第32回 「自分のお店」になると、接客が変わる?

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第32回 「自分のお店」になると、接客が変わる?

安田

スギタさんが独立支援をした東広島市の『ninon patisserie(ニノン パティスリー)』の店長さんは、元々スギタさんの会社の「社員」でした。「店長」になって約3ヶ月経ちましたが、「社員の頃とはここが変わった」という部分はありますか?


スギタ

ありますあります。「お客様に対する接し方」がまるっきり変わりました! 「こんなに一瞬で変わるの?!」とびっくりするくらい、圧倒的に変化しましたね。

安田

ほう、そうでしたか。スギタさんのお店で働かれている方だったら、元から丁寧な接客ができていたんじゃないんですか?


スギタ

それはもちろんそうなんですけど……なんというか、現実的な話、社員の時ってどれだけお店が忙しくても自分の給料は変わらないじゃないですか(笑)。閉店間際なんかに来られるお客様なんて、言ってしまえば「煩わしい存在」で。

安田

「今帰ろうと思ったのにー!」って?(笑)


スギタ

そうそう(笑)。でも「自分のお店」になったことで、たとえ営業時間外でも、お客様が買ってくださることが自分の報酬に繋がりますし、もっと言えば、そのおかげでリピーターになってくださるチャンスもあるわけですよ。

安田

確かに。お店のファンを増やせるチャンスになりますね。


スギタ

仰るとおりです。だから社員の時以上に、めっちゃニコニコ接客しています(笑)。あとは口癖のように「本当にありがたいです」って言っていますね。お客様が来てくださること自体が奇跡なんですね、って。

安田

素晴らしいですね。「社員」という立場ではなかなかそこまで思い至らないでしょうね。「働いた時間分の給料が振り込まれるのが当たり前」って思っているところがありますから(笑)。


スギタ

そうなんですよ(笑)。僕としては普段から社員さんたちに「お客様が来てくださるのは当たり前じゃないんだよ」「お客様が購入してくださるから、僕らは生きていけるんだよ」って口うるさく言い続けてるんですけどね。なかなか伝わりきらない。

安田

ところが『ニノン』の店長さんは、「自分の店」を持ったことでそのあたりの意識も変わったわけですね。


スギタ

はい。14年間言い続けていてもなかなか変わらなかったのに(笑)、環境と立場が変わったことで、意識も一瞬で変わっていて。そこが僕にとっても新鮮でしたね。

安田

なるほどなぁ。ちなみに商品の価格設定についてはどうですか? 確か以前の対談では、店舗の内装やメニューは店長にお任せするけど、価格設定だけは一緒に考えさせてもらおうと思うって仰っていましたよね?


スギタ

まずは勉強も兼ねて、店長自身に全部提案してもらいました。同時に僕も近隣のお店をいろいろ見て回って調査していたので「これってもう少し高く値付けしてもいいんじゃない?」というのをいくつか口を出して。最終的には僕が決めた形ですね。

安田

ふむふむ。じゃあスギタさんが予想していた値段より高く値付けていた商品はなかったんですか?


スギタ

ありましたよ。「おぉ、その値段をつけるかぁ…」って(笑)。

安田

あったんですね(笑)。そういう時ってどうするんです? 「これは高すぎるから変更しよう」って言うんですか?


スギタ

いえ、そこはもうそのままですね。だって本人が「この価格でもお客様に評価してもらえるはずだ」って自信を持って付けた値段なので、そこは尊重したいなと。

安田

いいですね。ちなみに私も価格設定する時には「自分だったら欲しくなる値段の中で、1番高い値段をつける」ようにしているんです。


スギタ

やっぱりそうですよね。いくら自信があっても、「手が出せない価格」にしちゃうのはよくないですけど、「買える価格」の中で1番高い値段をつけるのって、大事ですよね。

安田

ちなみに「値上げ」することについても、なにか意識が変わっていましたか? 以前の対談では、社員さんって値上げに反対しがちだと仰っていましたけれど…。


スギタ

確かにそこも全然変わってきたかもしれない。適正価格で売りたいし、たとえ高い値段でも自信を持っておすすめしたい、という価格設定になっていましたから。

安田

なるほどなるほど。ここまでお話を聞いていると、やっぱり「社員」には越えられない壁があるんだろうと感じますね。


スギタ

僕も今回、そこはすごく感じました。「社員」という立場の中で「あれにチャレンジしよう」とか「もっとこうやってみよう」とか思っても、そこには限界があるんだろうなと。

安田

私の周りにも、会社員から独立して個人事業主やフリーランスで働き始めた人がたくさんいるんですが、仕事を受ける時の対応が明らかに変わりますからね。雇われ時代は忙しいことに不満タラタラだったのに、今は心から喜んで「ありがとうございます!!」みたいな(笑)。


スギタ

笑。そう考えると、やっぱり「雇用の壁」は大きいでしょうね。今回、『ニノン』の店長になったことで一瞬にして大きな変化が起こりましたし、きっとこの先もいろんな変化を見せてくれるんじゃないのかなというのは、期待しているところではあります。

安田

いやぁ、いいですね。しかもその変化を見て、今まで一緒にやってきた社員さんたちもきっと刺激を受けるでしょうし。私もこれからの『ニノン』と店長さんの成長を楽しみに見守りたいと思います!


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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