2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第323回「大企業勤務者に必要なのは運?」
田辺製薬って三菱グループなんですか?
はい。正しくは三菱ケミカルグループの田辺三菱製薬ですね。
その田辺三菱製薬を売却するそうです。これはどういう理由ですかね?
製薬会社ってものすごく研究開発にお金がかかるんですよ。
儲かりそうなイメージですけど。1発当てたら濡れ手にアワみたいなビジネスで。
基本そうですよ。
ですよね。
だけど当たらないと儲からない。そして当たる確率はすごく低い。
そうなんですか。
仮に当たったとしても新薬承認までのプロセスがめちゃくちゃ長い。思わぬ副作用が出てきたり。だから1本の薬がきちんと市場に出る確率はものすごく低いわけですよ。
ドル箱になるまでが大変なんですね。だけどここまで大きな会社になってるってことは、すでにドル箱になってる薬もあるってことですよね。
あるにはあります。ただし必ず特許が切れるので。
特許が切れちゃうとジェネリックがどんどん出てきて。
そういうことです。だから常に新たな飯の種を作り続けなくちゃいけない。それが製薬会社の宿命でもあるわけです。
厳しい世界なんですね。
1000やって3つとかですね。99パーセント以上は無駄な仕事ですよ。
その開発費が重荷ってことで、三菱ケミカルグループが売却を決めたわけですか。
まだ決定してませんけど売却の方向ですね。
でも営業利益が562億も出てますよ。これでも新薬開発資金としては足りないってことですか。
ちょっと無理ですね。桁が違います。
なんと。
三菱ケミカルって本当に手堅い会社なんですよ。超絶ホワイト企業だし。新卒の就活では隠れた名企業の1つですね。
じゃあ採用レベルも高いんですか?
研究開発に東大・京大のマスターやドクタークラスが入ってきます。
超高学歴採用ですね。
開発職はそうです。でも意外と日東駒専以下も入ってる。社風はマイルドで給料は高い。社員満足度も高め。いい会社です。
就職先としては狙い目ですか。
狙い目ですよ。もう安定を絵に描いたような会社で。
そんな会社がなぜ製薬会社を買うようなギャンブルをしたんでしょう?
医薬品事業を持てばさらに安定すると思ったんでしょうね。だけど意外や意外、研究開発にこんな金がかかると思わなかった。
予想以上にリスキーだったわけですね。
そう。だから売っちゃおうと。長らく会社を支えてきた衣料品繊維事業も売ろうと。
売ってばかりですね(笑)
「もう工業用ケミカルに特化しよう」という流れでしょうね。
年間130名も採用してるみたいですけど。事業を売却したら人が余りませんか。
若くて優秀な人材はいくらでも欲しいわけですよ。
上の重たい人材が余ってきませんか?
だから事業部ごと売却するわけです。
そこにいる社員も?
全員丸ごと転籍になりますね。当然ですよ。
つまり事業売却して利益を得るだけじゃなく、余計な社員も一緒に売却してしまおうと。
安田さんさすがですね。その通りです。
全然ホワイト企業じゃない。
割り増し退職金も支払わなくていいし。ますますいい会社になっていきますよ。
残った人にとってはいい会社なんでしょうけど。どうやったら残してもらえるんですか?
そこはもう運ですね。大企業勤務なんて最終的には運ですから。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。