さよなら採用ビジネス 第69回「2025年以降の新しい世界」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第68回『大企業の中のブルーオーシャン』

 第69回「2025年以降の新しい世界」 


安田

タニタの新しい人事制度知ってますか?

石塚

社員を個人事業主化していく制度ですよね。

安田

はい。希望制なので自分で選べるんですよ。それで「だめだったら戻ってきてもいい」っていう非常に手厚い制度。

石塚

よく出来てますよね。

安田

ですよね。でも世の中的には「社員をフリーランス化して会社が逃げてる」みたいに叩かれてるんです。

石塚

谷田社長とは2度ぐらいお会いしたことあるんですけど。

安田

会ったことあるんですか?

石塚

大変ユニークで、ちょっと変わった人なんですよ。

安田

へえ。

石塚

労働系の古くさい弁護士が「社員の個人事業主化というのは違法行為だ」とか言ってるじゃないですか。

安田

「カタチを変えた解雇だ」って言ってますね。

石塚

たぶん谷田社長が考えてるのは、安田さんがいつも言ってる「雇わない経営」に近いと思います。

安田

そうなんですか。

石塚

雇用形態という狭苦しいもので捉えず「優秀な人にひとりでも多くタニタに関わってもらいたい」という新しい取り組み。

安田

非常に先進的な取り組みですよね。「さすがタニタ」だなって私は思いましたけど。

石塚

僕もそう思いますね。

安田

でもタニタみたいに大きな会社がやると、叩く人も出てきますよね。

石塚

古い考えの人は、もう10人いれば10人叩きますよ。

安田

どうしてでしょうね。

石塚

戦後の強烈な価値観じゃないですか。「雇用契約を前提として働くのが当然」という。

安田

でも本人が納得して個人事業主化して、さらに「だめだったら戻ってきてもいい」とまで言ってて。どこに叩かれる要素があるのかわからないですけど。

石塚

ね。

安田

よっぽど「既存の仕組みをそのまま守りたい」って人がいるんでしょうね。

石塚

ホントそう思いますね。

安田

でも、その人たちが責任取ってくれるわけじゃないんで。

石塚

無責任なもんですよ。

安田

今後はどうですか。タニタさん叩かれてますけど、他の大手さんは追随しますか?

石塚

間違いなく増えてくると思います。

安田

やっぱりそうですか。

石塚

はい。大企業の経営者は「優秀な人はひとりでも多く欲しい。べつに雇用形態なんてこだわらない」と思ってる。

安田

なるほど。

石塚

それに自分で儲けてもらったほうが「頭の痛い退職金債務から解放される」って思ってるはず。

安田

このまま行ったらどこかで破綻しますからね。

石塚

はい。誰が最初にやるかっていう話。「赤信号 みんなで渡れば……」の世界。

安田

じゃあ、タニタがやってくれたのはありがたいと。

石塚

おそらく2年以内に一気に増えると思います。

安田

対象はやっぱり45歳以上ですか?

石塚

いや、むしろ20代。若い人のほうが敏感なので。

安田

なるほど。じゃあ若い人から個人事業主化すると。

石塚

はい。会社自体が大きなインキュベーションオフィス化すると思いますね。

安田

シェアオフィスみたいな?

石塚

そのほうが会社としても活性化しますから。

安田
関わり続けてくれたほうが会社としてもメリットがあると。
石塚

何らかの形でずっと優秀な人が関わってくれればメリットは大きいです。

安田

タニタもそれを狙ってるわけですよね。

石塚

おっしゃる通り。「100パーセントの時間をくれ」とは言わないから、「10パーセントでもいいからタニタに使って欲しい」というメッセージ。

安田

まわりの大企業は今注目してるでしょうね。タニタさんが今後どうなるか、どの程度叩かれるのか。

石塚

もう絶対そうですよ。大企業の経営者ってリアルに考えてますから。

安田

リアルに?

石塚

「うちが鉄を売れなくなったらどうする」とか「薬の特許、全部切れたらどうする」とか「既存事業が全部ノーだとしたらどうすればいい」ってこと常に考えてる。

安田

そのためには優秀な人材が必要だと。

石塚

優秀な能力は確保したいけどコストは下げたい。となったら結論は限られてきますから。

安田

個人事業主化はひとつの結論だと。

石塚

すごく風通しがよくなるし。

安田

働く側も自由度がアップして収入も増えるし、双方にメリットがありますよね。

石塚

そうなんですよ。無駄な社会保険料だの無駄なコストがなくなれば、1,000万ぐらい発注したってぜんぜん合う。

安田

2年以内に増えていくって話でしたけど。それが普通になるのは何年先ぐらいだと思いますか?

石塚

5年以内にはそうなるでしょうね。

安田

5年以内ですか。

石塚

大阪万博が2025年じゃないですか。その頃にはもう普通になってると思いますね。

安田

それは景気が悪くなるからですか?

石塚

大阪万博までに間違いなく景気の下降局面がくる。新しい仕組みとか制度って下降するときに一気に増えるんですよ。

安田

なるほど。

石塚

リーマンショックも、あれをきっかけに始まったことっていっぱいあるんですよ。

安田

確かに。

石塚

だから僕は、経済の下降局面って悪いものだと思ってなくて。

安田

東京オリンピックが終わったあとにも「落ち込む」って言われてるじゃないですか。

石塚

そのとおり。2020〜2025が大きな山。その後にちょっと違う世界が見えてくる。

安田

大企業での個人事業主化やフリーランス化も一気に進みますか?

石塚

あっという間に広がるでしょうね。

安田

中小企業もそれに見習って増えていく?

石塚

中小企業は二極化すると思います。

安田

二極化ですか。

石塚

中小企業って大企業より利益率が高い会社があるんですよ。グロスは小さいけど率はいいよっていう会社。

安田

ありますね。

石塚

少人数ですごい高収益をたたき出してるような会社は「べつにいいけど、このままで」って。あとは事業承継できない会社はおのずとフリーランス化する。

安田

食っていけますか?中小企業で働いていた人たちは。

石塚

中小企業はひとりで何役もするし、実務にも必ず携わるので「転職市場での評価」が高いんですよ。外注でも重宝されると思いますね。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

感想・著者への質問はこちらから