第360回「クビにならない会社について」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第359回「給食から考える行政の限界」

 第360回「クビにならない会社について」 


安田

長野県に「日本で1番大切にしたい会社大賞」に選ばれた会社がありまして。絶対に社員をクビにしない。給料も増やして働きやすい環境にも取り組んでいるそうです。

石塚

生産性が高いからこそ出来るんでしょうね。

安田

たった30人の会社ですけど、チタン加工や特殊な加工を小ロット多品種でやっていて。事業モデルが秀逸なんだろうと思います。

石塚

本当にいい会社なんだと思います。ただこういうニュースの表面だけ見て、「やっぱり雇用維持するべきだ」と安易に考えるのはどうかなと。

安田

おっしゃる通り。儲かっている会社だから出来る話で。

石塚

ちょっと意地悪ですが「本当に30人必要なのかな?」と思ったりします。今は儲かっているけど12人がベストなら12人にするべきだと思う。

安田

クビにしないことが必ずしも重要ではないと。

石塚

僕はそう思います。

安田

この会社は10年で売り上げが1.6倍になり、経常利益も3600万から9300万に増えたそうです。

石塚

逆に言うと利益を増やすことが出来たから雇用も維持出来るわけです。

安田

どっちが先だってことですね。社員をクビにしないと宣言したことで「みんなで前向きに頑張ってこうなりました」という記事なんですが。本当にこうなるのか。

石塚

社員が頑張ってくれたところで、ビジネスモデルが優れていないとどうしようもない。

安田

社員がビジネスモデルを考えてくれる訳でもないし。

石塚

無理でしょうね。これは長野県という県民性もあると思いますよ。

安田

県民性ですか?

石塚

長野は非常に保守的ですから。「社員を減らした」となったら途端に白い目で見られる。そういう県民性の影響もあると思います。

安田

とは言え儲かっていないと出来ないですよね。

石塚

おっしゃる通り。この会社は事業戦略として当たったから出来ただけ。そもそも1つの会社に雇用の責任を負わせるべきなんだろうかって、僕は疑問ですけどね。

安田

転職が必ずしも悪いことではないですからね。

石塚

地方はもっと人を流動化させて、給料もそれなりに出るところに移っていけばいいんですよ。

安田

私もそう思います。よほどのビジネスモデルがないと生涯保証なんて出来ないですよ。

石塚

絶対にクビにしないっていう心意気はいいけど、変化の激しい時代の経営指標にはすべきじゃないと思う。

安田

そうですよね。最小限の人数で最大の利益を上げていくことを目指さないと。

石塚

スキルをつけて転職しようと思えば出来る状態が理想です。クビにしないんじゃなくて、クビになっても全く困らない状態を作ってあげる。その方がよほど安定する。

安田

こういう会社に限って、社員が辞めると経営者が恨んだりするじゃないですか。

石塚

おっしゃる通り。いびつな関係になっていくんですよ。この記事に出てくる法政大学の坂本光司先生の講演を聞いたことあるんですけど、開始15分で違和感を感じました。

安田

どういうお話だったんですか。

石塚

要するに「経営者がちゃんとしていれば人をクビになんかせず、いい会社が作れる」って話です。

安田

じゃあ「自分でやってみてください」って感じですよね。

石塚

評論家の話だなって思いました。時代も変わるしそうはいかない。そもそも人を大切にするってずっと雇い続けることなのかと。

安田

昭和はそうでしたよね。

石塚

そう。だけど令和は違う。令和はむしろ自分の力で年収を上げていく前提。「良かったよこの会社に5年いて。スキルアップできたので卒業します」みたいな。

安田

キャリアアップしていくための踏み台になってあげた方がいいですよね。

石塚

基本的にこれからは卒業モデルですよ。「雇用契約は最長10年にする」というのが私の持論です。それが日本を良くする方法だと信じています。

安田

新たなスキルを身につけて次のステージでもっと稼いで。それを実現できる会社が「いい会社」と呼ばれるようになっていくと。

石塚

中小企業は縮める時代です。要らないものは全部外注化してなるべくダウンサイジングする。最小人数で最大の売り上げ、最大の利益を追求する。これが中小企業経営の肝ですよ。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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