さよなら採用ビジネス 第13回「本当の定年は40歳」

このコラムについて

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回のおさらい ●組織と個人事業主の違い、利益の捉え方が大きく異なる 第12回「優秀な人は雇えない」


安田

「ずば抜けたスペシャリティを持つ人は、社員として雇うよりも外注した方がいい」という話でしたね。

石塚

はい。既にそういう時代になりつつあると思います。

安田

大企業でさえも、人材は囲い込めない?

石塚

囲い込むよりも外注した方が、ずっと効率がいいということです。

安田

それはどのような分野においてでしょうか?

石塚

分野は関係ないです。営業、新規事業企画、商品開発、広報PR、人事など、あらゆる領域でスペシャリストの外注が始まると思います。

安田

では、その領域で働いている社員はどうなりますか?

石塚

二極化すると思います。外注として独立する人と、社員として残る人。残念ながらスペシャリティーの低い人は、独立できません。

安田

では高いスキルを持った人は独立すると?

石塚

ある一定上の専門スキルを有する人なら、組織から離れることを選ぶでしょうね。

安田

それは何故ですか?

石塚

組織から離れたほうが、よりスペシャリティが高くなるからです。

安田

会社員のままでは限界があると?

石塚

社員である以上、書類作成やマネジメント、部下の評価、研修などなど、いろんな仕事をやらなくてはなりません。自分がやりたい仕事だけ、やるわけにはいかない。

安田

確かにそうですね。特に大きい会社は、やらなくちゃいけない事が多いですからね。

石塚

はい。仮に自分の仕事だけに集中できたとしても、社員として残るメリットは少ないです。

安田

社員だと報酬も限られますもんね。

石塚

その通りです。前回もお話ししましたが、日本の企業は青天井の報酬を社員には払えない。それに働く場所や時間だって拘束されます。

安田

安定を捨てて独立した方が快適だと。

石塚

いや、安定を選ぶならば、会社に頼るより自分のスキルに頼る方がずっと安定します。

安田

そうなると辞めない理由はないですね。

石塚

ないです。だから企業の側もそれに合わせて準備しています。たとえば独立する人に出資したり、子会社の社長をやらせたり、外注先として確保したり。

安田

つまり、ゆる〜く囲い込もうとしているわけですね。

石塚

そうです。彼らは抜け目ないですから。

安田

では、いずれ社員はいなくなりますか?

石塚

いや、いなくはならないと思います。

安田

必ず残ると。

石塚

一定数はやっぱり必要です。事務局的機能を持った人は。

安田

それは、請求書を出す人とか、電話をとる人とか、でしょうか?

石塚

それ自体は外注したとしても、最後にチェックする人が必要ですよね。つまりアウトソーシングした時に、そのアウトソーシングをコントロールする人。コントロールタワー的な人は必ず残ります。

