地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第11回 「見よう見まね」が、ポテンシャルを最大限に開花させる

そういえば以前スギタさんにオススメした『古武術に学ぶ 子どものこころとからだの育てかた』という本って、もう読まれました?

著者の甲野善紀さんは「武術研究者」なんです。元プロ野球選手の桑田真澄さんがジャイアンツの選手だった時代に、牽制球の投げ方を教えたという方で(笑)。

そうそう。犬や猫は泳ぐという行為が「本能」の中に刷り込まれているので、突然水の中に放り込まれても泳ぐことができる。でもアザラシやオットセイは、泳ぎ方を学んでいない状態で水の中に入れると溺れてしまう。そういう話でしたよね。

ええ。単に岸までたどり着くだけなら「犬かき」のような不格好の泳ぎでもいいけれど、魚を捕るためには複雑な泳ぎ方ができないといけない。で、そういう高度な技術は本能に組み込むことができないんですってね。

僕らのような職人の世界では、今まで「教えない」のが普通のことでした。新人は「見て学べ」「背中で学べ」の世界だったわけです。僕も先輩が作ったソースの残りを指で舐めて「何が入っているんだ?」「どうやって作ったんだ?」って、試行錯誤しながら成長したわけで。

そうなんですよ。とはいえ時代の流れもあって、僕の会社でも今は「手取り足取り教えるスタイル」になっていて。そうすると皆、ある一定レベルまではわりと短期間でできるようになるんです。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。