第302回 人を使うビジネスは高級品

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第302回「人を使うビジネスは高級品」


安田

ノジマが賃上げするみたいですね。

久野

これすごいですよ。全社員7%上げるってことですから。

安田

初任給も30万円になるみたいです。ファーストリテイリング並みと書いてましたが、これが標準になっていくんでしょうね。

久野

うちは24万5000円なんですけど。30万ぐらいまでは持ってかなきゃいけないですね。

安田

初任給30万円が「最低ラインだよね」って大学生が言うようになりそう。

久野

そうなると管理職は60〜70万って話ですよ。

安田

大企業は初任給を上げた分、上の層を下げたりしてますけど。

久野

大手の場合は余剰人員がたくさんいて「辞めてくれても構わない」ってことだと思うんです。中小企業では絶対に無理でしょうね。

安田

中小企業にはそんな余剰人員がいないですもんね。ベテランに辞められたら現場が回らなくなるし。

久野

そう。だから現実的に考えると全員上げていくしかない。上げないと最低賃金にどんどん近づいて行きますから。

安田

最低賃金はどんどん上がって行きますからね。給料が上がらない社員はどんどん最低賃金に近づいていく。ちなみに時給1500円だと月給っていくらになるんですか?

久野

160時間働く計算で24万円ですね。

安田

ということは24万円以下で働いてる人は最低賃金を割ってしまうと。

久野

はい。時給1000円なら16万円ですが1500円だと24万になります。500円は大きいですよ。1.5倍ですから。

安田

初任給がどんどん上がってますけど、今後は全従業員の給料も上がっていくんでしょうね。

久野

そうなるでしょうね。給料24万円以下の人がいる中小企業は、今から手を打っておかないと厳しいと思います。

安田

給料20万円以下の会社って結構ありますよね?

久野

すごく多いですよ。

安田

毎年5%ずつ上げていってもギリギリですね。

久野

最低賃金が毎年5%は上がると言われているので。5%ずつ上げてたら間に合わない。10%ぐらいでやらないと間に合わないですよ。普通に考えると。

安田

年10%か。毎年それだけ全従業員の給料を上げられる中小企業って何%ぐらいあるんでしょう。

久野

いいとこ2割じゃないですか。

安田

やっぱり2割ぐらいですよね。

久野

ポジティブに上げていけるのは2割。6割ぐらいは生き残るかもしれないけど残りの2割はきついと思います。しかも1回で終わらないので。1500円の次は2000円の壁が来る。

安田

最低賃金2000円になりますか。

久野

さすがに1500円では終わらないんじゃないですか。

安田

だけど2000円になると最低月給32万円ですよ。なかなか恐ろしい世界ですね。

久野

いま政治も不安定だから、そういうのが公約になっちゃってるじゃないですか。最低賃金をどんどん上げますと。

安田

確かにそうですね。

久野

真剣にやると思います。

安田

そうなったら企業も価格転換せざるを得ないでしょうね。というか値上げしないと最低賃金が払えないでしょう。

久野

そうですね。価格アップに遅れた会社が負けると思います。強いところはすぐ上げられるはずなので。

安田

価格アップ出来ないところからは人がいなくなり、価格アップして顧客が離れることろも淘汰されていく。

久野

そういう戦いを5年ぐらいかけてやっていくんでしょうね。

安田

これだけ人不足でも中小企業が事業を継続できているのは、今いる社員が辞めずに頑張ってくれているからだと思うんです。

久野

それしかないでしょう。

安田

最低賃金が上がると、そこの報酬も上げていかなきゃいけない。

久野

たぶん最低賃金が上がるより先に今いる社員が抜けていくと思います。転職すると給料が上がってしまうので。

安田

今いる社員の半分以上が辞めちゃったら、採用して補充するのは無理でしょうね。その段階で終わっちゃう会社が続出する気がします。

久野

転職するだけで年収が100万円上がったら転職しますよ。

安田

もう情とかの問題ではないですよね。家族の生活もかかっているし。

久野

雇う側も「そうか」って言うしかないです。

安田

給料をそこまで上げられない会社はどうしたらいいんでしょう。

久野

機械に置き換えるか社長と親族だけでやるか。どっちかしかないでしょうね。

安田

人を雇うビジネスはもう無理だと。

久野

人を使うビジネスは高級品ってことですよ。

この対談の他の記事を見る



久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

感想・著者への質問はこちらから