人背負って生きていく、というのはまだ理解できます。でも組織全体をそのレベルで背負うなんて無理じゃないかと。

鈴木
多分、皆さん安田さんが仰るほどの覚悟で言っているわけじゃないと思いますよ。もう少しライトに「社員は家族だ」って言っているだけだと思います。
安田
ああ、確かにそうなのかもしれませんね。でも実際多いじゃないですか、「ウチはファミリーだ」って言う会社。特に中小企業に多い気がします。

鈴木
多いですよね。組織規模が大きくないからこそ、関係性が家族的、言わばウェットになりがちというか。
安田
そうそう。俺たちは家族なんだから、いちいち残業代とか言わずに働いてよ、みたいになってしまう。ウェットというか、逆にドライなんじゃないかと思ってしまいますけど。

鈴木
ああなるほど。実際、本当の「家族経営」なら、残業が多いとか休日がないとか、いわゆるブラック的なことでも成り立ってしまう場合が多いですもんね。
安田
ですよね。でもそれは本当の家族だからギリギリ許されることなのであって。

鈴木
現実的には他人に違いない社員に対して、そんなのは成り立ちませんよ。
安田
とはいえ、鈴木さんは60歳で社長引退を宣言されているじゃないですか。で、次期社長が「これからはファミリー型経営でいきます」って言い出したらどうするんです?

鈴木
いやー、まあ、そうしたいなら別にいいんじゃないですか。それは社長を担った人の判断ですし。大変だぞとは思うけど。
安田
実際、経営手法として「ファミリー型」を目指す人って割と多いと思うんですよね。でも先ほどあれこれ話したように、それはなかなか成り立たないわけじゃないですか。

鈴木
ですよね。成り立たないだけじゃなく、ブラック的な働き方を強制しかねないものでもある。むしろ、「家族」という言い方に、経営者側の横暴のようなものが透けて見える気がしますよね。
安田
そうそう。それにね、本当の家族だったら、もっと生々しくてドロドロしているはずなんですよ。でも、「ファミリー型企業」って、そういうドロドロを見ないで、ただただ理想の家族像のようなものを想定している気がするんですよ。

鈴木
ああ、確かに。そういう意味でも社長のエゴって感じがしますね。自分の理想像に社員さんを巻き込むのは迷惑以外の何物でもない。僕が働く側だったら、そういうのはやっぱり嫌だな。
安田
逆に言えば、そういう会社で出世するには社長の考えに賛同すればいい、ってことになる。「僕は家族ですよ!」って言えば社長は嬉しいわけですから。そしてだんだんと社長の周りはそういうタイプばかりになっていくわけで。

鈴木
一方で、その輪に入れない社員たちは、そういう「家族的関係」を冷ややかな目で見るようになると。
安田
社長はますます「家族」にこだわるようになり、それに賛同できない社員は、仮にすごく優秀な方でも去っていく。社長と仲がよいとか気に入られているということだけで評価をしていると、本当にいい人材が抜けていっちゃうわけです。

鈴木
確かにその通りですね。そういう意味でも、むしろ「仕事だけの付き合い」をした方が、経営的にもうまくいく気がするけどなあ。
安田
私もそう思いますね。実際欧米なんかは、経営者も社員同士も完全に「ビジネスの付き合い」じゃないですか。それでも問題なく会社は回っているわけで。

鈴木
そうですね。まあ、「ビジネスだけの付き合い」も「家族的な付き合い」もどちらもメリット・デメリットはあると思います。社長も社員も、自分の感覚にマッチする会社を選べればそれでいいんだと思いますよ。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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