第223回「国家を動かす人材」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第222回「大企業のトップ人事」

 第223回「国家を動かす人材」 


安田

河野デジタル相が公務員制度改革をやるそうです。

石塚

そうみたいですね。

安田

「霞が関をホワイトにする」って。せっかく優秀な人が入ってきても若手がどんどんやめちゃうみたいで。

石塚

将来のエースと言われている人ほど辞めちゃいますね。

安田

なんで辞めちゃうんですか。

石塚

いちばんは長時間労働でしょう。休日出勤もあまりにも多すぎる。

安田

今でもそうなんですか?こんなご時世なのに。

石塚

今でもそうですよ。

安田

国を挙げて働き方改革で「長時間労働はやめよう」「残業やめよう」と言ってるのに。

石塚

霞が関は例外なんです。

安田

そうなんですか。

石塚

はい。いまの時代には合わないです。それだけ働いて、これだけしかもらえないっていうのは。

安田

給料が安いんですか?

石塚

コンサルファームや外資金融にくらべたら、はるかに安い。

安田

高級官僚でも若いころは安いんですか。

石塚

若いころは安いです。霞が関って45歳からグッと伸びる仕掛けになってるんですけど。それまでは安いんですよ。

安田

45歳までいれば元が取れるってことですね。

石塚

いや、そこにも10年ぐらい前に抑制をかけた。

安田

じゃあいいとこなしですね。給料に関しては。

石塚

総務省の役人より、業者のNTTとかKDDIのほうが給料は高いです。

安田

そうなんですか!

石塚

だから嫌味を言うんですよ。「おまえらさあ」って。それを若手が聞いて「なんか嫌だなあ、こういう組織」って思っちゃう。

安田

残業や休日出勤は多いし、将来性もないし。ここまで働くんだったら外資に行ったほうが稼げると。

石塚

でしょうね。

安田

それで転職しちゃうわけですか。

石塚

そもそもスタートで「公務員になろう」って人も激減してます。

安田

へえ〜。官僚って、いわばエリート中のエリートですよね。

石塚

そうです。

安田

日本の未来を担っている仕事だし、ものすごくやりがいもあると思うんですけど。

石塚

現実はちょっと違います。「政治家のスピーチ原稿」ばっかり作らされて。

安田

うわさでは聞きますけど。それって本当なんですか。

石塚

はい。朝まで野党の先生の質問に付き合わされたり。時間拘束がめちゃくちゃ長いんですよ。

安田

野党の先生に付き合うんですか?意外ですね。

石塚

大臣が事前に野党から質問をもらうことになってるんですよ。

安田

え!そうなんですか。

石塚

だけどその質問がいつになっても出てこないっていう。ずっと待機しなきゃいけなかったり。

安田

つまり、先に渡された質問に「こう答えたらいい」という原稿を、官僚のみなさんが作文してるってことですか。

石塚

そのとおりです。

安田

大臣はそれを読むだけ。

石塚

まさにそうです。読むだけ。

安田

国会にも付き添うんですよね。

石塚

もちろん。

安田

読むだけなのに。

石塚

付き添いがあることが慣例なんですよ。

安田

凄いですね。大の大人に付き添いなんて。しかも大臣なのに。

石塚

そんな大臣ばっかりですよ。

安田

私でも大臣が出来そうですね。

石塚

安田さんは無理でしょう。好き勝手にしゃべっちゃうから。

安田

確かに。

石塚

自分の考えを持たず、原稿通りにやってくれる方が官僚としては楽なんです。

安田

恐ろしいですね。そんな人たちを我々は選挙で選んでるんですか。

石塚

そうですよ。

安田

渡された原稿を読んでるだけ。

石塚

はい。「この質問にはここを読んでください」って。

安田

もはや想像を超えてますね。

石塚

霞が関の官僚がうしろにいなければ大臣なんか務まりませんよ。一部例外はいますけどね。

安田

そういう仕事をやらされてることも辞める要因なんでしょうか。

石塚

それもあるでしょうけど。「長時間労働で、休日も縛られて、その割にこれしかもらえないのか」ってのが一番でしょう。

安田

仮に報酬がもっと増えれば定着率は上がりますか。

石塚

そう思います。だってほら、経産省キャリアが助成金を不正受給した事件があったじゃないですか。

安田

ありましたね。なぜこんなことでキャリアを棒に振ってしまうのか。

石塚

さっき言ったような背景があるから、ああいうふざけた人間が出てくるんでしょう。

安田

こんな安い給料で「やってられない」ってことですか。

石塚

いい大学を出て、国家一種試験に受かった割には「ぜんぜんペイしていないよな」って。

安田

国家として大問題ですね。

石塚

コンサルファームとか外資系金融に行くほうが、よっぽどスカッとしてる。あるいは起業するか。

安田

「自分が国家を動かしている」という満足感みたいなものはないんでしょうか。

石塚

あまりにも仕事が細分化されてるから実感できないんでしょうね。

安田

今回の公務員制度改革では「残業を減らす」という方向に行くんですか。

石塚

まずは常識的な労働時間にすることがいちばん大事ですよ。

安田

それは可能なんですか。

石塚

誰かがトップダウンでやるしかないですね。「仕事をぜんぶデジタル化させる」「もう紙で出すのをやめろ」と。完全に時代に取り残されてますから。 

安田

官僚さんから「休ませてほしい」という申し出はないんですか?

石塚

ムリムリ。ちょっと気に入らないことを言うと、「貴様!役人風情で俺にそんなこと言うのか!」「あっ、申し訳ありません安田先生!」って。

安田

ドラマみたいですね。「東大のエリートが官僚になっていく」という時代はもう終わりですか?

石塚

25年前にそれは終わってます。

安田

すでに終わってるんですね。

石塚

いま東大でいちばん優秀なのは起業する。次が外資系金融かコンサルファームに行く。その次に司法試験を受けて弁護士になる。ぜんぶ落ちた人が官僚になるんです。

\ これまでの対談を見る /

石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

感想・著者への質問はこちらから