第323回 辞めることを前提に人を採るべし

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第323回「辞めることを前提に人を採るべし」


安田

正社員の転職が過去最多になっておりまして。

久野

はい。2024年度の転職者は99万人で前年から5%増えているそうです。

安田

労働人口が減って、転職者の割合が増えて、企業はどんどんしんどくなっていきますね。

久野

中小企業は雇用の流動化に耐えられるビジネスモデルになっていないですから。長く続けてもらうことでようやく利益が出るモデルなので。

安田

おっしゃる通りです。

久野

雇用の流動化は中小にとってはめちゃくちゃマイナスだと思いますよ。中小企業が若手を使っていいのか、もう考えなきゃいけないです。

安田

久野さんの会社でも1週間で辞めた新人がいるそうで。

久野

3日ですね。

安田

3日!

久野

はい、3日で辞めちゃいました。モームリから電話かかってきて。こっちが無理だと思いました。

安田

「モームリと申しますが」って電話してくるんですか?

久野

そうです。

安田

すごいですね。

久野

もう、そういう時代になっているということですね。

安田

これまでが異常だったのかもしれませんね。不満があっても我慢して働くことが大前提で。

久野

はい。これからは流動化に耐えるビジネスの設計をしなくちゃいけない。それと「本当に仕事が出来ない人」をどうするかっていう問題。

安田

本当にできない人?

久野

そういう人って辞めずに滞留するわけじゃないですか。

安田

するでしょうね。転職出来ないから。

久野

仕事をしないのに生き残れるような人事制度も変えていかなきゃいけない。日本の大きな転換点だと思います。

安田

今の法律を考えると簡単には解雇できないじゃないですか。だったら、もっと真剣に選考しないと。適当に採用しすぎですよ、中小企業は。

久野

人不足だからそうなっちゃうんですよ。現場から「人が足りてません」って言われるし。売り上げを上げるためにも人が必要なモデルが多いし。

安田

とはいえ足を引っ張る社員を採用したら余計しんどいじゃないですか。

久野

そうなんですけどね。転職回数が多い人の方が面接上手だったりするので。

安田

確かに。面接が上手い人っていますよね。何か出来そうに見えるというか。

久野

騙されちゃいますよね、中小企業は。

安田

学歴や業務経歴のすごい人とか。コミュニケーション力が高いとか。来ると採用しちゃいますね。

久野

はい。

安田

そういう時は冷静に「自分の会社の実力」を考える。「このレベルの人がうちを受けに来るなんておかしいよね」って疑わないと。

久野

「いい人が来た」って即採用しちゃいますよ。

安田

そういう人が入社してから問題を起こすんです。中小企業はもっとアンバランスな人を採らないと。マイナスポイントがちゃんと見えていて「うちの会社ならそこは大丈夫」って人。

久野

「ついにうちにもこういう人が来るようになったか」って社長は思うんですよ。薄々「おかしいな」と思っても見ないようにしちゃう。

安田

前の会社を辞めた理由もなんとか良いように解釈しようとして。

久野

やっぱり人不足なのが大きいですよ。いずれにしても流動化は止まらないでしょうから、長くても4〜5年で次の会社に移っていくということを前提に採用しないと。

安田

まともな人ほどそうなっていくでしょうね。1つの会社で30年働くって不安しかないですよ。

久野

流動化が基本になっていくと思います。そのサイクルに慣れるまでの転換期が中小企業にとっては非常に厳しい。

安田

4〜5年周期で辞めていくのが普通になるでしょうね。さすがに1年で辞めちゃうのは採用ミスだと思いますけど。

久野

10年、20年働いてくれることを前提に組織を作るのはもう無理ですね。

安田

中小企業はもう新卒なんて育てている場合じゃないですよ。

久野

海外と日本の大きな違いはそこですよね。向こうは育てるところに労力をかけないですから。

安田

日本もそうなっていかざるを得ないでしょう。

久野

日本がおかしいんですよ。とにかくスキルがある人を高く雇うこと。職業訓練はもう自分でやってもらう。

安田

もっと即戦力にこだわった採用をしないといけないですよ。そのために報酬をもっと増やさないと。安くて良い人材なんていないんですから。

久野

でも経営者は期待しちゃうんですよ。手塩にかけて育てれば「今の報酬でもずっと働いてくれるんじゃないか」って。

安田

そんなの幻想ですよ。現実を見ましょう。

この対談の他の記事を見る



久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

感想・著者への質問はこちらから