第273回 飲み営業の進化バージョン

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第273回「飲み営業の進化バージョン」


安田

一昔前の営業ってお客さんと飲むことが当たり前でしたよね。

久野

営業マンにはタイムカードがないイメージでした。

安田

今はその時間も残業になるんでしょうね。だから手当を払わなくちゃいけない。

久野

ちょうどこの前セミナーやったんですけど。本来は仕事じゃないんですよ。だから残業ではないんです。

安田

そうなんですか?もちろん飲み会に参加するだけなら残業じゃないと思うんですけど。実際にそこで商談したり、売上につなげたりするわけじゃないですか。

久野

労基法上、言われているのが「特別な命令や使命を受けてやること」に関しては労働だろうと。単に飲み会に参加して仕事の話をするぐらいは労働じゃないというライン設定ですね。

安田

なるほど。じゃあお客さんと飲むことで売上に繋がる、いわゆる接待飲み会はどうですか?会社や上司の指示命令があれば労働時間になるんでしょうか。

久野

判断が難しいところですが、もう飲み会も労働時間で考えた方がいい時代だと思います。

安田

ポイントは社員が断れるかどうかだと思うんですけど。「行きたくないなら行かなくてもいいよ」ってことなら仕事ではない気もします。

久野

でも現実問題として断れないんじゃないですか。

安田

そうなんですよ。断ったら実質評価が下がる仕組みになっていたり。となると飲み会も営業だと言えますよね。

久野

そういう側面はあると思います。もう時代が変わったので、そもそも「飲み会をしないと仕事が取れない」というモデルがまずいと思う。

安田

でも、そういう仕事っていっぱいありますよ。

久野

ありますよね。でも、そういう時代じゃなくなっちゃった。

安田

大企業に向けた営業ってほとんどそんな感じだと聞きました。飲みの場で仲良くなって仕事が続いたり。

久野

分かります。

安田

中小企業は経営者が相手なので。いい提案なら聞いてくれますけど。大企業は財布を握っているのが担当者なので。一緒にいて楽しい人に発注するみたいなところがあるんでしょう。

久野

私も大企業の方から食事に誘っていただくことがあって。そういうのは感じますね。

安田

大手はなかなか入り込みにくくて。そこを崩そうと何年もかけて担当者と仲良くなるそうです。

久野

なるほど。

安田

まともに提案するだけでは口座も開いてもらえないし、仕事も取れないわけですよ。

久野

安田さん詳しいですね。

安田

大手向けの営業をしている人が近くにいまして。すごく閉じたコミュニティなので、ある意味おいしい市場なわけですけど。

久野

それだったらもう逆に残業代を払ってでも行かせた方がいいんじゃないですか。

安田

そうですよね。それで仕事が取れるんだったら。

久野

もう本業じゃないですか、そんなの。

安田

そうなんですよ。まさに夜が仕事の本番という感じ。

久野

残業代を払っても「行きたくない」という人も多いでしょうけど。

安田

残業手当が出るんだったら「喜んで行く」って人もいますよ。

久野

いますかね。

安田

基本的には早く帰りたい人が多いです。接待してまで働きたくない人が大半。

久野

「最悪お金ぐらい払ってくれよ」って話でしょう。ただ、そのマインドで仕事してもダメな気がするけど。

安田

接待飲み会とか、就業時間が終わってからの営業とかはなくなっていくんでしょうか。

久野

なくなっていくし、どうしても参加させたいんだったら時差出勤にするとか。

安田

昼間はもう来なくていいと。

久野

そうそう。

安田

あなたは夜の営業だけお願いしますと。それだったらありえますね。

久野

積極的に逆張りすれば勝ち筋がある気がします。

安田

「僕は飲み会を断りません」みたいな人が来たら採りますか。

久野

私はそれだけじゃ採らないですけど、欲しい人はいるんじゃないですか。

安田

「夜の飲み営業だけでいい」って言えばやりたい人はいると思いますよ。

久野

飲み会部長みたいな。

安田

そういう仕事があってもいいような気もしますけど。労働法的にはOKなんですか?

久野

別に問題ないですね。16時出社で22時退社にして、「接待営業あり」じゃなくて「接待営業しかない」にする。

安田

いいですね。ゴルフでも出来そう。仕事は接待ゴルフだけとか。ゴルフ好きな人にとってはハッピーな仕事ですよ。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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