第236回 人不足の行き着く先

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第236回「人不足の行き着く先」


安田

東京のビジネスホテルがすごい人不足でして。時給1300円で募集してもまったく来ないそうです。

久野

そうなんですよ。

安田

時給1000円が安い時代になったんですね。給料が増えてないって言われてたのに。

久野

やっと、という感じじゃないですか。

安田

パートも1200〜1300円が最低ラインになってきますか。

久野

そうでしょうね。ウチももっと給料あげなきゃいけない。

安田

でも最低賃金が1000円以下の地域もあるんですよね。

久野

たくさんあります。

安田

地方だと1000円以下でも人が来るんですか?

久野

いや、地方の方が人不足は深刻です。

安田

そもそも人が少ないですもんね。

久野

地方は面白い仕事も少ないし、給料も安いし、もうかなり厳しいです。

安田

面白いかどうかより、生活に直結したインフラが優先なんでしょう。飲食店とかスーパーとか。

久野

そうなんです。飲食もスーパーもないと困ります。だけど働いてくれる人が来ない。

安田

このまま人件費が上がっていくと厳しいですよね。

久野

どこかで破綻する時が来ると思います。

安田

地方ではどうやって人を確保していくんでしょうか。

久野

地方では「高齢者を定年後は安く使ってもいい」という考えが、まかり通ってまして。

安田

高齢者で穴埋めしていくわけですか。

久野

地方は高齢者人口が多いので。安い仕事に対して高齢者の人が働きに出るんです。

安田

働きたい高齢者がたくさんいるってことでしょうか。

久野

若い子は少ないけど高齢者はいるっていう状況なので。そこをターゲットにして、なんとかまだ人が採れてる状況です。

安田

それもどこかで限界が来ますよね。

久野

どこかが給料を上げ始めると一気に全体が上がっていきます。今は高齢者頼りでやってますけど10年経つとガラッと変わる。

安田

若者が採れなくなって、パートも採れなくなって、次はおじいちゃん、おばあちゃんも採れなくなる。

久野

そうなっていくでしょうね。

安田

安くてもやってくれているのは年金があるからでしょうか。「ちょっとお小遣い稼ぎ」みたいな感覚で。

久野

そこに経営者が甘えちゃってるってことですよ。

安田

いずれそこも上がっていくと。

久野

人不足で大きな会社がその層を採りにくるので。中小企業にとっての「最後の聖域」がなくなっていきます。

安田

高齢者が最後の聖域ですか(笑)

久野

そうなっちゃってますね。

安田

今後はコンビニなどの大手がおじいちゃん、おばあちゃんを採用しにくる。

久野

地方のコンビニはすでにその状態です。

安田

外国人じゃなく?おじいちゃんですか。

久野

そうですよ。今どきは外国人も日本に来るとコスパが悪いと思ってるから。

安田

おじいちゃんたち「電子マネー決済」とか出来るんですか。

久野

コンビニのレジは優秀なので。

安田

確かに。お客さんが勝手にやってくれますもんね。

久野

そうなんですよ。セブンなんてお釣りも勝手に出てきますから。

安田

袋に詰めることができればOKだと。

久野

そうなんですけど高齢者の方って一生懸命働くんです。だからコスパが良すぎちゃう。

安田

企業戦士だった世代ですもんね。

久野

いま大手がそこを狙ってきてます。

安田

今後は年金も減っていくし。「ちょっとお小遣い」じゃなく「生活のため」という人が増えていくんでしょうね。

久野

仕事を選ぶようになるでしょうね。そうすると状況が大きく変わる。

安田

質の良いバイトを採ろうと思ったら、時給1800円ぐらい出さなきゃいけない時代になるんでしょうね。

久野

そうなるでしょう。若い子も最近はお金がかかるようになってきているので。

安田

奨学金という名の借金をたくさん背負っていたり。

久野

そうなんですよ。今までは「安いけど面白そうな仕事」で採れたんですけど。これからは「面白くて稼げる」仕事にしないと、もう人が来ない。

安田

高齢者の人はお金よりやりがいを優先しそうですけど。子供も独立してるでしょうし。

久野

そんなことないですよ。晩婚化で65歳過ぎて大学生の息子がいるケースもありますから。

安田

確かに。私もそうですからね。

久野

地方のビジネスホテルなんかは本当に大変だと思います。もう高齢の人も簡単には採れない。

安田

スタッフに時給1500円以上払うとなると、もう安いビジネスホテルでは無理ですよね。

久野

安いビジネスホテルはベッドメイキングを自分でやるとか。ロビーでシーツを抱えて部屋まで行くとか。そんな感じになると思います。

安田

そこまでいっちゃうんですか!

久野

人を動かすと高くなるので。「掃除も自分でやってください」「その代わりちょっと安いです」みたいな。

安田

そんなホテルに客が来るんですか(笑)

久野

チョコザップってあるじゃないですか。

安田

はい。ライザップの廉価版バージョンの。

久野

チョコザップは掃除をやると安くなるんです。

安田

え!会員が掃除するんですか?

久野

掃除すると安くなるんです。うまく出来てますよ。人を雇わない仕組み。

安田

だけどそれを管理する人が必要じゃないですか。

久野

監視カメラで管理するんでしょう。

安田

徹底してますね。

久野

ホテルもオプションでシーツを被せるとか。タオルは自分で持っていくとか。何もないのが標準になると思います。

安田

安くしようと思ったら自分でやってもらうしかないと。逆に高いホテルは至れり尽くせりで。

久野

言い方は悪いですけど、やっぱり人がコストの源泉なんです。

安田

でもそれは正しいですよね。コストに対して正しく報酬を払わないと。

久野

「人が動いたらお金がかかる」っていう意識が日本人は薄すぎる。

安田

自分も労働者のはずなのに。動く時には高い報酬を要求するのに、人を動かしてもお金払いたがらない。

久野

順番が大事なんです。払うのが先。みんなが払えば結果的にみんな豊かになっていくわけです。

安田

先には払わないでしょうね(笑)

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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