その昔、京都大学に西田幾多郎という哲学の先生がいまして。この方は「善の研究」で有名な研究者ですが、興味を持って学んでいる中で「真善美」とは、「真」イコール「善」イコール「美」であることを知りました。

はい。たとえば最近、大企業でよくデータ偽装が起きるじゃないですか。これって真の反対の疑ですよね。

あれって、「これをやったらいけない」というのが分かっているはずなんです。けれど「真ではないけれども、会社の業績としては善だ」と思ってやってる。

そう。だけどその段階で「真」イコール「善」ではなくなっているわけですよ。

結局は、あとでバレて会社の信用を失うことになっていますよね。

数年前から、自動車メーカーのマツダが「美しく走る。」というキャッチフレーズを出しているんですけど。

背景にある文章をよく読むと「私たちは自分たちの美意識に寄り添って車を開発します」「万人に受ける車はつくれません。私たちの美学に共感してくれた人はマツダに乗ってほしい」というメッセージになっています。

これはあくまで「美」の打ち出しとしての例ですが、このメッセージのウラにはきっと「真」と「善」もあるはずなんですよ。他にも、大阪の帝塚山に福壽堂秀信という和菓子屋さんがありまして。

そこのパンフレットには「真善美」と書いてあって、そこには「真なるおいしさ、善なるあきない、美なるかたち」を大切にしていると。

和菓子って茶道の中でも使うので、季節を感じさせる色合いとか形とか、ぱっと見がけっこう大事なんですね。

そうなんですけど、美味しくなかったら良くないし、「売れるから」といって想定以上に高い値段を付けるのもおかしい。だから「真なるおいしさ、善なるあきない、美なるかたち」。

真善美をとてもわかりやすく表した和菓子屋さんのキャッチフレーズだなと思います。

すごく大事だと思ってます。よく流行りものに乗る人が多いじゃないですか。「タピオカミルクティー屋をやったら儲かるで」とか。

「それって真なんですか？」って言われたら、ちょっと違うかもと。

先ずは主観として、「真にあなたのやりたい商売なんですか、それは」っていうことが大事なんです。

そうですね。自分の気持ちに素直に沿っているかですね。

善は、船場商人がよく「三方よし」って言ってますよね。売り手よし、買い手よし、世間よし。

善というのは商いの態度・スタイルだと思ってまして。たとえばブームのときに1個2,000円で買えるたまごっちを2万円で売ったりする転売ヤーっているじゃないですか。

自分の儲けのためだけに不当な価格をつけて。そういうのは商人としては「善」ではないと思います。

船場商人が大切にしている暖簾に傷がつきますよね。つまり信用をなくしますよね。

思ってるんでしょうね。だけど善じゃないから絶対に長続きはしない。

それはべつに悪いことをしているわけではないので。大きな心で受け止められるといいですよね（笑）

善悪に関しては、ちゃんと日本の法律というのがありますから。人を騙すとか、人のものを盗るとか、人を殴るとか、そういうのはもちろんダメ。

はい。だからそこに「美」が出てくるわけですよ。

美学とか美意識というのは自分が決めることじゃない。まわりが「立ち居振る舞いが美しいね」とか「あの人の生き方は美しいね」とか感じること。

はい。それは品性とか品格というものにも繋がるかもしれません。

だから長期的には儲からなくなっていくんじゃないでしょうか。真偽、善悪に加えて、美醜という軸がとても大事だと思います。

そうかもしませんね。

そういう営業を繰り返していくと、どんどん信用を失って、そのうち誰も話を聞いてくれなくなりますよね。

そうなんです。

残念ながら真偽や善悪に比べて、美醜には明確な判断軸がないんです。

ないからこそ自分で磨かないといけない。たとえば美の研究をしていた柳宗悦が最後にたどり着いたのは「存在そのものの美しさ」でした。

そうそこに在るだけで美しいという考え方。また岡本太郎は「5～6歳のころに描いた絵がいちばんうまい」と言ってます。

そうです。そこにはなんの私利もないというか。

「これ」というのはないと思います。自分でも試行錯誤の毎日です（笑）

「美」は意識も含めているので、見た目だけではないんですよ。どちらにしても自分ではなく周りが決めるというところがポイントですね。

真善美は難しい。だからこそ逆におもしろいし奥が深い。これからの時代に改めて必要な考え方だと思います。