この記事について
7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回のおさらい 第20回「お金の順位は明らかに変化した」
安田
石塚
安田
昔はもっと、お金をありがたがってましたよね。「ははーっ」と拝みかねない感じ。
石塚
さすがに拝みはしなかったですけど(笑)。「お金は粗末にしちゃいけない」とか「血と汗の結晶だ」とか教えられて育った世代ではありますね。
安田
お札を曲げずに、方向を揃えて財布に入れておいたら、金持ちになれるとか。
石塚
安田
それが今は「電子マネー」とかも出てきて、明らかにお金のイメージが変わった、というかお金の洗脳が解けてきたように感じます。
石塚
安田
石塚
はい。僕とか安田さんが子供の頃は、現金しかなかったですから。
安田
確かに。お年玉とかも、生々しかったですもんね。自分の部屋に行って、お札数えたりしてましたもん。
石塚
分かります(笑)。クレジットカードなんて考えられなかったでしょ?
安田
クレジットカードどころか、キャッシュカードも高嶺の花でした。
石塚
僕なんて、テレホンカードで興奮したぐらいですよ(笑)
安田
今じゃSuicaでお小遣いもらう子供もいますもんね。やっぱお金に対する感覚も変わりますよね。
石塚
変わると思いますよ、絶対に。お金のリアル感から遠いから「お金稼ぎたい!」という熱量も少ない。
安田
今の若者にとって、お金は「デジタル化された数字」という感覚なんでしょうね。まあお金なんて元々記号みたいなものですけど。
石塚
我々の時代は記号以上の重さというか、生々しさがありましたよ。
安田
今は私も、ほとんど現金使わないんですけど。でもやっぱり旅行いくとなったら、財布の中に現金入ってないと不安ですもん。
石塚
安田
妻はまったく平気なんですよ。「なんでそんなに現金持って行くの?」って不思議がられます。
石塚
安田
でも結局どこに行っても、だいたいカード使えるんで「ほとんど現金使ってないじゃん」ってなるんですよ。
石塚
若い子や女性は順応性が高いですから。現金持たずに普通に暮らしてますよ。
安田
おじさんはダメですね。「日本はセキュリティーが行き届いてるから、現金でも大丈夫なんだ」とか言い張ってますもんね。
石塚
現金信仰というか、それが変わるのが不安なんでしょうね。
安田
前回おっしゃってましたよね。「時給上げてくれなくてもいいです」という若い子がいるって。
石塚
安田
職場が楽しいからって話でしたけど、とはいえ我々の感覚からいくと「職場楽しいのと給料は別でしょ」となりますよ。
石塚
我々や上の世代は「楽しい」とか「やりがい」とか、そういうものとは別のところに「お金」があるんですよ。
安田
でも「お金が特別だ」と感じる自分が、嫌でもあります。
石塚
安田
お金を特別視しすぎると「お金払ってるほうが偉い」ってなるじゃないですか。
石塚
安田
でもお客さんだって、タダでお金をくれる訳じゃないですからね。「百円もらう代わりにアンパンを渡す」という等価交換にすぎないわけで。
石塚
「百円もアンパンも職場の楽しさも、同じじゃないか」っていう、まさにそういう感覚が若者にはあるんですよ。
安田
どっちが客だとか、どっちが雇っているとか、そういう感覚がもう古いのかもしれませんね。
石塚
間違いないです。そういう感覚を持っている会社は、すぐに見抜かれて敬遠されてしまいます。
安田
でもそうなって来ると、お金の立場はどうなるのでしょう?
石塚
緩くなって来るでしょうね。何時間とか、時給いくらとか、「いちいち、そんなのキッチリやんなくてもいいじゃんか」みたいな。
安田
緩いですね。でもそこにつけ込んでブラック企業とか出てきませんか?
