第319回 高額療養費制度の見直しについて

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第319回「高額療養費制度の見直しについて」


安田

高額療養費の見直しが話題になっていますね。

久野

高額療養費って本当にすごい制度で。

安田

そうなんですか?

久野

日本のすごさですよ、これは。

安田

とはいえ財源も限られていますので。高校の無償化もするみたいですし。どこか削っていくしかないですよ。

久野

自己負担の金額が今よりちょっと上がるのは仕方がないと思います。200〜300万の手術を受けても10万ぐらいに収まる仕組みなので。

安田

癌治療をしても自己負担がめちゃくちゃ少ないそうですね。

久野

はい。今の制度だと3〜4ヶ月目から定額になります。

安田

自己負担率が上がると今までのように治療ができない人も出てくる。これも分かるんですけど限られた予算なのでどうするか。

久野

これって社会保険料の話なんですよ。健康保険として主に集めて来る。

安田

このままだと社会保険料がまた上がっちゃいますよね。

久野

はい。3割負担もどこかで変えざるを得ないです。ただ3割負担を4割負担にしたら政治的に持たないだろうってことで据え置かれているだけ。

安田

とはいえ今回は高額療養費に切り込んだわけですよね。

久野

費用が大きい割に高額療養費の対象者が少ないので。政治的な影響は大きくないという判断なんでしょう。

安田

そもそも社会保険って「稼いでる人が払えない人を助けよう」という制度じゃないですか。

久野

はい。その通りです。

安田

だけど助けるにも限界があって。誰を助けて誰を助けないか決めなくちゃいけない。

久野

そうですね。今の財源だと「全員は救えない」という前提なので。

安田

「いくらでも社会保険料を払います」ってことならいいんでしょうけど。

久野

これ、制度自体はすごいんですよ。こんなことをやっているのは日本ぐらいで。

安田

制度の素晴らしさは分かるんです。アメリカだと病気になっても自己責任で。けど負担する側にも限界がある。日本の高齢者は生活習慣病でみんな寝たきりになるから。

久野

そうですね。難病とかなら数も限られているからいいんですけど。

安田

寝たきりの高齢者を支え続けるって、構造的にもう無理ですよ。

久野

とくに癌患者がめちゃくちゃ増えているので。

安田

癌も生活習慣が影響していると言われています。若年性の癌だけなら数も少ないし余裕なんでしょうけど。

久野

アメリカ人は医療費が高いからサプリを飲んでいますよね。病気にならないように。

安田

そういう努力もしてもらわないと。もう限界ですよ。生活習慣病はもう自業自得です。

久野

そうですね。自己負担が安いから簡単にお医者さん行ったりするし。そういうところも含めて本当は見直した方がいいんですけど。医師会とかの圧力も強いので。

安田

また既得権益ですか。

久野

まあ全体的には色々問題だらけですよ。若い人はそんなに病院に行かないのに保険料負担は大きいわけじゃないですか。

安田

医療機関では「たくさん売上をあげて患者さんウケがいい人」が評価されるそうです。それって検査をどんどん提案する人なんですって。

久野

それはどうして?

安田

たくさん検査をしたら売上があがる。検査した方が患者も喜ぶ。自己負担が安いから。

久野

なるほど。薬もそうですもんね。多く出してもらった方が嬉しいって。

安田

問題はそこに国のお金が入っていること。売る側と買う側だけで成り立っているビジネスだったら問題ないんですけど。

久野

そうですよね。本当は風邪薬なんか飲まなくていいじゃないですか。

安田

海外では出さないらしいですね。「家で安静にしていなさい」って言うだけ。

久野

知り合いの先生曰く「それは言えない」って。病院に来て風邪薬を出さないと悪評が立つみたいです。

安田

国民の意識も低すぎますよ。国が7割払ってくれていると思っていて。それって自分たちが払っているお金ですから。

久野

そうなんですよ。それで「社会保険料を上げるな」って言われても。

安田

やはりもうちょっと自己負担率を増やして、医者に行く回数も減らして、とくに生活習慣病は自己負担率を高くするとかしないと。

久野

私もそう思います。難病みたいなものと自己責任の病気って分けないとおかしいですよ。

安田

こういう制度だと無駄な検査や薬も増やさざるを得ない。医者だって食べていかなきゃいけないから。

久野

そうなんですよ。「不要な検査するな」「薬を出すな」って言われたら経営が成り立たない。そういう仕組み自体がおかしいんです。

安田

まあ政治家も同じ理屈なんでしょうけど。選挙で負けたら食べていけないから。

久野

野党も国民ウケする提案ばかりですよ。年収の壁とか予算を増やすことばかり言って。

安田

減らす提案とセットでやらないと無責任ですよね。

久野

減らす提案をしたら票が減るから。結局のところ口先だけの政治家に寄ってくる国民が問題なんですよ。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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