地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第36回 多店舗経営は考えていなけれど、新店舗オープンは考えている?
スギタさんの会社では今『スギタベーカリー』と『ハーベストタイム』の2店舗を経営されていて、過去にはカフェも経営されていたり、現在もスタッフの独立支援という形で新店舗もオープンさせたりしていますよね。今後はもっと店舗を増やす予定はあるんでしょうか?
うーん、いわゆる「多店舗展開」みたいなことをする気は全くないです(笑)。
そうなんですか。それはまたどうして?
単純にそこにモチベーションが湧かないからですね。もっとも以前、チェーン店を作りたいと「チェーンストア理論」を学びに行ったことはあるんです。でもよくよく考えたら、僕自身があんまりチェーン店には行かない人なんですよね。自分が魅力を感じてないのにそこを目指すのも変だな、と気づいてしまって。
そうでしたか。じゃあ例えば仮にものすごくいい立地を見つけたとしても、「スギタベーカリー2号店」とか「ハーベストタイム3号店」を出すことはないだろう、と。
やらないと思いますね。…ただ、実は今やってみたいお店がありまして。
へぇ〜、それはどんなお店なんですか?
バームクーヘンを1本ずつ手焼きするお店です。
バームクーヘンの専門店ですか! いいですねぇ〜。でもそれって今あるパン屋さんやケーキ屋さんでは作れないんですか?
もともと、平らな鉄板の上で生地を層にしていくことでできる「層状」のバームクーヘンは作っていたんです。でもやっぱり丸い形のバームクーヘンも作りたくて。
切り口が「木の切り株」みたいな形のバームクーヘンですよね? 時々店頭で、生地がゆっくりと機械で回されながら焼かれているのを見かけます。
そうそう。ただその機械が、どちらの店舗の厨房もパンパンで入り切らないんですよね。だから安く借りられる場所があればぜひやってみたいなと(笑)。
ふむふむ。でもどうしてバームクーヘンなんですか?
バームクーヘン、美味しいじゃないですか(笑)。僕、ケーキ屋のくせに甘いものはそんなに食べないんですが、バームクーヘンとシュトーレンだけは別で。個人的にめちゃくちゃ好きなんですよ。
うーん…私もたまにバームクーヘンを買いますけど、あんまり美味しいと思ったことがないんですよ。日持ちはするけどパサパサしているというか…。
きっと安田さんは本当に美味しいバームクーヘンにまだ出会ってないんですね(笑)。上質なバターを使って丁寧に焼いているお店のバームクーヘンはめちゃくちゃ美味しいですから。
そうか、まだ出会えてないのか(笑)。バームクーヘンをくるくる回しながら作っているところを見るのは好きなんですけどね(笑)。
わかります、いいですよね〜。僕はあの機械に大人の男のロマンを感じるんですよ(笑)。だから自分で1本ずつ手焼きで作ってみたくて。
ちなみにどんなバームクーヘンを作りたいのか、イメージはあるんですか?
一番やってみたいのが「ガトー・ピレネー」というもので。真ん丸ではなくてトゲトゲした形のものなんですけど。
ガトー・ピレネー…初めて聞きました。そのトゲトゲはどうやって作るんですか?
機械を回して遠心力をかけることで、生地が外に飛びますよね。それをそのまま焼き固めていくことで、ゴツゴツっとした仕上がりになるんです。
じゃあ食べる場所によって食感が変わるんですか?
そうですそうです。しっとりしたところとか、カリカリしたところとか。食感も味も全然変わってくるのが特徴なんです。
へぇ、なんだか美味しそうですねぇ。材料は何にこだわって作ります? やっぱりバターですか?
そうですね。バター以外にこだわりようがない気もします(笑)。というのもバームクーヘンってバター・小麦粉・砂糖・卵といったシンプルな材料しか使わないので。
シンプルだからこそ、素材にこだわった分だけ美味しいバームクーヘンができるんでしょうね。いやぁ〜、スギタさんの作るバームクーヘン、ぜひ食べてみたいです!
ありがとうございます(笑)。僕としては「多店舗展開していきたい」という気持ちは全くないですけど、「やってみたいお店」は今後も出てくるのかもしれませんね。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。