2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回は 第221回「採るべきはCOO」
第222回「大企業のトップ人事」
かっぱ寿司の社長が逮捕されちゃいました。
もともと「はま寿司」の役員だったんですよ。安田さん、はま寿司って、どこのグループかご存じですか?
いえ。知りません。
はま寿司はゼンショーグループ。すき家を展開しているグループです。
いろいろやってるんですね。
いろいろやってるんですよ。で、カッパ・クリエイトは、もともと大宮本社の独立系会社だったのをコロワイドが買収して。
へぇ~。コロワイドって他にはどんな店をやってるんですか。
いっぱいあるんですけど。たとえばレインズの牛角もコロワイドが買収しました。
おお!牛角ですか。じゃあ、どっちも大きな組織なんですね。
日本の外食グループのトップクラスです。
トップ同士がこんなことしてるワケですか。
そうなんですよ。
つまり、はま寿司の取締役をかっぱ寿司が社長として引き抜いて、その人が前の会社から情報を持ち出したと。
不法に持ち出していたみたいです。
こんなスパイ映画みたいなことが日本でも起こるんですね。
そもそも幹部人材の転職として、はたしてこの人は能力を見込まれてヘッドハントされたのかどうか。
情報目当てだったってことですか。
「部下とか後輩とか、ゼンショーにいろいろルート持ってるだろ」って。情報収集の価値としてヘッドハントされたイメージですね。
違法行為はダメですけど。でも転職しちゃえば当然ノウハウや顧客は持っていきますよね。
取締役に関して言えば、同業への転職が禁止されてたりするんですよ。
このケースはOKだったんですか。
機密を漏らさなければ、ってことだと思うんです。
今回は何を漏らしたんですか。
仕入れ情報ですね。
そんなのが重要なんですか。
外食って、納入価格がすべての価格を決めるから。すごく重要なんです。
なるほど。
昔の部下のルートを通じて、納入価格を漏えいさせてたわけですよ。
それはいけませんね。
だから不正競争防止法に違反して逮捕された。社長が手錠をかけられるという犯罪事件になっちゃったわけです。
自分がいた頃の情報を持ってきただけじゃなく、ずっと情報を漏洩し続けていたと。
そうです。おそらくこの人の価値ってビジネスマンとしての価値じゃなく、ゼンショーにルートを持っている“インテリジェンス”なんですよ。
まだ若いですよね。確か40代。
そう。まだ若いのに、こんなのでビジネスマン人生を失って。
これってかっぱ寿司グループが「そこまでやるということを前提に」契約したんでしょうか。それとも業績を上げないといけないから自らやったのか。
両方あると思います。
両方ですか。
はい。コロワイドグループも当然、人材価値をあざとく利用するだろうし。で移ったほうも早く結果を出したいし。評価もされたい。
それでやってしまったと。
自分の息のかかった部下に「おい、商社からの納入価格教えろよ」みたいな。納入価格を知ってればそりゃ楽ですよ。商社とのやり取りとか。
なるほど。
これはもう反則ですね。
日本を代表するような外食企業なんですよね?
はい。
そういうところが、こんなブラックなことをするんでしょうか。
ある意味コロワイドグループの体質かもしれませんね。
だとしたら、これだけでは済まないかもしれませんね。どんどん出てくるかもしれない。
かもしれません。
これをOKしちゃう会社だったら、いろんな黒い部分がゾロゾロ出てきそうな気がします。
コロワイドグループってオーナー創業者がものすごく厳しいんですよ。オーナーから厳しく叱責されたくない、評価されたい、っていうところが大きいと思う。
オーナーの指示ってことですか。
オーナーが「スパイをしろ」とは言ってないと思います。でも、そういう圧力はあるから、なんとかして利益を出さないといけない。
忖度しちゃったワケですね。
かっぱグループは業績が低迷していて、社長が何人も替わってるんですよ。「自分はなんとか結果を出したい」っていうのが裏目に出たような気がします。
大手メーカーでも現場不正が問題になってますよね。数字を改竄したり。
はいはい。
品質を犠牲にしなければ、納期なり価格なりが実現できないというか。
同じ構造でしょうね。
上が「不正しろ」とは言わないんでしょうけれど。せざるをえない目標を突き付けてくること自体が、「会社としての体質に問題あり」って気がします。
そう思います。
この人が逮捕されただけでは終わらないかもしれませんね。
会社としてはこれで幕引きしたいんでしょうけど。
会社からのコメントも早かったですよね。「社長が変なことしちゃってすいません」みたいな(笑)
「うちの子会社の社長が勝手にやって、ほんとすいません!」「すぐクビ切りましたから安心してください!」「採用ミスなんです。誰だ!紹介したのは!」みたいな。
でもどうなんですか。逮捕されて「もう、ぶっちゃけてやろう」ってことになりませんか。「会社を挙げた体質でした」なんて言うかもしれないですよ。
「強要されてました」とかね(笑)これからゾロゾロ出てくる可能性がある。
同業他社から役員を引き抜くって、海外ではよくありますよね。
海外は普通です。そのかわり権利関係とか、やっていいことと、やっちゃいけないこととか、境目が法的にはっきりしてます。弁護士もついてるし。
今後は日本でも増えていくんでしょうか。欧米並みに同業で社長を奪い合うとか。
起こらないと思います。
起こりませんか。
起こらないと思う。外から社長が来てもまず機能しないから。基本的には生え抜きじゃないとトップマネジメントが許されないので。
社内から上がってきた人材じゃないと機能しないってとですか?
そうです。
それで機能していない会社が、すごく多い気がするんですけど。
そうなんですよ。内部人材ではもはや限界。なのに外部人材を起用しても機能しない。ちょっと答えが見えないですね。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。