この対談について
国を動かす役人、官僚とは実際のところどんな人たちなのか。どんな仕事をし、どんなやりがいを、どんな辛さを感じるのか。そして、そんな特別な立場を捨て連続起業家となった理由とは?実は長年の安田佳生ファンだったという酒井秀夫さんの頭の中を探ります。
元官僚という立場からいろいろなお話を伺ってきましたが、今回は「官僚は選挙をどう考えるのか」という点について聞いていきたいと思います。
なるほど。これもまた難しい問いですね。
というのも私、選挙のたび当たり前に自民党が勝つのを不思議に思ってまして。
確かに民主党が単発的に勝ったこともありましたけど、政権が戻ってからはずっと自民党が勝ってますよね。
そうなんですよ。ネットには自民党へのネガティブな意見も多く書かれているのに、いざ選挙になればやっぱり自民党が勝つ。こういう状況では官僚さんも、「次も自民党が勝つ」という前提で仕事をしたりしているんですか?
いや、そもそもどこが勝つかによって仕事内容が変わることはありませんから。最終的に意思決定をするのは政治家ですが、役所としてのあるべき姿は変わらないので。
でも最終決定をするのが政治家なら、トップが変わって政策がリセットされる可能性もゼロではないってことですよね。
確かに、例えば大臣が交代すれば、官僚にとっての上司が代わるわけですから、方向性が多少変わることはあるでしょうね。ともあれ、部下としても「致し方ない」という気持ちというか(笑)。
でも、例えば共産党が政権を取ったら、根底からガラッと変えられるんじゃないですか? 彼らは現政権の政治を大いに批判しているわけですから。で、実際そうなったら官僚さんは、共産党の進める「国づくり」に力を貸すんでしょうか?
う〜ん、共産党という組織はちょっと特殊なので、「そもそも官僚を使うのか」という議論が出る可能性もありますけど。一般的な日本の制度を前提としている政党が政権を取った場合、官僚は当然その政党のためにできることを考えるでしょうね。
やっぱりそうなんですね。そういう意味では、官僚さんは特定の政党を応援していたり、ここに勝ってほしいとかは思ってないってことですか。
もちろん官僚も人間なので、個人的な主張は様々ありますよ。民主党政権に変わる少し前には、自民党びいきの人も、自民党は変えた方がいいって人も両方いましたから。
へえ。でも、「変えた方がいい」と言ってた人も、実際に民主党政権になって「これはダメだ」と感じたんじゃないですか?
まあ、そういう人もいたかもしれません。一方で、今でも「自民党じゃダメだ」と感じている官僚もいると思います。
なるほどなあ。ちなみに官僚さんって、民主党政権時代に行われた「事業仕分け」についてははどう捉えてるんですか?
その頃には既に現役の官僚ではなかったので直接はわかりませんが、単純にダメだったということではなく、評価はバラバラでしょうね。事業仕分けの中身と進め方とに分けて議論した方が良いとも思います。
あれは官僚さんが作った予算配分を疑うところから始まってるわけですよね。単純に考えて、それってものすごく嫌な気分になりませんか? しかもあんなに大々的に報道されて。
いや、一概にそうとも言えないというか。「行政がやってきたことはキチンとチェックしましょう」という取り組みは、民主党政権になる前からやっていたことですから。監査するための部局もちゃんとありますし。
ああ、なるほど。振り返ってチェックをするプロセスは、元々やっていたことではあるんですね。
ええ、そのプロセスはどうあるべきか? どんなロジックで進めるか? については意見の分かれるところで。
あの事業仕分けは、民主党によるパフォーマンスのような側面もありましたもんね。
確かにそうかもしれませんね。でも事業仕分けも目立たないところでまじめにやっていたりもするんです。カメラが入ってない下準備のところでは、きちんと有識者の方を入れてチェックして、結果それまで行政にはなかった新しい視点を得られたこともあったと聞いてますし。
なるほど。パフォーマンスだけじゃなく、ちゃんと成果もあったと。まあ、考えてみれば行政のあり方をチェックする仕組みは絶対必要ですもんね。民主主義には必須というか。
そう思います。ただ事業仕分けにも明らかな問題点はあって、通常の公の場での政治家とのやりとりには出てこない現場の課長クラスが対象なんですよね。政策については詳しいけど、「その政策が必要かどうか」、「どのように対外発表するか?」までの決裁権はないというか。
え、そうなんですか。逆に決裁権がある人というと、つまりは大臣とかですよね。
大臣、副大臣、政務官か、少なくとも局長クラス以上の人ですね。本来はそういう人と議論すべきところを下の立場の人に聞いていた、という感じです。
それはそうですよね。普通の会社で例えると、会社の重要な意思決定について、社長ではなく課長さんや係長さんに聞いてる感じですよね。そして、判断しようがない彼らを公衆の面前に引っ張り出し、「どうなってるんだ!」とみんなで怒ると(笑)。
もちろん、彼らは一つの政策の責任者ではあるのですが、その一つの側面だけを強調され、衆人環視の中にさらされ、しかもその答弁が繰り返し報道される。それはやっぱり心情的にも苦しかったと思います。
自民党がその後ずっと政権を取り続けているのは、そういう部分も含めた民主党に対する悪いイメージが理由なんでしょうか?
う〜ん、政権については、そもそも野党に本気で政権交代する意思があるかどうかという問題がありますね。
えっ、野党はみんな政権を取る気なんじゃないんですか。
もちろん政権を取った先を考えている政党もありますけど、「野党のままでいい」と思っている政党もあるように思えるんですよ。
ああ、言われてみれば共産党も「たしかな野党」と自分たちを表現していますもんね。
ええ。それに国民から見ても、「今自民党から変わったとしてもまともに政権運営ができる政党があるとは思えない」という状況ではあると思います。
ああ、確かに。よく言われている「投票すべき野党がない」ということなんですね。う〜ん、となると現実問題、自民党からどこかに政権交代する可能性なんてあるんでしょうか。
いや、その可能性は十分にあると思いますよ。さらに言うと、完全な政権交代でなくても、今の連立与党の構成が変わるだけで政権交代に近い印象になると思いますね。少なくとも世間的には。
ああ、なるほど。自民党が大負けしてどこかの野党が過半数を取るというよりは、自民党とどこかの党が組んだ新しい形の政権もあり得るわけか。
そう考えると、今後の政治についても可能性が広がりますね。では次回は、「正しい予算配分」について聞いてみたいと思います。
対談している二人