第11回 「見よう見まね」が、ポテンシャルを最大限に開花させる

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第11回 「見よう見まね」が、ポテンシャルを最大限に開花させる

安田

そういえば以前スギタさんにオススメした『古武術に学ぶ 子どものこころとからだの育てかた』という本って、もう読まれました?


スギタ

はい、読みました! 最初は古武術と子育てと何の関連があるのかと不思議でしたけど、すごく興味深い内容でした。

安田

著者の甲野善紀さんは「武術研究者」なんです。元プロ野球選手の桑田真澄さんがジャイアンツの選手だった時代に、牽制球の投げ方を教えたという方で(笑)。


スギタ

ありましたね、そのエピソード! 球界でもトップレベルに牽制がうまい桑田選手のフォームを見て「意外に遅いな」って思ったって(笑)。

安田

そうそう(笑)。その後桑田さんは、古武術的な動きを取り入れて素晴らしい成績を収められたと。


スギタ

真剣の話も面白かったです。普通は真剣よりも軽い竹刀の方が速く動かせるのに、甲野さんは真剣をものすごく速く動かすことができるっていう。

安田

実際私もそのワザを見せてもらったことがあるんですが、本当にすごかったですよ(笑)。


スギタ

え〜、いいなぁ(笑)。僕、この本を読んで、古武術にすごく興味が湧きましたもん。

安田

ぜひ甲野さんのところに入門されてみてください(笑)。あと「アザラシとオットセイ」の話があったの覚えていらっしゃいますか?


スギタ

ええ、「アザラシやオットセイは泳ぎ方を教えないと溺れてしまう」って話ですよね。生まれながらに泳げるわけじゃないんだって衝撃でした。

安田

そうそう。犬や猫は泳ぐという行為が「本能」の中に刷り込まれているので、突然水の中に放り込まれても泳ぐことができる。でもアザラシやオットセイは、泳ぎ方を学んでいない状態で水の中に入れると溺れてしまう。そういう話でしたよね。


スギタ

ええ。単に岸までたどり着くだけなら「犬かき」のような不格好の泳ぎでもいいけれど、魚を捕るためには複雑な泳ぎ方ができないといけない。で、そういう高度な技術は本能に組み込むことができないんですってね。

安田

そうそう、すごく面白いですよね。逆に言えば、本能に組み込まれていない「後天的」なものだからこそ、技術を高めていける。周りの仲間たちの泳ぎ方を見ながら、より上手に泳げるようになっていくと。


スギタ

それは人間も同じだって書いてありましたよね。言われてみれば人間って、本能でできることなんてほとんどないですもん(笑)。

安田

確かに(笑)。赤ん坊は歩くこともできないわけで。周りで歩く人を見て、だんだんと歩けるようになっていく。


スギタ

その流れで書かれていた「子どもには基本を教えてはいけない」という部分も、興味深かったです。

安田

変に体系立てて教えてしまうと、子どもの可能性を狭めてしまうという話ですよね。


スギタ

そうそう。子どもの自由にさせた方が、結果としてすごいことをやりだすようになるよって。これって、仕事でもそうだと思うんですよ。

安田

というと?


スギタ

僕らのような職人の世界では、今まで「教えない」のが普通のことでした。新人は「見て学べ」「背中で学べ」の世界だったわけです。僕も先輩が作ったソースの残りを指で舐めて「何が入っているんだ?」「どうやって作ったんだ?」って、試行錯誤しながら成長したわけで。

安田

なるほど。そうやって「自分で見つけ出す」ことが大切なんですね。


スギタ

そうなんですよ。とはいえ時代の流れもあって、僕の会社でも今は「手取り足取り教えるスタイル」になっていて。そうすると皆、ある一定レベルまではわりと短期間でできるようになるんです。

安田

ほう。ということは、「手取り足取り基本から教育する」というやり方も悪くないと。


スギタ

それが、ある一定レベルに達した後の伸びが鈍いんです。どうやったらもっとよくなるかといった「工夫」とか「応用」の部分が考えられないというか。それを身をもって感じているところですね。

安田

なるほど。何も教えてくれなければ「自分で探そう」と努力をするけど、1から10まで教えられてしまうと、そこの枠を出て考える気持ちがなくなってしまうのかもしれないですね。


スギタ

そうですね。で、それは子育ても同じだってことですよねきっと。

安田

そうそう。変に教え込むことなく、見よう見まねでどんどん体験させることで、子どもは自分に適したやり方を自分で見つけ出せる。


スギタ

そうなんでしょうね。でも、わかってはいてもいろいろと口を出したくなる気持ちもわかると言うか。

安田

それはそうですよね(笑)。「これはできていないと、あとで苦労するかも…」と思ってしまって。


スギタ

最低限、これくらいの勉強はできたほうがいいよなぁとか(笑)。

安田

そうそう(笑)。「英語もできたほうがいいんじゃない?」「スポーツも早くからやっていた方がいいんじゃない?」って、親からみた「最低限」がどんどん増えていっちゃいます。


スギタ

同感です(笑)。でもそこはグッとこらえる。で、子どもたちを「枠」にはめることなく、自分で試行錯誤することで能力を開花させて「超一流」になってもらう。それを目指しましょう(笑)。


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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