第169回「会社と社員のチキンレース」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第168回「メガバンクの最終形態」

 第169回「会社と社員のチキンレース」 


安田

ホンダがついに本気のリストラに乗り出しましたね。

石塚

すごいですよ。あれは。

安田

なんと、1億円近い退職金が出るって話で。本当なんですかね。

石塚

本当らしいですよ。“億り人”がたくさんできるって。

安田

リストラされて億万長者になるって、すごい話ですよ。

石塚

僕なら真っ先に手を上げます(笑)

安田

やっぱりホンダも“できる人”から辞めていくんですか?

石塚

自動車業界って2030年に完全EV化があるじゃないですか。

安田

はい。

石塚

電気自動車って部品の点数が燃料エンジンと全然違うんで。3万点必要なものが2万点以下で済む。

安田

そんなに減るんですか。

石塚

はい。そうすると要らなくなるわけですよ、あらゆる技術が。だから申し訳ないけど、いままでの人はぜんぶいらない。

安田

トヨタの社長は「100パーセント電気自動車なんて無理だ」って言ってますけど。

石塚

ホンダは電気自動車のさらに先、空飛ぶ自動車の開発を本気でやってるんです。

安田

なんと!

石塚

しかも電気ですよ。

安田

電気で空飛ぶんですか!?

石塚

そうです。

安田

へぇ~。

石塚

まあガスタービンとのハイブリッドらしいけど。そうすると、もう車の文脈はいらないんですよ。むしろいままで傍流だったホンダジェットとか。

安田

ホンダジェット?

石塚

小型ジェット機の開発を北米で頑張ってきた会社です。このホンダジェットで培った技術とハイブリッドさせて、まったく新しいものをつくろうとしてる。

安田

エンジン関係の人材はもう要らないと。

石塚

新しい人材だけにしたいんですよ、ホンダは。

安田

今回は1,000規模のリストラ予定に2,000人以上の応募が来たそうです。

石塚

それは来ますよ。

安田

億ですからね。今後もリストラはつづきますか?

石塚

でしょうね。

安田

エンジンメインでやってきた人たちがいなくなり、まったく新しい商品をつくるための人材に入れ替わっていくと。

石塚

そう。

安田

いまいる人材に新しいことをやらせるのはダメなんですか?

石塚

無理でしょう。まったく違うから。

安田

入れ替えたほうが早いと。

石塚

そう。早い。

安田

そうなってくると「なんのための会社員だったんだ?」ってことになりませんか。

石塚

従業員側からして?

安田

はい。理不尽な業務命令でも、転勤を命ぜられても、言われたとおりにやってきて。ずっと会社に居続けることを前提に頑張ってきたわけですから。

石塚

これまではそうでしたけど。「状況が変わったからごめんね」ってことでしょう。

安田

「ごめんね」じゃ済まないですよ(笑)

石塚

経営陣にも危機感があるんですよ。あまりにもイノベーションが急激に起こってるから。

安田

世界のホンダですらそうなんですね。

石塚

恐ろしい時代ですよ、安田さん。

安田

とはいえリストラなんてやってない大企業の方がまだまだ多いです。

石塚

いずれ明日は我が身ですよ。もちろん、どの業界、どのポジショニングかにもよるんですけど。外部環境の変化が本当に急に起こるので。

安田

確かにそうですよね。

石塚

「自動車のエンジンを使っちゃいけない」「燃料を燃やしちゃいけない」って世界でコンセンサスが得られた以上、まったく違うことをやらなきゃいけない。

安田

そこはもう変えようがないと。

石塚

変えようがない。

安田

トヨタの社長がいくら怒ってもだめだと。

石塚

無理でしょうね。世界の潮流なので。

安田

家電はほとんどダメになって。自動車もダメとなると、下請けも含めて大変なことになりますね。

石塚

はい。

安田

日本経済への打撃ってもの凄いんじゃないですか。

石塚

ものすごいですよ。部品メーカー3万社以上が消えると予想されています。

安田

ですよね。

石塚

これまで調子がよかったから裾野も広い。ここに何百年かに1回の技術革新が起こり、コンセンサスを世界で得てしまった。

安田

日本経済の根本構造が変わっていっちゃいますね。

石塚

いま業績がいい会社もいつどうなるかわからない。だから「なるべくいろんなことをやっとこう。いろんな事業に分散投資しよう」って必死です。

安田

どの大企業も経営トップは必死なんですね。

石塚

だからホンダも本気なんです。ゼロから出直すぐらいの覚悟で「次の時代で必ず勝者になるぞ。空飛ぶ車で世界を席巻するんだ」っていう。

安田

だけど、そうなると誰のための会社継続なのか。「いざという時でも雇用が継続される」ということを信じて利益を蓄えてきたのに。

石塚

だから、いっぱいお金払って「これで勘弁してくれ」ってことですよ。最後はお金で解決するしかないでしょう。

安田

約束を守れなかったから「1億円払うよ」ってことですか?

石塚

「まあ、1億くれるんだったらここで収めとこうか」ってことです。

安田

なるほど。でも2,000人ってことは2,000億円ですよ。まだまだリストラは始まったばかりだし。どれだけお金がかかるか。

石塚

もちろん金額は減らしますよ。

安田

リストラの退職金ってだんだん減っていきますよね。

石塚

はい。間違いなく減っていきます。

安田

そういうものなんですか。

石塚

リストラって流れが大事なので。

安田

流れ?

石塚

「安田さんが今回早期退職に応募するらしいぜ」「じゃあ俺も外出ようかな」っていう、この流れが大事なわけです。

安田

流れに乗らないと「だんだん減っていくよ」っていうメッセージですか?

石塚

おっしゃる通り。会社と従業員のチキンレースですよ。

安田

なんと。

石塚

奥さんも「あなた次は8,000万よ。これ逃したら次は6,000万かも」「もう早く辞めちゃってよ」って。

安田

すごい時代ですね。

石塚

はい。すごい時代です(笑)

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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