地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第34回 ビジネスの世界で食べていけるのは「何流」までの人?
いやいや(笑)。僕の体操歴なんて、高校生の時に「体操部」に所属していただけなのでせいぜい3年弱で。内村選手が小学生…いや、幼稚園生くらいの時にやっていたであろうことがギリギリできるレベルです(笑)。
ふーむ、それでも体操競技の種目は一通りできるんですよね?
部活でやっていたのは「ゆか・跳馬・鞍馬・鉄棒」だけなので、一応、4種目はなんとか…(笑)。
バク転やバク宙ができるだけで、私からしたら「雲の上の存在」ですから(笑)。でも昔スギタさんが「内村選手と比べたら、自分と安田さんは限りなく近い位置…ほぼ同レベルみたいなもの」って仰っていたじゃないですか。
言ってましたね〜(笑)。それくらいプロの選手はすごいってことです。
でもそれが私には衝撃で。一度も体操なんてやったことがない私と内村選手との間に大きな差があるのは当たり前ですよ? でも何年も体操をやっていたスギタさんですら、内村選手との差がそんなにあるのかと。
そうなんです。そもそも体操歴3年未満の僕とメダリストを同じ土俵で語ること自体、すごくおこがましい話で(笑)。
笑。というかスポーツの世界で「プロとして生活していける人=超超一流」はほんの一握りじゃないですか。つまり「普通の人よりはスポーツがうまい人」程度では、ガッツリ稼ぐことなんてとてもできない。
確かにそうですね。100mを11秒切って走れる人なんて、普通に考えたらめちゃくちゃすごい人ですけど、最近では10秒以下が当たり前なので、オリンピックに出場することすら難しい。で、プロになるのはさらにハードルが高いわけで。
まさにそうなんです。「プロのスポーツ選手」として食べていけるのって、上位1%どころか、0.0000…1%くらいの狭き門なんですよ。一方、ビジネスの世界で考えると意外とそうではなくて。例えば売上目標を達成できないようなレベルの営業マンでも、一応は給料がもらえるじゃないですか。つまりプロということですよ。
ああ〜、確かにそうですね。スポーツの世界のように「超超一流」でなくてもお金はもらえる。それで普通に生活ができるわけですから、確かにプロだ。
そうそう。だからある意味「ビジネスの世界って緩いな」って思っちゃうんですよ。もちろん「超超一流」のビジネスマンとして年収1億円稼ぐような人もいますよ。でも世の中の80%くらいの人は、言われたことをやっているだけでプロになれるわけですよ。
確かに確かに。スポーツの世界で考えるなら、「三流」あたりの人まで普通に食べていけてる感じですよね。
いや〜、もっと下じゃないですか? 私は「八流」くらいまでは食べていけると思っていますよ。
八流(笑)。
いずれにせよ、スポーツの世界のように「上位数%」に入れなくてもプロになれる、普通の生活を送るのに十分な報酬がもらえるのがビジネスの世界だと思うんです。ちなみにケーキ屋さんはどうです? やっぱり「スポーツの世界」のようにちゃんと稼げるのは一握りのケーキ屋さんだけですか?
いや、そんなことはないですね。もちろん「世界に名だたるケーキ屋さん」を作れるのは「超超一流」の人だけだ思いますけど。自分や従業員が食べていけるくらいの額を稼ぐのは、それほど難しくないと思っています。
なるほど。プロスポーツ選手のように上位、0.0000…1%までに入らなくても大丈夫だと。ちなみに上位何%くらいまでの人がいけそうですか?
どうだろうなぁ…。例えばウチのケーキ屋さんから今年1人独立していますけど、過去も合わせるとこれまでに4人独立しているんですね。しかもみんなちゃんと順調にお店の運営ができているので、そこまで狭き門ではないように思います。
数十人規模の組織の中から、すでに4人も成功者を排出しているわけですね。
そうなりますね。そう考えるとケーキ屋さんも「上位数%」に入らなくても十分にやっていける業界だと思います。
なるほどなぁ。スポーツの世界と比べれば、ビジネスの世界の方がはるかに「頑張れば誰にでもチャンスがある」世界なんでしょうね。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。