7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第30回「ベアからベーシックインカムへ」
ベースアップ(ベア)の時期になりましたね。
はい。もう時代に合ってない感じですけど。
会社側は「定期的なベースアップをやめて、働き方改革を進めよう」みたいなことを言ってます。
まあ、会社側はそう言うでしょうね。
一方、労働者の側は「働き方改革とベースアップは別だ。給料はちゃんと上げろ」って言ってます。
まあ、労働側はそう主張するでしょうね。
実際どうなんですか?会社側はもう、ベースアップなんてしたくないんですか?
「ぜったいなくしたい」と思ってますよ。
そこそこの大企業でも?
全社思ってます。
それはいつ頃からですか?
ベースアップっていう神話が、崩れた瞬間があるんですよ。
神話が崩れた?
はい。経済が右肩上がりだった80年代は、みんな信じてました。
「間違いなく給料は上がっていくものだ」と。
日経平均だって、ずっと上がり続けてましたから。「ベースアップが続いて懐具合もどんどん良くなっていくだろう」っていう。
そういう発想っていつ頃始まったんですか?
おそらく戦後の池田内閣からですね。
所得倍増計画ってやつですか。
そのとおりです。池田勇人さんの所得倍増計画。
じゃあ、その政策に乗って、給料は上がり続けて来たわけですね。
神話が崩れるまでは。
バブル崩壊までってことですよね。
そうです。
実際、1980年前後と比べると、初任給は2倍ぐらいになってますよね。
はい。他の先進国はもっと上がってますけど。
国内を見ても、たとえば同時期のプロ野球選手の平均年俸は、10倍ぐらいになってるそうです。
プロ野球は実力主義ですからね。
実力主義ではなく、定期昇給で全員を上げて来たから、この程度しか上がらなかったってことですか?
それは、そのとおりだと思いますよ。
なぜ実力主義にしなかったんでしょうね?
突出した個性とか能力を評価して、そこに賃金を連動させるって発想は、一部の職種を除いて日本にはなかったからです。
でも、欧米企業を見習って「やっぱり実力主義だ」みたいなのって、一時期はやりませんでしたっけ?
それは2000年以降ですね。
バブル崩壊後ってことですか?
バブルの崩壊からリストラになり、大企業が中心となって成果主義を導入した。ただし、かなり中途半端だった。
中途半端?
本当はそこで、ベースアップを止めりゃよかったんですよ。
なぜ止めなかったんですか?成果主義と矛盾しないんですか?
矛盾してますよ。だって、ベースは上がり続けるわけだから。
ですよね。じゃあ、なぜ?
当然、労働組合の存在があるからですよ。「ベースアップを勝ち取る」ってのが労働組合の存在意義なので。
でも最近は組合も変わって来てますよね。本気でベースアップを勝ち取ろうとしているようには見えない。
もう無理だって分かってるからですよ。でも高い組合費を払わせているので「もういいです」とは言えない。
複雑な立場ですね。
だから、どんどん弱体化してるんですよ。むしろ今、政治からの圧力の方が強いです。
「利益が上がったら、もっと所得や設備投資に再投資しろ」って。
でも企業は使わない?
使いませんね。驚くほど貯め込んでます。
ですよね。先行きが見えないし、リストラするにもお金がかかるし
はい。何度も言ってますけど、人件費の高い従業員を抱えたままでは、もう無理なんですよ。
じゃあ解雇規制が緩和されて、終身雇用がなくなったら、初任給はもっと上がりますか?
上がるでしょうね。今の収益からしたら。
収益だけで考えるなら、初任給30万円でも不思議じゃない?
まあ業種にもよりますけど、不思議じゃないですね。
中高年の人件費って、そんなに重いんですか?
めちゃくちゃ重いですよ。それこそベースアップで積み上がって来てますので。
考えてみたら、全員の基本給が上がり続けるって、無理がありますよね。
評価とか、賞与とかで上がるぶんには、まだいいんですよ。
できる人もできない人も、全員一律ですもんね。
そこに例外はないわけですよ。正社員であれば。
今の社会には合っていないと。
「物価は下がってるのに、なんで賃金だけ上げなきゃいけないんだ」って話ですよ。
どうなっていくんでしょう?これから。
結論は見えていて、行き着く先は結局ベーシックインカムしかないと思います。
ベーシックインカムですか?
もう物価連動とかじゃなく「日本国民全員に一律300万配りましょう」っていう。
そんな風になりますかね?
僕は、なると思います。
300万円っていうのは石塚さんの試算ですか?
いえ、一人で食べてくだけだったら月20万でも可能でしょうね。
家族がいたらどうですか?
夫婦で500万もありゃ十分じゃないですか。
500万も配って、国は崩壊しませんか?
もちろん全部じゃないです。ベーシックインカムなので、おそらく25万×12じゃないですかね。
じゃあ年間300万ぐらい?それを国が払う?
たぶん企業と国とで折半するんじゃないですかね。
企業はそんなお金払いますか?
今だって払ってるじゃないですか。
なるほど。給料の一部をベーシックインカムとして、固定するということですね?
そうです。その代わりに「ベースアップはもう終了ですよ」って。
会社側もその方が負担は減ると?
それで手を打てるんだったら、喜んで払うでしょ。
「月25万、年間300万を全社員に保証する。その代わりベースアップはゼロです」って感じですか?
大企業だったら、今よりかなり負担が減りますね。
まあ、大企業だったらそうでしょうね。
大手の45歳以上の賃金負担って、ものすごいんですよ。人数もいるし。
そのへんも全員300万で済みますもんね。
はい。あとは個別評価とか賞与とかで、できる人にはたくさん払えばいい。
じゃあ、中小企業はどうなるんですか?
中小企業には、そもそもベースアップなんてないですから。
え!そうなんですか?
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。