第30回 教育に必要なのは「その他」の選択肢

この対談について

国を動かす役人、官僚とは実際のところどんな人たちなのか。どんな仕事をし、どんなやりがいを、どんな辛さを感じるのか。そして、そんな特別な立場を捨て連続起業家となった理由とは?実は長年の安田佳生ファンだったという酒井秀夫さんの頭の中を探ります。

第30回 教育に必要なのは「その他」の選択肢

安田
最近は「言われたことを指示通り真面目にやるだけ」では収入が増えない時代になってきましたね。にも関わらず、主体性のある人はなかなか育たない。その根本は日本の教育にあると言われていますけど。

酒井
確かに一理あると思います。日本の教育はとかく「教えたとおりにやれ」というスタイルで、独自の方法で問題を解いたらバツになったりする。答えが合っていても、です。
安田
恐ろしいですよね。そして、そのやり方に慣れてきた人がいい大学、いい会社に進んでいく。

酒井
ええ。こんな状況では、主体的な人が出てくるはずありません。
安田
そうですよね。そんなことは誰が見ても明らかなのに、なぜ教育システムを変えようとしないんでしょうね。

酒井
私の友人がまさに同じような問題意識を持っていて。「若いうちからプレゼンテーション力を持とう」「自分の意見をどんどん言おう」と、いろんな学校で出張授業をやっているんです。
安田

へえ! そうなんですか。やはり注目されているテーマなんですね。


酒井
そうなんですよ。彼はちょうど自治体や全国でのシンポジウムも終え、もう一段階話を進めようと、役人や政治家、実業界の方々と意見交換をし始めているようです。
安田

なるほど。ちなみにどんな意見が挙がっているんですかね。


酒井
皆さん、教育について意見はあるのですが、具体的な変革方法に踏み込むと、全ての当事者が、「どうやって変えていけばよいのかわからない」という感じのようでして(笑)
安田
そうなんですか(笑)。でも逆に言えば、それくらい難しい問題だということですよね。小手先で解決できるものではないと。

酒井
そういうことですね。ともあれ考えてみると、日本の教育って何十年ごとに大きく変わってはいるんです。例えば最近だと、「道徳教育に力を入れよう」という流れがありました。
安田
ああ、確かに。前には「ゆとり教育」なんかもありましたよね。

酒井
そうそう、だから変化させようとはしてるんです。ただ、文科省が新しい学習指導要領を作って配布しても、いざそれを学校で教えるとなると、なぜかうまくいかない。
安田
ほう、それはなぜなんですか?

酒井
まず、現場の先生は、慣れの問題もあり、これまでの教え方から大きく変えるのは難しいですよね。出版社も、学習指導要領に基づいた教科書を大きく変更できるかというと難しい。で、仮に、そういった教科書を作ったとしても、各市町村の教育委員会がそういった先進的な教科書を選ぶかというと、そこも難しい。
安田
ああ……つまり、関係者が多くて、なかなかすぐには変革できないと。

酒井
まさにそうなんです。文科省がせっかくいい方向性を決めても、それがそのまま現場の学生たちに反映されない場合があるんですよね。教科書の件は例ですが、文科省、教科書会社、教育委員会と現場の先生、そして生徒、と多くの人が関わる中で、様々な分断が起きてしまう。ここが解消されない限り、国レベルでの教育変革は進まないんじゃないかなと。
安田

なるほどなぁ。なかなか根深い問題なんですね。その一方で、たとえば大谷翔平のように世界で活躍する日本人は増えていますよね。


酒井
ああ、将棋で8冠を獲った藤井聡太さんもいますし。
安田
そうそう。彼らを見ていると、一般的なやり方というより、自分のやり方でスキルアップしているように思えるんです。これを学校教育の場で考えるなら、大事なのは「この方向で教育しなさい」という1つのグランドプランではないようにも思うんです。むしろ学校ごとに教育方針がバラバラでもいいんじゃないかと。

酒井
なるほど。それらを比較検討して、自分に合った教育方針の学校を選べばいいと。
安田
そうそう。今は選択肢が少な過ぎると思うんです。どこへ入っても一緒、どこで学んでも一緒という感じで。もっとハチャメチャなことを教えてくれる学校があってもいいのに。

酒井

確かに。実際、ネットを活用した「N高」にあれだけ人が集まっているわけですからね。

安田

仰るとおりです。そういう意味では、まさに多様性が求められている時代なんだなと。


酒井

そうかもしれません。ただ、元役人という立場から言わせてもらうと、文科省はこう考えているんだと思うんです。「今までとは違う教育を受けたいならN高に行けばいい。民間が既にサービスを始めているのだから、行政が何かする必要性はない」。

安田

酒井さんが言うと説得力がありますね(笑)。


酒井

少し別の視点の話をすると、いま不登校がかなり増えてますよね。それを否定的に捉える向きもありますが、「不登校を許容する文化ができた」とも言えるわけです。

安田

ああ、確かに。保健室登校やフリースクールなど、柔軟な対応が見られるようにはなってますもんね。


酒井
ええ。とはいえそれはやっぱり一部の自治体に限られていて、全国すべてで同じことができるかというと、それぞれ事情があってなかなか難しい。
安田

行政は基本的に全国一律で変えなければいけない。そこが難しさのひとつなんでしょうね。ちなみに教育方針を作っている文科省の役人さんたちは、「自分の子供にもぜひこの教育受けさせたい!」と思っているんですかね。


酒井
どうでしょうね(笑)。ともあれ官僚といっても年収が少し高いだけのサラリーマンのようなものなので、金銭的な意味でもあまり選択肢はないように思いますね。インターナショナルスクールや海外留学をポンと決められるような状況にはないというか。
安田
ははぁ、なるほど。普通のサラリーマン家庭と同じように、近所の公立、ちょっと頑張って都内の私立、くらいなんでしょうか。
酒井

そうですね。そもそもそこまで教育に問題意識を持っていないかもしれない。例えば医者が自分の子どもを医者にしたがるケースは多いですけど、役人が子どもを役人にしたがることって、あんまりないですから。

安田
ええ、そうなんですか! それって大問題のような気が……。だって、自分の仕事を子どもにおすすめできないってことですよね。
酒井
いや、仕事の内容というより、忙しすぎることが理由な気がします。毎日仕事が膨大にあって、子どもや家族と一緒に過ごす時間もなかなかとれない。そんな道を子どもに歩ませたくない、という感情なんだと思います。

対談している二人

酒井 秀夫(さかい ひでお)
元官僚/連続起業家

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経済産業省→ベイン→ITコンサル会社→独立。現在、 株式会社エイチエスパートナーズライズエイト株式会社株式会社FANDEAL(ファンディアル)など複数の会社の代表をしています。地域、ベンチャー、産官学連携、新事業創出等いろいろと楽しそうな話を見つけて絡んでおります。現在の関心はWEB3の概念を使って、地域課題、社会課題解決に取り組むこと。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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