石塚
彼らの嗅覚はすごいですから。本当に楽しいのか、装ってるだけなのか、そんなのすぐバレちゃいますよ。
安田
なるほど。シェアとかもそうですかね。「必要な人が必要なときに使えばいいじゃん」みたいな。「自分のものとして持っていたい」という熱量が少なくなってる。
石塚
安田
石塚
低くなったんですよ。たとえるなら「猛烈にお腹空いてる人」と「あんまりお腹空いてない人」。
安田
石塚
はい。お金に関しても「あんまりお腹が空いてない」状態。低欲望社会というか。
安田
石塚
じつは若者に限らないんですよ。僕の周りの40代のお父さんとか、みんなすごく低燃費で楽しんでますね。
安田
家族で遊ぶときもお金使わずに、結構みんな工夫して遊んでますよね。
石塚
デフレが長く続いたのがボディーブローのように効いて、日本人の考え方、ライフスタイル、欲望の度合いまでも、かなり変えてしまいましたね。
安田
でも「お金なくても、そこそこ楽しく生きていける」ということがある一方で、みんな「不安だ」って言うじゃないですか。
石塚
安田
政府がこれだけ頑張っても、物価上がらないわけじゃないですか。たぶん、もう劇的に物価が上がるなんてことは、あり得ないと思うんですよ。
石塚
「物価が上がる」という不安では、ないんでしょうね。
安田
石塚
世の中がもうずっと右肩下がりなんで「どこかで破綻するんじゃないか」という不安と「あんまり期待するのはやめよう」っていう諦めみたいなものかもしれません。
安田
でも、一方でそんなに悲観的じゃないですよね。結構楽しそうに生きてますよね。
石塚
だから、そこは「満足するラインを下げちゃった」ということでしょう。
安田
目指すものが高くないから、逆に悲観的にならないってことですか?
石塚
満足ラインが下がっていって「そこそこ楽しいじゃん」みたいなところに、最終的には落ち着く気がしますね。
安田
ということは「みんなでガンガン稼ぐぞ!」みたいには、もうなりませんか?
石塚
安田
たとえば中国の人とか見てると、まだまだそういう人多いじゃないですか。「稼ぐぞ!使うぞ!」みたいな。
石塚
でも中国だって、30年後はわかりませんよ。次の超高齢化社会は中国なんで。
安田
石塚
安田
ブランド物とかも、売れなくなって来てると思うんですけど。
石塚
安田
石塚
アルマーニのスーツなんて、今の若い子は興味ないんじゃないですか。
安田
石塚
所有欲が低くなったのと、あとは、見栄を張らなくなったんじゃないですか。
安田
石塚
安田
だって僕らの若い頃は、無理して買ったブランド物でも「すごい!」とか言われたじゃないですか。
石塚
言われましたね。だから見栄の張り合いになっていく。
安田
はい。でも今は、無理してアルマーニとか着てても「ふ〜ん」って感じじゃないですか。いやむしろカッコ悪く見えてしまう。
石塚
確かに、そんな感じですね。ワークマンとかで十分盛り上がりますし。
安田
ブランド物を欲しがらなくなったのと、お金を欲しがらなくなったのと、構造は同じじゃないですかね?
石塚
「俺は金持ってるぞ!」という見栄を張らなくなったと。
安田
いかにも金もってそうなのが、逆にかっこ悪く見えちゃうとか。
石塚
安田
昔は無理して高級腕時計買って、高収入を見える化してたじゃないですか。
石塚
ロレックスとベンツを合わせて「ロレベン」なんて言葉もありましたね。
安田
実際にそれでモテたりしましたもんね、昔は。お金の効果がわかりやすかったです。
石塚
高収入、高学歴、高身長の3高がモテた時代でしたからね。
安田
今だったら、借金して高級車買ったりしたら、逆にフラれたりしそうですね。
石塚
今は4低がモテるそうです。低姿勢、低依存、低リスク、低燃費。
安田
石塚
僕はやっぱり、いちばん影響してるのはデフレだと思います。低コストで暮らしてみると「意外に悪くないよね」っていうことを、日本人全体が学習しちゃった。
安田
確かに。私も今、低燃費で暮らしてますけど、結構これが快適なんですよね。
石塚
安田
もしかしたら、この暮らしって世界の最先端かもしれませんね。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。