第280回 二極化する美容室

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第280回「二極化する美容室」


安田

美容室の倒産がめちゃくちゃ増えているらしくて。

久野

過去最悪のペースらしいですね。

安田

そうなんです。でも潰れずにちゃんと成り立っている店もあって。高級店に多いらしいです。

久野

高級店だから成り立っているということでしょう。もう値上げしないと美容室はもたないんですよ。スタッフが辞めちゃうから。

安田

とはいえ値上げするとお客さんが離れてしまうし。値上げできないと社員がいなくなってしまうし。どうしたらいいんでしょう。

久野

まず美容室は参入障壁が低いという問題がありまして。資格ビジネスとは言え、育てたスタッフがみんな独立していくんですよ。だからどんどんお店が増えていって。

安田

増えすぎたから淘汰が進んでいると。

久野

はい。美容室って意外と経営が難しくて。仕入れがなさそうに見えて材料費があるじゃないですか。あとテナントの家賃もあるし、お客さんは価格にすごく敏感なんです。

安田

投資が必要な割に競争が激しいってことですね。

久野

ちょっとのことで顧客は離れていくし。ホットペッパーの出現で安さを売りにする文化が根付いちゃった。

安田

とは言え安くしすぎると成り立たないし。安売り倒産も増えています。

久野

安さ以外で選んでくれるお客さんを増やさないと。そういう結果になります。顧客をファン化できてないところは厳しい。

安田

高級店はそれができているということでしょうか。

久野

高級店じゃなくても特徴のある店は顧客をファンにできていますね。

安田

いま二極化が進んでいるそうです。安さが売りの「1000円カット」みたいな店か、1万円前後するけどブランディングが成功している店か。

久野

そうですね。徹底的に安くしていくか、そこまで安くできないなら高くしていくしかない。中途半端な金額だと貧乏暇なしの状態で教育にも手が回らない。結果スタッフが辞めるという悪循環になる。

安田

安さで勝負するならちゃんとしたビジネスモデルがないと。普通の美容室は値上げするしかないですよ。

久野

それは経営者も分かってるんでしょうけど。タイミングが見つけられないままずるずる来てしまってる。

安田

だいぶ前から分かってたことじゃないですか。労働人口も減っていくわけで。今までみたいな安い給料で使い続けられるはずがない。

久野

美容室ってある意味で最先端を行ってるわけですよ。採用が難しいし、教育にすごく手間がかかるし、独立していく人も多いし。

安田

人不足で淘汰されていく最先端の業種が美容室ってことですか。

久野

そうなんです。だから美容業界で起こっていることは、これから全ての業種にくると思います。社労士業界や税理士業界も構造的には全く同じなので。

安田

人ごとじゃないと。

久野

はい。みんな明日は我が身です。

安田

とは言え美容業界でも採用に困っていない店もあって。

久野

飲食店もみんな厳しいっていうけど、採用力があってすごく儲かっている店もありますし。

安田

何が違うんでしょうね。

久野

やっぱり「安さで集める」というのがキーワードなんじゃないですか。安さで顧客を呼ぶところはもうキツいですよ。

安田

ホットペッパーの営業マンに言われるんでしょうね。「クーポンで集めましょう」って。そういう提案に乗っちゃいけないってことですね。

久野

乗っちゃいけない。乗ってもいいのは開業時だけです。

安田

なるほど。

久野

美容室が1番おかしいと思う点は、リピート顧客より新規顧客の方が安いっていうところ。これは絶対に変ですよ。

安田

確かに。常連が損をするお店には行かなくなりますよね。

久野

そうでしょう。絶対おかしいって私は言い続けてるんですけど。次の予約を取ろうともしないし。リピートする仕組みがないんですよ。

安田

どうやったら予約してくれるようになるんでしょう。

久野

仕組み化しちゃえばいいんですよ。うちは2回でワンセットです、とか。

安田

なるほど。でも安売りで集客した相手には難しいでしょうね。

久野

そうなんです。だから最終的には紹介を増やさなくちゃいけない。そのためには来てくれているお客さんに対してもっと努力して、喜んでもらわないと。安売りで枠を埋めて既存のお客さんが予約取れないって最悪じゃないですか。

安田

そりゃあ来なくなりますよね。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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