7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第76回「利益に貢献する意味」
味の素までもが、ついに早期退職を開始しました。
もう、どの大企業もその流れですよ。
今回は「50歳以上の管理職を100人早期退職させる」という計画です。
いま売上・利益ともに悪くないですからね。
百数十億の黒字ですよ。
だから今なんですよ。決断がすばらしい。
確かに「黒字のいまこそ経営改革」って言ってましたけど。社員さんは納得できないんじゃないですか。
そりゃあ納得いかないでしょうね。
「みんなで黒字にしたのに、それでリストラかよ」みたいな。
たぶん経営者は不安でしょうがないと思いますよ。
それは売上が下がってるからですか?
それもあるでしょうけど、いちばんは多様性に乏しいこと。
多様性ですか。
味の素に限りませんけど、日本の大企業がいちばん変えなきゃいけないのは、年収ばっかり高くなって付加価値を生み出せない50歳以上。
リストラ対象の「50歳以上の管理職」の中には役員も入ってるんですか?
役員は入ってないと思います。
じゃあ経営陣も50歳以上なのに、社員だけを切ろうとしてると?
おっしゃるとおり。頭が固くて、付加価値も生まない、年収に要は見合わない社員を切りたい。
味の素の50歳以上ってどれぐらいの年収なんですか?
おそらく平均年収1,600万ぐらいでしょう。
そんなにあるんですか!
はい。
じゃあグローバル競争で勝つには、そこにメスを入れるしかないと。
それしかないです。
でも何のために勝つのかっていうと「働いてる人に安定した生活」をもたらすためでしょ。本末転倒じゃないですか。
公開企業だから、四半期ごとの業績をよくするっていうのが第一義の目的ですね。
じゃあ頑張って会社に収益をもたらしたところで「自分に返ってくるわけじゃない」ってことになりますね。社員にしてみたら。
まあ構造的にそうなってますから。
今必要とされている若い人も、将来的には同じことが起こるわけですよね。
大企業自身が「もう終身雇用は約束できない」って言ってますから。
社員の側から見たら「ひどい裏切りだ」って感じですけど。そもそも上場企業に就職したのが間違いなんですか。
途中で変わっちゃったんですよ。30年前に味の素に入った人たちは「よし、これでもう安泰だな」って思ってたはずなので。
途中で変えるのは酷いじゃないですか。
まあそうなんですけど。もはや味の素でさえ「将来は分からない」ってことだと思いますよ。
じゃあ安定を求めて大企業に入ること自体「もはや意味がない」ってことですか。
イエス。そのとおりです。
逆にオーナー企業のほうが安定してるかもしれませんね。「うちは社員ファーストでいくよ」ってオーナーが言ってる会社。
意外に中小企業さんでそういう会社はありますよ。
ありますよね。まあその方針がずっと続くかどうかは分かりませんけど。
続く・続かないで言ったら、大企業も中小企業も分からないですよ。
そういう時代ですもんね。
はい。大きいところは大きいがゆえのデメリットあるし、小さいところは小さいところなりの不安定さがあるし。
メリットと感じる人もいれば、感じない人もいる。つまりその人次第。
たとえばどんなメリットがあるんですか?
株を持ってたら公開した時に売却益が入ってきますし、「上場に携わる」という仕事自体に価値を感じる人もいます。
売却益なんて、創業者とかオーナーに比べたら微々たるもんですよ。
まあ微々たるもんですけどね。でも、それが「自分がやってきたことの証」になるんじゃないですか。
そんなもんですかねえ。
上場を目指すスタートアップって、短期間でどんどん求められる仕事が変わっていくので、すごく勉強になります。
つまり、いろんな体験ができて「自分の市場価値が上がる」ってことですよね。
そのとおりです。
確かに「スキルや経験が蓄積される価値」はあるかもしれないです。でも会社の利益を増やすことに関しては、社員にあんまり価値がない気がします。
まあ社員はそう思ってしまいますよね。
これまでは「会社の利益=社員の未来の安定」という図式だったじゃないですか。でも今は一致してませんよね。
してません。
「会社に利益残すために頑張れよ」っていう言い方では、もう社員はついてこないでしょ?
無理ですね。
会社に利益を残すことが「いかにあなたたちのメリットか」ってことを訴えないと。
かつての日本型経営って「会社が潤えば、われわれも潤う」「みんな家族」という考え方が、大企業も含めてあったんですけど。
それに代わるものが必要ですよ。
まあ単純に考えれば、収益が残るってことは「ビジネスとして正しい」ってことなんですよ。
ビジネスとして正しい?
たくさん利益が上がるってことは、お客様も満足していてそのビジネスが正しいというひとつの証拠。
まあそうでしょうね。
その正しいビジネスの「組み立てに携わっていた」ということ自体が価値となる。
ということは「会社の利益が増える」ことに価値があるんじゃなくて、「利益をもたらすスキルが自分にある」ってことがマーケットでの価値になると?
そう。そのとおり。
だから「利益に貢献することには価値があるよ」ってことですか?
「自分が関わった仕事で出した結果です。証明としてこうなっています」と。
「あなたの貢献は無駄にはならない」と。
おっしゃるとおり。収益上げたことに貢献したってことは、自分の市場価値の証明でもあるってことです。
なるほど。じゃあ、どんどん転職したほうがいいですね。価値を高めていって。
転職しないで収入を増やせる人は、ごくごくまれな時代になるんじゃないでしょうか。
自分の収入は自分で上げろと。
まったくもってそのとおり。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。