第15回 生産性を上げる方法

この対談について

国を動かす役人、官僚とは実際のところどんな人たちなのか。どんな仕事をし、どんなやりがいを、どんな辛さを感じるのか。そして、そんな特別な立場を捨て連続起業家となった理由とは?実は長年の安田佳生ファンだったという酒井秀夫さんの頭の中を探ります。

第15回 生産性を上げる方法

安田
今回は「生産性」についてお聞きしたいんですが。日本が生産性を上げていくためには、フリーランスなど雇用以外の働き方を増やした方がいいじゃないかと思ってまして。

酒井
雇用の場合はどうしても「労働時間に対して賃金を払う」制度ですからね。生産性を考えると「成果に対して報酬を払う」ことが必要でしょうね。
安田
ええ、まさに。そこで聞きたいんですけど、「国民一人当たりの生産性を増やす」という目標のために、国としてフリーランスを増やそうという意思はあるんですかね。

酒井
「生産性を増やす目的」でフリーランスを増やすという議論はされていないと思いますね。どちらかと言うと、雇用に比べて「立場が弱く守らないといけない存在」と捉えられてますから。
安田
確かに、なんかこき使われているようなイメージがあるかもしれない。そういう弱い存在じゃなく、「強いフリーランス」というか、稼ぐ力のあるフリーランスを増やしていくようなことは考えないんですかね。

酒井
日本の労働法制としてはどうしても「弱い人を保護する」という基本方針があるので、「強いフリーランス」は守る対象から外れてしまうんですよね。
安田
なるほど。確かに守るべきフリーランスというか、非正規雇用の人もたくさんいますもんね。

酒井
法律が守ろうとしているのは基本的にそこの層ですから。一般的には正規雇用より非正規雇用の方が給料が低いというイメージですし。
安田
そうなんですよね。ただ私が知っている限り、一番稼いでいる人たちは誰にも雇われてないんですよ。企業経営者然りスポーツ選手然り。

酒井
確かに、個人で年収2000万とか3000万とかのフリーランスの方もたくさんいますからね。
安田
ええ。収入面で見ると「雇われてる人」は中間層というか。最近、私の周りでフリーランスの方が増えてきてるんですけど、独立して収入上がってますからね。

酒井
会社員時代に黒字社員だった人は、年収は倍増するでしょうね。逆に会社員時代に赤字社員だった場合は、むしろ下がってしまう場合も多そうです。
安田
まあ、そういう人は今まで通り雇用で働いてもらって、フリーになった方が収入が2~3倍に増える人にどんどん独立してもらう。そうすれば日本の生産性を上げることにつながるんじゃないかというのが私の考えなんです。

酒井
仰る意味はわかります。確かに個人としての生産性は上がると思うんですよ。ただ、黒字社員が次々とフリーランス化することが「日本全体の生産性」を上げるかというと、少し疑問が残るというか。
安田
そうですか? 稼げる人が収入を増やせば、「国民の数×一人当たりの生産性」である日本の生産性が上がることになるんじゃないんですかね。

酒井
そうなんですけど、例えば1億人のうち500万人の収入が10倍になったとしても、それによって残りの9500万人の収入が半減したら、全体としてはマイナスになりますよね。
安田
ああ、会社の黒字社員が一気に抜けちゃうと、企業の収益がガクンと落ちるじゃないかと。結果、大勢の人の収入が下がってしまう。確かにそれはそうかもしれませんね。

酒井
私が役所時代に考えていたのが、時価総額が100億円くらいの立派なベンチャーを起業した人が10人いたとして、その人たちが10兆円規模の大企業の執行役員になれば、10兆円を20兆円にすることもできるんじゃないかと。
安田

時価総額が100億円のベンチャーってなかなかないですからね。そんな優秀な人が大企業に入れば大きく生産性を上げられると。


酒井
ええ。自分1人でゼロから作るから100億円止まりだけど、それだけ優秀な人に手足となって動いてくれる大勢の社員がいれば、1兆円が10兆円に、10兆円が20兆円にもなるんじゃないか。だったら、やるべきなのは大企業を活性化させることだと。
安田
それは私も正しいと思います。

酒井
ただ、いろいろ試した結果、それは難しいんです。ベンチャーを起業するような人の気質や個々の能力の差もあって、なかなかうまくいかない。
安田
まあ確かに、そういうベンチャータイプの経営者は、大企業には行きたがらないような気もします。

酒井
ええ。なので、個人の幸福感を追求するにはフリーランスを増やした方がいいと思うんですけど、日本全体の生産性を上げるには、むしろ優秀な人にはサラリーマンで留まってもらった方がいいんじゃないかと私は思ってます。
安田

なるほど。そう言われてみると、優秀な人が大きな会社で働き続けることも必要だという気がしてきました。ただ、サラリーマンから経営層に行ける人って一握りですよね。


酒井
そうですね。普通に入社してそこまでいくのは大変でしょう。時間もかかるし、運も必要です。優秀であればあるほど、そういう働き方に疑問を持ってしまうかもしれない。そこも難しいところの一つです。
安田

「フリーランスの経営者」みたいな感じはどうなんでしょう。大企業の子会社の社長を3~4年契約でやって、業績が上がったらまた別の会社に行くような。


酒井
ああ、「プロ経営者」のような働き方ですよね。いいとは思うんですが、フリーになった途端に会社より個人の利益を追求し始める人もいるので、人材選びには注意が必要ですけど。
安田
「ニセモノのプロ経営者」ですね。

酒井
そうですね。とはいえ、「プロ経営者」として長期的な視点で考えられる人って、逆に流動しづらいという側面もあるんですよね。流動するのは個人の利益を追求するタイプが多い。そういう構造的な課題もあるので、流動させる仕組みを作らないといけないかもしれないですね。
安田

そうですね。それに、外部から連れてきた人をいきなり経営者として迎えられる会社も少なそうです。相当に優秀な人じゃないと、「この人に任そう!」とはなりませんよね。


酒井
ああ、その点で言うと実は逆なんですよ。私の尊敬する方が「大企業8掛けの法則」と言ってたんですけど、大企業の社長は自分の0.8倍くらいの能力の人を後継者にしたがるそうで。自分より優秀な人を据えるのは怖いんですって。
安田
えっ、0.8倍じゃ、どんどん悪くなるじゃないですか(笑)。
酒井

そうなんですよ(笑)。その法則でいくと3代後には半分以下になってしまう(笑)。だから今後生産性を上げていくには、自分より優秀な人に仕事を任せる度量が求められるのかもしれません。

安田
保身に走らず、組織を成長させていくという意識を持てるかどうかということですね。う〜ん、意外とそこが一番のハードルなのかもしれないですね(笑)。

対談している二人

酒井 秀夫(さかい ひでお)
元官僚/連続起業家

Twitter  Facebook

経済産業省→ベイン→ITコンサル会社→独立。現在、 株式会社エイチエスパートナーズライズエイト株式会社株式会社FANDEAL(ファンディアル)など複数の会社の代表をしています。地域、ベンチャー、産官学連携、新事業創出等いろいろと楽しそうな話を見つけて絡んでおります。現在の関心はWEB3の概念を使って、地域課題、社会課題解決に取り組むこと。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

Twitter  Facebook

1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

感想・著者への質問はこちらから