2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第146回「終身雇用の番人」
サイボウズで「新卒を取締役就任させる」というニュースが流れました。
はい。
新卒に年収1,000万払う大企業も出てきて。これもその一環ですか?
そうだと思います。マイクロソフトがなぜGoogleに後れをとったのかという分析があるんですけど。
ほう。
その中に「マイクロソフトは職位が上がるほど、レイヤーが上がるほど、ネットサーフィンしない」という理由があるらしいです。
ネットサーフィンしない?
つまり会社のレイヤーが上がれば上がるほど、情報感度が鈍いっていう。
面白い考察ですね。
マイクロソフトだって若い人はネットサーフィンして、いろんな情報収集をしてるはずなんです。けどそれが吸い上がらない。
なるほど。
たぶんサイボウズは「君たちの意見や考えのほうが新しいから、僕たちに教えて」ってことだと思う。
ひとつ確認したいんですけど。
なんでしょうか。
これは「優秀な子がいたから取締役にする」ということなのか。それとも「取締役を前提に今までいなかった人を採用する」ということなのか。どっちなんですか?
前者だと思います。
「これほど優秀な新卒なら、いきなり取締役でもいいだろう」ってことですね。
とにかく「偉い人だけで会社の方針を決めると間違える」というふうに、トップは考え始めてる。
トップはかなり危機感を持ってるんですね。
もちろん。だから似たようなことをどこもやってるわけです。伊勢丹も新入社員を講師にして、課長以上がトレンドを学ぶってことをやってます。
新入社員が課長に研修するんですか?
「いまのファッショントレンドは君たちがいちばん詳しいから、教えてくれ」「何がどうなってるの?いま」って。
すごいですね。どんな研修なんですか。
「いまはこんなふうにモノを選んでます」「こんなのがいいと思ってます」という研修。実際かなりの人数が聞きに来るんですよ。
三井物産でも「30歳の人を部長にする」って話が出てましたね。これも根っこは同じですか。
同じです。
じゃあ三井物産も、新卒がいきなり取締役になる可能性がある?
三井物産は無理だと思います。
無理ですか。
三井物産はさすがに人数が多いので(笑)ただ三井物産って、商社業界ではトップを取れる分野がなくなってきてて。どのカテゴリーも3番手4番手なんですよ。
へぇ~。天下の三井物産が。
だから若返りをすごく意識してますね。いまは退任されましたけど、前の安永社長はたしか取締役32人抜きだったかな。
とはいえ50代でしょう。
そうなんですよ。おっしゃる通り。
たとえば、サイボウズがこんなこと出来るのは、やっぱりベンチャーだからですか。いわゆる昔ながらの大企業では難しい?
トップのガバナンスによりますね。ただ方向としてはそっちに行くと思います。
へえ。そうですか。
はい。ジョブ型採用がもっと進めば。
メンバーシップ制では無理だと。
「勤続何年=ロイヤリティ」みたいな形になってるから。そこの殻を破れないんじゃないかと思う。
「30歳で部長級」というのを三井物産が打ち出しましたけど。これは20代で辞めてしまう若手に「30歳で上げるから辞めないで」というメッセージですか。
そうです。「優秀だったら部門を任せるから、部署を任せるから」って。
それで思いとどまりますかね。
何百億というサイコロを振れるわけですから。ビジネスのレバレッジが利くので、やりたいという人は当然増えますよ。
その場合、いままでの部長職とか、いままでの取締役と比べて、報酬はどうなるんですか?
会社によりますけど当然報酬は上がります。ガーンと。
ガーンと上がりますか。たとえば30代で年収3,000万4,000万取る人も出てくる?
十分にあると思います。
へえ。
三井物産の部長であれば2,500万から3,000万ぐらいの年収なので。
それが30歳でも可能だと。
可能だと思います。
そうすると同期の中で「ものすごい差」が開いていくじゃないですか。
はい。
スペシャルな人材も必要でしょうけど、「その他大勢」もいないと大企業は回らないですよね。
もちろん。
現実的には手足もないと動けないわけで。じゃあ、言ったことを言ったとおりやる人が98パーぐらいいて、1・2パーセントのスペシャルな人がいる感じ。
そうなるでしょうね。
ジョブ型採用になった場合、いわゆるゼネラリストはどうなりますか?
年収は下がりますし、その前にまずゼネラリストの人数を減らすと思う。
へえ。
大企業はもう、自前で人を育てることをしなくなると思う。
なんと。
作業レベルの仕事をやってる人は、大企業でも500万ぐらいが精一杯ですね。管理職も最少の人数でいい。
マネジメントは誰がやるんですか?
スペシャリストのいちばん上が「スーパーゼネラリスト」になります。マネジメントできて、企画やれて、ビジネスつくれて、プレゼンもうまい。マーケティングもわかるっていう人。
そんなスーパーマンみたいな人、ほとんどいないでしょう。
はい。だからマネジメントなしで回る現場が増えると思います。
マネジメントなしで回せるんですか?
AIとの組み合わせですね。
AIとの組み合わせ?
はい。つまりAIと一緒に番をする人が必要になってきます。
番をする人?
AIの指示に従ってスペシャリストに連絡したり、スペシャリスト同士を繋げていく役割ですね。
それはいわゆるマネージャーとは違うんですか。
自分の頭で考える必要がないので。年収500万ぐらいの終身雇用の番人ですね。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。