7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第87回「営業という職種の未来」
最近、日本全国で営業マンの数が減ってるらしいです。
ああ、はいはい。想像はつきます。
ピークで468万人いたのが、いま336万人しかいないっていう。
へえ、そんなデータがあるんですね。
どうしてだと思います?単に「営業」という肩書きを付ける人が減っただけなのか。それとも、もう「人間が売る」という仕事自体が減っているのか。
後者だと思いますね。
これまでは「優秀な営業マンがたくさんいる会社=営業力のある会社=業績のいい会社」でした。
ですね。野村證券しかり、光通信しかり。
そのモデルがもう成り立たないってことですか?
まずセキュリティやコンプライアンスの問題で、部外者が簡単に会社に入れない。大手町に飛び込みにいったって、ぜんぶ受付でシャットアウト。
昔は「保険のおばちゃん」がオフィスの中でウロウロしてましたよね。
ああいうセールスはもう大企業ではできなくなりました。それだけでも大きいと思いますよ。
石塚さんの予想では、今後はさらに「営業マン」と呼ばれる人は減っていきますか?
減りますね。減るんだけど逆にニーズは高まる。
どういうことですか?
営業マンって100点の人もいるけど、40点ぐらいの人もいる。で、40点は40点なりに40点分ぐらいの売上をあげてきたじゃないですか。
そうですね。
でもいまの時代って二極化してる。売れる人はすごく売れるけど、売れない人はまったく売れない。
確かに。
売れない営業は「割増退職金払うから辞めてください」っていう時代。
大手はそうなりつつありますね。
そうなると「腕がいい人」にニーズが集中する。そしてどんどん希少価値が出てくる。
じゃあ本物の「プロ営業マン」は生き残ると。
残りますね。間違いなく。
それってどのぐらいの割合なんですか?全体の1〜2割ぐらい?
うーん……営業って、ものすごく幅が広いので。
まあ、そうですよね。
デリバリーと伝票付けだけでも「営業」って呼んだりしますし。
それって営業マンとは言わないですよ。
いや一応、営業職ですね。ルートセールスという営業です。
なるほど。じゃあ、どこまで含めるかによって営業マンの母数が変わってしまうと。
はい。難しいところですね。
ルートセールスのような仕事は「もうネットでいいよ」ってことになりませんか。
おっしゃるとおり。そうなりつつあります。
営業マンって、プロ野球選手と違って「まったく営業に向いてない人」でも、プロとしてお金をもらって来ましたよね。
はい。営業の世界って「セミプロ」と「アマチュア」だらけ。ほとんどそんな人しかいない。
そういう人たちが営業という仕事から「どんどん外されていく」ってことですね。
会社にも雇う余裕がなくなってるし。仕組み化なり、SNSなり、ネットなり、スマホなりに、どんどん移ってる。
ということは、スキルのある「本物の営業マン」は残っていくけど、「なんちゃってプロ」だった人たちは、どんどん仕事がなくなると。
そうです。
仕組み化されて、要らなくなってしまう?
はい。
「20年間営業しかやってません」みたいな人たちって、どうなるんでしょう?
もう、聞くだに目頭が熱くなってきます。
どうしようもないと?
はい。残念ながら。
でも世の中のいわゆる営業と言われてる人って、半分ぐらいはそんな感じですよ。
いや、もっと多いです。営業って、できない人は本当にできないので。
事務職なら「できない」なりに何かの役には立ちますけど。営業って売れないと何の役にも立たないですよね。
まあ、デリバリーと納品と伝票を兼務して「営業」と名乗る人は、一定数残ると思いますけど。
営業力がなくても?
商品がいいから「営業がダメでも売れる」っていうケースもあるので。
まあ、ありますよね。
あと「シェアの大半を抑えてて、嫌でもここから買うしかない」ってのもあります。
でも、それって営業と呼べるんですかね?
名前だけですね。形式上、便宜的に、営業という肩書きだけ付けておく。
いま保険業界では店舗型が増えていて、「窓口で相談にのるだけの人」ってすごく給料が安い。
そうなりますよね。最低限の知識があれば誰でもいいので。
「営業マンとしての価値はない」という判断ですよね。
おっしゃるとおり。
これまでは「見込み客づくり」「商品説明」「クロージング」と、ぜんぶ営業マンがやってきましたけど。
これからは仕組みでほとんど吸収しちゃうでしょうね。
商品説明なんて、ヘタな営業マンより動画のほうがよく分かるし。
商品説明が残るのは「売りづらい商品」だけ。そういう商品は人のスキルに依存してるので。
まあ、人間が介在しないと売れにくい商品ってありますよね。
そこはどうしても、なくならないんじゃないかな。生命保険なんかも、人に依存する部分は大きいです。
そうですか。
人生に直結してますからね。「おまえに言われたくないよ」って思われたら終わり。
確かに。じゃあ損保とかは?
もう仕組みで十分ですね。
ちなみにBtoBは「絶対に人間じゃなきゃ」って部分がありそうですけど。どうなるんでしょう?
いわゆる購買部門はネット取引がかなり進んでます。何らかの「気づき」や「プラスアルファ」を求める商品は属人的な営業が残るでしょうけど。
BtoBの場合は「長い付き合いによる信用」で成り立ってる部分が大きかったですけど。
エリアによりますね。東京は関係性よりも性能や中身で決めていく。関西はどちらかというと「この関係をずっと維持したい」っていう圧が強い。
なるほど。じゃあ地域によっては残るってことですか?
関係性を重視する会社はそうでしょう。ただし担当者が生きてる間だけでしょうけど。
じゃあ死んだら終わり。
担当者が死ぬか配置換えしたら終わり。ジ・エンド。
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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。