第324回 静かな退職に見る正社員雇用の限界

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第324回「静かな退職に見る正社員雇用の限界」


安田

静かな退職が増えているみたいです。転職はしないんだけど、あまり働かないっていう人たち。40代前半が最多らしいですよ。

久野

20代30代だったら転職してもっと上を目指すでしょうから。40代になったら転職するのも難しいし。

安田

「同じ給料ならできるだけ働かないようにしよう」と考えるんでしょうね。これからどんどん増えていきそうな気がします。

久野

もう1日も早くやめてほしいですよ、本当に。

安田

だけど辞めさせるわけにもいかないじゃないですか。

久野

そうですね。悪いことをしたわけじゃないから。

安田

仕事をしないことは悪いことではないんですね。

久野

解雇理由にはならないです。イエローをもらわない状態でフィールドをゆっくり走る感じ。

安田

朝決められた時間にちゃんと会社に来て、言われたことをのんびりとこなして。

久野

ちゃんと返事もするし。

安田

給料の範囲内で働こうって人は増えるでしょうね。それ以上に頑張る気はないっていうか。

久野

給料分働いてくれれば良い方じゃないですか。

安田

「とんとん」ってことですよね。とんとんだと利益が出ないですよ。

久野

とんとんはもう2重丸じゃないですか、今の時代。

安田

そうなんですか?

久野

ずっと「とんとん」でいるには努力が要りますから。

安田

努力が要りますか?横ばいってことですよ。

久野

基本的に業務効率って上がり続けているはずなので。とんとんってことは常に進化しているはず。

安田

なるほど。そういう見方もあるわけですね。

久野

同じアウトプットで同じ利益は出続けないですから。

安田

「給料相当の仕事はします」っていうだけで十分だと。

久野

「給与相当の仕事をしているかどうか」と考えている時点で、その社員は良い社員です。

安田

なんと。

久野

「会社に来たら給料がもらえる」と思っている社員が「静かな退職」と言われる人たちですよ。自分のパフォーマンスなんて意識していない。

安田

会社に来て「指示された仕事だけこなす」という人はどちらですか?

久野

こなす仕事のクオリティとスピードによりますね。

安田

クオリティが高くてスピードも早かったら、どんどん仕事量が増えていきますよ。そしたらトントンではなくなってしまう。

久野

それが普通なんですけどね。

安田

でも仕事量が増える割に給料はあまり変わらないじゃないですか。企業側のそういう対応が「静かな退職」を産んできたとも言えませんか。

久野

そこで頑張る人が稼げる人になっていくわけで。自分でクオリティーやスピードを上げようと思えない人は成長が確実に止まりますよ。

安田

今の20代ってどこまで稼げるようになりたいんでしょう。どちらかと言うと稼ぎより安定を重視している気がしますけど。

久野

そうですね。ただ安定した収入を稼ぎ続けるには自己メンテナンスは必須だと思います。やらないと年齢とともに下がっていくので。

安田

最低限の自己メンテナンスはするんでしょうね。だけど必要以上にはやらない。上位1割くらいの人だけが成長し続けていく感じ。

久野

そういう人は転職もしくは独立していきそうな気がします。自分を客観視出来ているわけですから。

安田

給料の何倍も働いて「会社のために利益貢献しよう」とはならないでしょうね。残る人はやっぱりトントンの人なのかも。

久野

そうですね。ただそういう人ばかりだと組織を維持するのが難しくなると思います。

安田

業務委託にどんどん外注しちゃうのはどうですか?

久野

業務委託もレベルが高い人ばかりじゃないし。

安田

平均すればまだまだ低いですね。でもこれから質の高い業務委託が増えていくと思います。今の20代の中から出てくる。

久野

これから雇わない経営が本格化していくってことですね。

安田

はい。社員に給料の何倍も働かせるのはもう無理ですよ。社員はトントンで安定志向の人たち。スピードやクオリティを求めるなら業務委託。

久野

本当にそういう時代になっていくかもしれませんね。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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