第35回 町のパン屋と高級パン屋の「ハイブリッド的パン屋さん」

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第35回 町のパン屋と高級パン屋の「ハイブリッド的パン屋さん」

安田

今日は『スギタベーカリー』さんがパン屋さんとしてどういうポジションを目指しているのか聞きたくて。ズバリ、「町のパン屋さん」なのか「高級パン屋さん」なのか、どちらでしょうか?


スギタ

うーん、高級路線というといわゆる「ブーランジュリー」だと思うんですが、それを目指しているわけではないですね。

安田

ブーランジュリーって「普段使いするにはちょっと敷居が高いパン屋さん」という印象ですよね。それこそクロワッサンが1つ数百円もするような(笑)。


スギタ

ええ。「ブーランジュリー」ってフランスで何年も修行してきた方が開くようなイメージで、僕自身はその単語にすごく敬意を持っているんです。ケーキ屋さんで言うところの「パティスリー」も同じなんですけど。

安田

なるほど。町のパン屋・ケーキ屋とは違う、ということなんですね。…じゃあ『ハーベストタイム』の店名にもパティスリーとは入っていないんですか?


スギタ

…いえ、昔は「パティスリー・アンド・レストラン」ってつけていました。今となってはよくそんな店名をつけられたもんだなと思ってますが(笑)。

安田

笑。とはいえ私にとっては『ハーベストタイム』も十分にパティスリー要素があると思いますし、『スギタベーカリー』もブーランジュリーだと思うんですが。


スギタ

いやいや、とんでもないです。そもそも本場フランスで「ブーランジュリー」をやっている人たちは「自分たちがフランス人の食、ひいては生活を支えているんだ」という自負を持ってます。そこまで言う自信は僕にはないですから。

安田

ふ〜む。かといって「町のパン屋」でもないじゃないですか。種類も豊富だし、かなり本格的なパンも作っている。店内もおしゃれで、値段もちゃんとお高め。これはやっぱり「町のパン屋」とは一線を画していると思うんですけど。


スギタ

まぁ、そう言ってもらえるのは嬉しいんですけど。うーん…ということはウチはハイブリッドタイプになるのかな。…ちょっと自分でもよくわからないです(笑)。そもそも「こういうポジションのパン屋を目指そう!」というのがあったわけでもないですし。

安田

ああ、そうなんですか。どういう路線でお店づくりをしていくか、特に考えていなかったと?


スギタ

あえて言うなら店名に「ベーカリー」と入れたことが、「このポジションを目指す」という僕らなりの意思表明だったのかもしれません。まぁ、祖父がやっていたのが「杉田ベーカリー」だったから、僕も「スギタベーカリー」って店名をつけただけではあるんですが(笑)。

安田

笑。ともあれその店名がお店の方向性を決めてくれたということなんですね。確かにそう言われてみると、スギタさんのパン屋さんは「スギタベーカリー」という路線のお店ですね。うん、それがしっくりきます(笑)。


スギタ

ありがとうございます。僕もこうしてお話しているうちに、ウチは「スギタベーカリーというポジション」のお店なんだなっていう気がしてきました(笑)。

安田

それは良かった(笑)。ところでスギタベーカリーって、町のパン屋よりもお店の規模が大きいじゃないですか。一方で、手作りにもこだわっている。普通、あれくらいのお店だったら全部イチから作ることはないようにも思うんですが、どうでしょう?


スギタ

いや、そういうお店も全国にたくさんあると思いますよ。ただウチの店くらいの規模が、一番経営が難しいと言われていることも確かで。この対談でも何度もお話してきましたが、パン屋はそれほど儲かるビジネスではないので…。

安田

つまり人件費がけっこうなコストになるってことですよね。小さなお店であればオーナー1人でやれるけど、スギタベーカリーさんほどの規模ならある程度人を雇う必要が出てくる。結果、経営的にすごく難しい判断を迫られるわけですね。


スギタ

仰るとおりです。お店の規模が大きいぶん人件費がかさむので、それで経営が立ち行かなくなり、廃業せざるを得ないお店も少なくないと思います。

安田

なるほどなるほど。でも、じゃあ尚更、手作りにこだわらない方がいいんじゃないですか? 外から仕入れる形にすれば、人も少なくてすむかもしれないし、出勤時間だってもっと遅くできるかもしれない。


スギタ

仰ることはよくわかるんです。でも実際は順番が逆なんですよね。最初は僕らもほとんどの具材を仕入れていた。でもだんだんと労働環境が改善され、効率化や時短ができるようになったことで、やっとスタッフに余裕が出てきて「手作りできる」状況になったんです。

安田

ふーむ、なるほど。つまり以前は「手作りしたかったけどできないから仕入れていた」わけですね。それがやっと「手作りできる」状況になった。…でもシンプルな話、なぜ手作りしたいんです?


スギタ

そちらの方が美味しいからです。まず最初にピザソースを自作したんですが、「やっぱり自分たちで作ったほうが美味しいね」ということになって。「じゃあ今度はカレーも作る?」とか「豚まんも作ってみたかったんだよね」というように徐々に作るものを増やしていった感じです。

安田

へぇ〜。というか市販のものと自分たちで作るものって、そんなに差が出るもんなんですか?


スギタ

全然違いますね。正直市販のものって「なんでこんな味になっちゃうの?」って不思議に思うくらいで(笑)。

安田

へぇ〜。でも確かにスギタベーカリーさんのパンってどこか違うんですよね。手作りにこだわっている分、ちゃんと美味しい。


スギタ

あ〜嬉しいです、ありがとうございます。あとは僕が「料理」からこの世界に入っているというのも大きいかもしれないですね。レストランで全部作っていた経験があるから「自分たちで作ったらもっと美味しくできるはず」という気持ちが強いのかもしれないです。

安田

ああ、なるほどなぁ。そういう想いもあるからこそ、「スギタベーカリー」という独自のビジネスモデルが作り上げられたのかもしれませんね。


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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