第34回 3万本の橋が崩壊する日

この対談について

国を動かす役人、官僚とは実際のところどんな人たちなのか。どんな仕事をし、どんなやりがいを、どんな辛さを感じるのか。そして、そんな特別な立場を捨て連続起業家となった理由とは?実は長年の安田佳生ファンだったという酒井秀夫さんの頭の中を探ります。

第34回 3万本の橋が崩壊する日

安田

全国にある3万にも及ぶ橋が、一気に崩壊する可能性があると言われています。しかし日本にはそれを修繕する予算がありません。酒井さんはこの状況、どうなっていくと思いますか?


酒井

そうですね、橋だけでなく道路や上下水道といったインフラ全体が維持できないかもしれない状況ですね。

安田

確かにそうなんですが、私たちは朽ちていくのを見ていることしかできないんでしょうか。


酒井

そうだと言わざるを得ない状況です。特に地方の小さな町や村では、十分な修繕をする余裕がないと、そう遠くない未来に「人間が住みづらい場所」になっていくでしょうね。

安田

なるほど。しかしそうだとすると、今までのように全国に散らばって暮らすのは難しくなりますよね。まぁ、既に人口は都会に集中していますけれど。


酒井

ええ、難しいでしょうね。被災した地方の路線などでは復旧費用の捻出に困難している例もあり、今後は復旧せずそのままなくなってしまうような事態になるかもしれません。

安田

思った以上に深刻な状況なんですね。でもどうしてこんなことになったんでしょう。


酒井

国の予算というのは年度内の使い切りが原則で、基本的に積み立てができないからです。

安田

えぇ⁉︎ 橋や道路の修繕費って積み立てしてないんですか?


酒井

そうなんです。いざお金が必要になっても、後の祭りです。
そうなんです。もちろん、修繕計画に従って毎年修繕の予算はありますが、単年度ベースですから、今後修繕件数が増えたとしても、その時に十分な予算がとれるかどうか……

安田

いや……それはマズイじゃないですか。橋や道路が劣化するのは目に見えているわけで。高速道路とかはよく工事してますけど。


酒井

ええ、高速道路は有料なので、ちゃんと修繕費を確保できるんです。

安田

ああ、なるほど。稼ぎがある道は大丈夫だと。


酒井

シンプルに言えばそういうことですね。大分県の県営の水力発電事業では、監査を行っていた会計士の方の発案で、水力発電で得られた利益をきちんと施設の修繕費に充てるシステムに変更した例があります。

安田

なるほど、それはいいですね。というか、普通はそうやってあらかじめ算段をつけてから作る気がしますけど。修繕予算が出ない橋や道は「傷んできても放置する前提」で作ったんですか? という話になってしまう。


酒井

高度成長期に道路や橋をたくさん作っていた時には、修繕する将来の費用とかまでは深く考えてなかったかもしれませんね。

安田

うーん、それって国として大問題な気がするんですけど。だって、人や車がいるときに橋が崩落でもしたら、大変なことになりますよ。


酒井

仰るとおりです。なので田舎の道や橋では、危険なので通行止めにしているケースも多いですね。とはいえ、他を通ると遠回りになるので、危険を承知で歩いている地元の人もいるとか聞いたことがあります。

安田

うーん。仕方がないんでしょうが、かなり不便ですね。


酒井

もうそういうことを言ってられない状況なんです。もしその不便を解消したいなら、今までの二倍三倍の住民税を払ってね、という話になってしまう。それに、修繕が必要な橋や道路は無数にあるわけで、住民がいくら税金を払っても追いつかなくなるでしょうね。

安田

仰っていることはわかるんです。でも何らかの対策はできるんじゃないですか? たとえば国債をたくさん発行するとか。


酒井

もちろん現実的にはそういう対策になるとは思いますが、国債も予算も限界があるので、優先度の低いところまではなかなか手が回りませんよね。

安田

確かに……。そうなると、やはり放置するしかないと。


酒井

そうですね。昨今の厳しい経済状況を見ても、10年後20年後にこの予算が増えているとは思えない。

安田

そうですよね……。かといって現代人は、橋や道路がなかった不便な時代には戻れませんしね。今後、私たちは都会に住むほかないのかもしれない。


酒井

近い将来、そうなってくるでしょうね。修繕費だけではなく、さまざまなインフラ、公的サービスをまかなうために住民税を10倍にします!と地方自治体が言えるとは思えませんし、そもそも住民側も納得しないでしょう。

安田

でもそれは国が望んだことなんですかね。だんだんと地方に住めなくなって、都心に移り住んでいくことを国は望んでいるのかな。


酒井

もちろん望んだわけではないけれど、仕方がなかったという感じでしょうね。ものすごい田舎に住めなくなるのは仕方ないと思えても、10万人以下の都市がそうなったらみんな驚くでしょうね。北海道の状況を見ていると、その日は近いのかもしれない。

安田

確かに驚きます。北海道のみんなが知っているような都市に住めなくなるなんて、想像すらしていませんでしたから。


酒井

ええ。一方で、「あまり人の住んでいない地方を守るために増税します!」という政策を打ち出しても、誰も納得しないでしょう。国民は国民で、自分の生活に精一杯なんですから……つまり日本はもうそういう状態だということです。

安田

ああ、国の予算の話になると、明るい話にはなりませんね(笑)

 


対談している二人

酒井 秀夫(さかい ひでお)
元官僚/連続起業家

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経済産業省→ベイン→ITコンサル会社→独立。現在、 株式会社エイチエスパートナーズライズエイト株式会社株式会社FANDEAL(ファンディアル)など複数の会社の代表をしています。地域、ベンチャー、産官学連携、新事業創出等いろいろと楽しそうな話を見つけて絡んでおります。現在の関心はWEB3の概念を使って、地域課題、社会課題解決に取り組むこと。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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