安田

なるほど。ではプロジェクトは外部の人が中心に行われて、それをまとめたり、進行管理をしたりする人が、社員として残ると。

石塚

はい。でも新しい商品やサービスを考えるとか、営業して売上を立てるとか、この辺りはどんどん外に出したほうがいい。

安田

「新しい商品を考える」という部分は、確かにそんな気がします。斬新なアイデアって、なかなか社内からは出て来ないですからね。

石塚

はい、その通りです。

安田

でも売る部分については、どうでしょう?社内に営業マンを抱えて、ノルマを持たせて、尻を叩くイメージの方が強いですが。

石塚

いくらお尻を叩いても、ノルマを持たせても、売れない人は売れないんですよ。今はもうそういう時代。

安田

売れない人はどうやっても売れないし、売れる人は組織から独立していくと。

石塚

売るのが上手な人って、いろんな商品を扱えた方がプラスになるんですよね。お客さんときちんと繋がってさえいれば。

安田

確かにそうですね。相手がどんな課題を抱えていても、社員だったら自社の商品を売るしかないですもんね。

石塚

その通りです。だから無理やり自社の商品を売っていた。でも今はそんな営業は通用しません。ネットレベルで情報が全部バレてますから。

安田

そうですね。無理に売れば売るほど、自分の信用を落としますよね。

石塚

自分の信用の方がずっと価値があります。社内での評価なんて、辞めたら何の価値もありません。

安田

顧客からの信頼は一生の財産になりますもんね。

石塚

おっしゃる通り。

安田

そして顧客との繋がりさえあれば、扱う商品は多い方がいいと。

石塚

いろんな商品を持っていれば、顧客の多くの課題に対応できます。そして対応できる課題が多くなれば、それだけ収入も増えていく。

安田

う〜ん、確かに。ひとつの会社に縛られることが、デメリットでしかない気がしてきました。

石塚

当たり前の話なんですけど、「自社の利益よりも、顧客の利益を優先する」という人が顧客からは信頼される。でも会社員としては評価されない。

安田

だから本当に顧客思いの営業マンは独立してプロ化していくと。

石塚

はい。前回安田さんも言ってましたけど、営業マンという呼称がそもそも、もう古いです。

安田

営業ではなく、戦略パートナーとか名乗った方がいいですね。

石塚

絶対そうです。営業というのは、売る側の役割ですから。

安田

分かりました。売れる人は顧客寄りの人で、独立してさらに顧客寄りになっていく。

石塚

そうです。

安田

では、売れない営業マンはどうなるのでしょう?独立するスキルもないし、社内に残っても数字を残せませんが。

石塚

結局、残る人っていうのは売ってほしいけど売れない人、作ってほしいけど良いアイデアが出ない人。それが年功序列と身分保障でどんどん堆積していく。

安田

そうなってくると、「組織の中にいないと食えない」という人しか残らなくなりますけど。

石塚

そうなりますね。

安田

何回か前の対談で、今の大企業は「2:6:2じゃなくて1:0:9だ」とおっしゃってましたよね?

石塚

はい。中間層はもう居ません。超黒字の1割と赤字の9割。

安田

黒字の1がスペシャリティを持った人ですよね。ここが居なくなると0:0:10になっちゃうんですけど(笑)。さすがに、これでは成り立たないんじゃないですか?

石塚

でも、その1って組織のどこにポジション持ってるかにもよるけど、やっぱり最終的には出ちゃいますよね。だから、先手打って「どうせ出るくらいならうちのリソースでやらないか」と押さえにかかる。

安田

なるほど。

石塚

それともうひとつ。事実上の定年を40歳くらいに設計してますよ、大企業は。

安田

え!リクルートはよく聞きますけど、他の大企業もですか?

石塚

いや、むしろ他の大企業こそ。

安田

そんなこと、どこにも書いてませんよ。新聞にもナビにもホームページにも。

石塚

報道してはいませんけど、事実上40ぐらいで設計し始めてます。今、内部留保を相当積んでるじゃないですか。それを使って希望退職を募り始めてますからね、ガンガン。

安田

確かに。

石塚

僕はもう2020年前後でバブル期入社組はほぼ全員放出って思ってます。景気の良いうちに割増退職金を抱かせて辞めさせるっていう。これも何社も聞いてます。だから、再就職支援会社、実は今忙しくなってるんですよ。

安田

へぇ~。ということは、優秀なゾーンは独立したあとにも付き合っていくために上手く囲い込むし、そうじゃないところは退職金払ってリリースっていうことですよね。

石塚

はい。だから面白い話なんですけど、雇用延長とか制度はどんどん長く延びてるのに、実質その半分ぐらいで出ざるをえない状況を企業はどんどん作るっていう。

安田

ということは、1回それが整理されちゃったら、もう大企業といえども人を採らなくなるってことですか?いよいよ無人化ですか?

石塚

僕の予想で言うと20代30代メインで、あとは限りなく外注やアウトソーシングを駆使して……っていうのが今後の大企業の組み立て方。もう40歳以降って経営陣を除けばよほどの人じゃないと直雇用はしない。

安田

40代50代60代はもう大企業からいなくなると。

石塚

40歳過ぎると生産性カーブが鈍くなるので、一部の例外を除いて。そういう人だけは上のポジションを与えるけど、その他の人は出向させて引き取らせたり、割増退職金で早く船から下ろしたり。だから、大企業ほど定年まで勤められない会社になると思いますよ。

安田

でも新卒には人気ありますよね。大企業は。

石塚

お得なんですよ、新卒は。人件費も安いし。20年使ったら終わりみたいな。ごく一部の人だけ残して。

安田

それなら、ちゃんと入り口で言って欲しいです。

石塚

大企業に行くなら、人生は二毛作で考えないと。20~30代の人生と、40代以降の人生。「給料もらいながら仕事を教えてもらう」くらいの感覚でいた方がいいです。

次回第14回へ続く・・・


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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