第13回 「お店に行く理由」がなければ、客は呼び込めない

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第13回 「お店に行く理由」がなければ、客は呼び込めない

安田

先日、スギタさんがシェアしてくださった「パン屋さんの倒産が急増している」という記事、大変興味深く読みました。スギタさんとしてもそのあたりは実感されています?


スギタ

そうですね。しかもパン屋さんに限らずケーキ屋さんもどんどん潰れていっている印象なので、ダブルで危機感が募ります(笑)。

安田

おっと、ケーキ屋さんもなんですか。


スギタ

ええ。というのも、原材料費の高騰が経営を圧迫している状況なんですよ。僕らがパンやケーキを作る時に使っているのって、ほとんどが輸入品なので。小麦、クリームチーズ、チョコレート、バニラビーンズやアーモンドなんかもそうです。

安田

なるほど。つまり円安の影響を直に受けてしまっているわけですね。


スギタ

仰るとおりです。そこに人件費の高騰も加わって……やがて耐えられなくなって倒産しちゃう。そういうケースが増えているんだと思いますね。

安田

ふーむ。長かったコロナ禍も終わって、商売的にはやりやすくなったと思っていたんですが、そうでもないと。


スギタ

ああ、それで言うと、我々にとってコロナ禍って意外とそこまでのダメージはなかったんですよね。

安田

あ、そうなんですか?


スギタ

もちろん影響がゼロだったわけではないですけど、他の業種に比べたらまだマシで。というのも、パンやケーキってもともと「テイクアウト」が当然だったわけですよ。

安田

ああ、確かにそうか! 「ステイホーム」が推奨される中では、むしろ追い風だったわけだ。


スギタ

そうですそうです。だから売上げ自体は好調なお店が多かったですし、イートインスペースがあるお店は助成金も出してもらえたりもしたので。ゼロゼロ融資を活用したりとか、そういう意味では、むしろコロナ禍があったことで経営を持ち直すことができたお店もあったくらいです。

安田

ははぁ、なるほど。一方で、コロナ禍の後にやってきた歴史的円安の方は、ダイレクトにダメージになったと。結果、それで廃業せざるを得ない店が増えているってことなんですね。


スギタ

ええ、ここ最近の流れで言えばそうなります。ただこの記事では言及されていないんですが、もう少し長期的な視点で見れば、実はコロナ禍よりもずっと前から倒産件数は増えていたんです。ケーキ屋もパン屋も。

安田

え、そうなんですか! それはコロナ禍や円安とはまた別の要因によるものなんですか?


スギタ

僕の見立てとしては、特定の要因があったと言うより、単純に「パン屋やケーキ屋に行くお客さんが減ったから」だろうと思っていて。お客さんを留める魅力がないから倒産してしまう。そういう意味では「内的要因」による倒産ですよね。

安田

ははぁ、なるほど。昔は「人通りがあるところで店を開けてさえいればそこそこ客は入る」という感じでしたけど、最近は何かしら「行く理由」がないと人は集まりませんもんね。


スギタ

そうそう。安田さんもよく仰っているじゃないですか。「なんでお客さんが来ないんだ」と悩む人がいるけど、逆に何の工夫もしないでなぜお客さんが来ると思っているの? って(笑)。

安田

ああ、なるほど(笑)。逆に「来店する理由」さえあれば、たとえ辺鄙な場所にあろうともお客さんは来ますもんね。


スギタ

そうなんです。つまりいかに自分たちの魅力を伝えられるか。それこそが集客の「真理」なんだと思います。

安田

ふむふむ。ちなみにケーキ屋さんにお客さんが「来店する理由」って、例えばどんなことなんですかね。やっぱり美味しさですか?


スギタ

うーん…そこは難しくて。というのも最近は「お店に行く理由」が単純に「美味しいから」だけではダメなんですよね。だって「美味しいものが食べられる場所」なんてそこら中にあるじゃないですか。

安田

まぁ確かに最近はコンビニでもそこそこ美味しいケーキが食べられますもんね。それで満足できる人は、わざわざ「あのケーキ屋さんに行こう」とはならないわけか。


スギタ

ええ。特に最近の若者はその傾向が強いと思います。そもそもの話、「ケーキ屋に行く」という習慣や発想がないんですよ。だからその世代にお店に来てもらうことはかなり難しい。でも興味深いことに、ライフステージが変わるとニーズも変わるんですよ。

安田

ほう。例えばどんな風に?


スギタ

わかりやすい例で言えば、結婚して子どもができると「子どものバースデーケーキを買う」というニーズが生まれる、みたいなことですね。

安田

ああ、なるほど。確かにそのニーズは、学生時代には出てこないものですね。


スギタ

そうそう。で、そういうニーズが芽生えた時に、真っ先に「じゃあのケーキ屋さんに行こうかな」と思い浮かべてもらえるような店になれるかどうか。それがすごく大事なことだと思っています。

安田

なるほどなるほど。来るべき「いつか」のために、潜在意識に『ハーベストタイム』を刷り込ませておくんですね(笑)。


スギタ

そうですね(笑)。まさにそんな感覚です。

安田

でもパン屋さんの「来店理由」だとまたちょっと違いますよね。ケーキは今仰っていたバースデーケーキのように「特別なときに食べるもの」って感じがしますけど、パンって「日常」じゃないですか。そういう意味では、毎日通ってもらうことも可能なんじゃないですか?


スギタ

いやぁ…むしろパン屋さんでパンを買うのって、すごく贅沢な体験だと思うんですよね。だってパン屋のパンって、スーパーやコンビニに比べると高いじゃないですか(笑)。

安田

ああ、確かにそうか。日常的に食べるものだからこそ、スーパーやコンビニで手軽に済ませてしまう人が多いわけだ。そういう意味ではむしろケーキ屋さんよりハードルは高いとも言えるわけですね。


スギタ

そういうことです。まぁパン屋にしろケーキ屋にしろ、そういったハードルを超えるだけの「来てもらえる理由」を追求していくこと。それが、倒産せずに生き残っていける唯一のカギなんだろうなと、僕は思っています。


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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